夕方五時
あの人は、いつも夕方の五時にやってくる。
蒼井玉兎がアルバイトをしている本屋は、表通りから二本奥に入った住宅地にある町の本屋さん。
優しげなおばあさんがお店番をしていて、奥に猫がいて、入ると本の匂いがして、冬はストーブで店全体が暖かいといういい店だ。
蒼井はそこで週に四日か五日、学校が終わってから二時間半ほどアルバイトをしていた。
「いらっしゃいませ」
カランと一度だけベルの音が鳴ってすらっとしていてかっこいい女性のお客さんがやってきた。
(あ!あの人だ)
彼女は毎日夕方の五時にやってきて、三十分くらいうろうろしたり立ち読みしたりする。
蒼井はおばあさんにああいう買わないのにやけに長くいる人はいいのかと聞いてみたことがあった。
『本屋がただの本屋になったときが、本屋が潰れるときなんだよ。
いいじゃないか。何も損はしていないんだから』
おばあさんはそう苦笑いしながら言っていた。
蒼井にはそのおばあさんの顔がひどく不思議に映ったが、彼女が来ることに不快感はなかった。
むしろ静かな中誰かがいるというのが心地よかった。
その人は、いつものように五時半ごろに帰って行った。
「ああ、あの子はもう帰ったのかい。」
ちょうどその時奥からおばあさんが出てきた。
「はい、ついさっき」
蒼井は外の看板を回収し、おばあさんはシャッターを器用に閉めた。
「明日、新学期だったか」
「はい。クラス替えです」
高校二年生に上がるタイミングで、文理と成績でクラスが分かれる。
蒼井は怖いと思いつつ少し楽しみにもしていた。
「楽しんで来んさい」
「ありがとうございます」
蒼井はスキップしたい気持ちを抑えて、家路を急いだ。




