第12話 - 消えた思い出 -
この頭痛が起きたのは、今回で二度目だった。
さっきまで賑わっていた祭りが、無音の世界へと変わり果てていた。
誰一人として、意識があるやつがいない。
急いで倒れている男に駆け寄り、声をかけてみる。
「おい、起きろ!大丈夫か!」
身体を大きく揺すってみると、目を覚ました。
「…いててて。なんだ、君は?」
頭を押さえながら、俺を見て不思議そうな顔をしている。
さっきの頭痛は俺ら以外のやつらにもあったんだろうか。
「一体、何があったんだ?おっさん!」
「何がって…。」
おっさんはまだ目覚めたばかりで、状況を飲み込めていなさそうだった。
「こんなとこで俺何してたっけな。」
「はぁ?」
意味が分からなかった。
なんで、覚えてないんだよ。
「いや、祭りに来てたんじゃねぇのかよ?」
「はぁ?祭り?君は何を言っているんだ?」
ルミは、目がぱっちりと見開いて、手で口を押えて驚いていた。
俺らは目を合わせ、きっと同じことを思った。
ーーまただ。
また、あの時みたいに俺らの記憶と、他の人らの記憶が違うんだ。
でも、おっさんは祭りの甚平を着ていて、お多福の仮面まで頭につけてやがる。
誰がどう見ても祭りに来ていたとしか言えないだろう。
でも、何回聞いてもおっさんは、祭りに来ていたとは言わなかった。
ルミは手を顔の前にやりながら、小さく声をこぼした。
「ヨミくんと、ミオちゃんは大丈夫かな…。」
そうだ。この祭りにはヨミもミオも来ていた。
「二人を探そう。」
俺たちは、必死にあいつらを探した。
次第に立ち上がる人たちの中に、ヨミらしき人を見つけた。
「おい!ヨミ!」
「おぉ、ミル!お前もここにきていたのか。」
この言葉を聞いて、俺は寒気がした。
やめてくれ。まさかお前…。
「それに隣にいるのはルミちゃんじゃん!初めましてだね。」
やっぱりだ。
こいつらも何も覚えていない。
ルミは、動揺したまま答えられないでいた。
ミオがそんなルミを見て、フォローに入った。
「ルミはお前みたいな男と喋らねぇの。ごめんねぇルミ。でも悪い奴じゃないから許してあげて。」
「….いや、そんなんじゃなくて。」
「まぁ、私らも帰りだから先に行くね。」
ミオはルミの浴衣姿には一切触れなかった。
さっきは、あんなに褒めていたのに、まるで何も見えていないようだった。
「なんで、こんなことが起きているの…。」
ルミがショックでその場にしゃがみ込む。
「ルミ!大丈夫か?」
「...ごめん。また私取り乱しちゃって。」
「いや、無理もない。俺だって訳がわかんねぇよ。」
「私たちの思い出、全部無かったことになっちゃったのかな...。」
「そんなことはない。少なくとも俺は全部覚えてる。」
「ミル...ありがとう。」
「でも原因を知らないとだな。」
「うん。そうだね。」
「一体誰が何のためにこんなことしているんだろうか。」
少し整理してみよう。
確か1回目は能力犯罪に巻き込まれた時。
犯人は、騎士団が食べ物をなくして人を殺しているって言ってたが、誰も覚えてなかった。
でも、この時に頭痛は起きなかったんだ。
次に、図書館で調べ物をしている時。
騎士団が人類を管理する使命がある記事を読んだら、読んでる文字が書き変わったんだ。
この時、初めて頭痛が起きた。
そして今日、この祭りの目的がお米の豊作を祈ることを知った時。
でも、これは何か文字が変わったりおかしなことはなかった。
ただ、また同じように頭痛が起きた。
全部に共通していること...。共通していること...。
俺が考えていると、ルミが声を出した。
「騎士団なのかな。」
「どうゆうことだ?」
「なんか騎士団が都合の悪い情報を消してるとか?なんとなくなんだけど。」
「じゃあ、あの時の犯人が言ってたことが正しいってことなのか?」
「….分からない。」
「…まだ分からないことが多いな。ただ、騎士団と能力犯罪が何か繋がっているのかもしれない。」
「もっと調べないとだね。」
騎士団と能力犯罪。
これから騎士団に入ると、嫌でも出くわしてくるだろう。
ヨミとミオ、そしてルミと過ごした大切な時間。
もうなくなってなんて欲しくないと思った。
だから俺は、この真相を突き止めて、こんなくだらないことは終わらせないといけない。
* * *
さぁ、遂に来たな。
今日が、聖騎士団ホーリーナイツの入団式だ。
騎士団本部の大聖堂へ向かおう。
大聖堂に到着すると、俺たち含めた200人ほどの新団員がいた。
みんな慣れない騎士団員の白い制服を着ている。
しばらくすると、横の大きな扉からどんどんと騎士団員が入ってきた。
「正義に誓いを!」と大きな声が聞こえた。
すると、新団員はみんな顔の前で右手で拳を作り、左手で包み込んだ。
俺も慌ててそれを真似する。
そういえば、前に学校の授業で聞いた気がする。
聖騎士団ホーリーナイツは正義の名のもとに行動することを誓うため、挨拶を時に拳を立てるって。
覚えていて本当に良かったな…。
試験の時に見た騎士団員も続々と入ってきた。
俺を認めてくれたティルさんや、人の心がない副団長の氷室ひむろセイ。
そして、誰よりも異質なオーラを放つ赤髪の男が入ってきて、教団に立って話し出した。
「俺が聖騎士団ホーリーナイツ団長の光照カガリだ。」
ここから、俺の新しい人生の幕が上がった。




