44.【番外編】ある花屋の恋慕の花⑤
番外編最終話です。
部屋には手紙を握りしめ顔を真っ赤に染めたマリーナいた。
「ちょっと……、本当に?」
手紙の主はフィンだった。一時帰省を終えヴァランデルに戻っていったフィンから手紙が届いたのだ。そこには、マリーナへの気持ちが綴られていた。
小さい頃からずっと好きだったこと、憧れ慕っていただけじゃなくて女の子として好きだったこと、久しぶりに会っても気持ちは変わっていないこと、かわいいと思う気持ちが増したこと、他の誰にもとられたくないと思ったこと、隣に立つのは自分でありたいこと、あの夜の誓いは本気であるということ。
とにかくマリーナを想っているのだということが綴られていた。
そして、封筒には押し花が一つ入っていた。
(花が一輪……。もしかして、『恋慕の花』のつもりなのかな……)
距離的に郵便配達に3日以上かかるだろう。生花は送れないと判断したのか、手紙に添えたかったからか、押し花にした一輪花が入っていたのだ。
「フィン……」
マリーナは押し花を見つめると彼の名前をつぶやいた。
実は花屋を夢見たのはフィンがきっかけだった。幼い頃、助けてくれたお礼にと両手いっぱいに抱えて、フィンは摘んできた花をマリーナにくれたのだ。マリーナが花をもらったのはそれが初めてだった。王都では『恋慕の花』の風習が浸透し、恋をした相手に花を贈るのだと町民が色めき立っていた。まだまだ幼いマリーナには関係のないことだったが、花をもらうというのは嬉しいものだった。そんな幸せを分け与える人になりたいと夢を見た。
引き出しを空け小箱を出す。その中にはドライフラワーにした小花があった。
「私もあなたが特別よ、フィン」
マリーナは小箱に口づけた。
それからフィンから数日おきに手紙が届いた。マリーナは返事に悩んでしまい手紙を書けずにいたのだが、自分が出す前にフィンから手紙が届いてしまう。フィンからの手紙には返事が欲しいなどといった催促は一切なく、近況やマリーナを案ずる言葉、そして卒業までの日数が書かれていた。
「あと5日か……」
マリーナは暦を確認する。
待ち遠しくて仕方なかった。フィンへの思いが増していく。
(会いたいな……)
どうやって自分の思いを届けようかと悩んだ。手紙はいまさら出せなかったからだ。
(今度会えた時に絶対伝えよう。フィンは特別だって)
マリーナはこの日も花を売る。
士官学校を卒業したフィンは正式な辞令を受け、その報告と準備のため王都へと戻った。一週間後にはオークランスに向かい、第二騎士団に所属する。
「いらっしゃいませ……。っ! フィン!」
「マリーナ」
フィンが真っ先に向かったのはマリーナの店だった。
マリーナを前にしたフィンはにやけそうになるのをこらえた。
フィンを確認したマリーナは前に出る。
「卒業おめでとう、フィン。そしてお疲れ様」
「ありがとう、マリーナ」
二人は目を合わせると微笑みあった。
「あの、フィン。手紙ありがとう。返事できなくてごめんね」
「いや、いいんだ。俺が伝えたかっただけだし」
二人はうつむき目をそらす。
フィンは顔を上げるとマリーナを見据えた。
「マリーナ。俺、第二騎士団に配置が決まった。1週間後にはオークランスに行くよ」
「えっ」
マリーナは目を見開いた。
「俺、立派な騎士になりたくて、もっと強くなりたくて。それに、仕えたい人がいる。それが叶うのが第二騎士団だと思うんだ」
「そう、なの……」
マリーナは視線を一本巻きに移す。会えたら思いを伝えるつもりだったマリーナは、フィンの為に特別に包装した一本巻きを用意していた。
「フィンのやりたいことなら応援するわ。もう私の後ろに隠れてた男の子じゃないわ。立派よ」
マリーナは顔を上げ、笑顔を作った。渡すべきか渡さないべきか、マリーナの視線は泳いだ。
対して、フィンは一度大きく深呼吸をした。
「マリーナ。深紅のバラを包んで欲しい。4本だ」
突如告げられた言葉にマリーナは視線を上げ息を飲む。そしてフィンを見上げた。
「心を込めてとびっきりのブーケを作ってくれ。二人が幸せになれるようにと」
「……え、ええ」
(誰に渡すの?)
マリーナは店の奥に入ると深紅のバラを4本とり、丁寧にラッピングを始めた。お気に入りのリボンを使用し形を整える。マリーナが包んでいるのは4本のバラだ。そのバラを見つめるマリーナの瞳には涙が徐々に溜まり始めた。
(これ……、もしかして……)
こぼれる前に涙を拭うと、包み終えたブーケを手にフィンの元へ戻った。
「お待たせしました。こちらでいかがでしょうか」
マリーナは店主として接客する。
完成したブーケを受け取ったフィンはマリーナを真っ直ぐ見つめた。
「ちゃんと幸せを願った?」
マリーナはコクコクと頷く。
フィンはくるっと向きを変えると一度外に出て、入り口にかかっている札をクローズに変えた。
何をしているのかと後を追おうとしたマリーナは、再び入店し扉を閉めたフィンに立ちふさがれた。
「フィン?」
マリーナは見上げたが、すぐに視線を下げることになる。フィンが跪いたのだ。
「マリーナ。僕の気持ちは変わらない。ずっとずっと変わらない。だから、僕と結婚してください」
「フィン……」
「マリーナは王都で、僕はオークランスでの暮らしになる。マリーナとの確実な繋がりが欲しいんだ。友人でも恋人でもいい。でも、僕の気持ちはずっと変わらないから」
フィンはブーケを差し出した。いつの間にか一人称が『僕』に戻っているフィンの『ずっと変わらない』という言葉の真実味が増す。マリーナは穏やかに微笑むと、ゆっくりと手を伸ばし、ブーケを受け取った。
「フィン。ずっと言ってなかったけど、フィンは私の特別よ。代わりはいないの。大好きよ、フィン。繋がっていられるならなんだってよかった。幼馴染でも友人でも恋人でも。ただ、これからは夫婦っていう繋がりが一番うれしいかも」
「!! マリーナ!」
フィンは立ち上がりマリーナを持ち上げるとくるくると回った。
「ちょっ、フィン!」
高く上げたマリーナを見上げる満面の笑みのフィンを見て、見下ろしていたマリーナは思わず笑った。
「やっぱり、今でもかわいいわ」
マリーナは両手でフィンの顔を挟み込むと、口づけを落とした。
マリーナの目の前には真っ赤になって驚愕しているフィンがいた。
4本のバラの花言葉、『死ぬまで気持ちは変わらない』
ここまでお読みいただきありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
『恋慕の花』を題材に話が書きたくて、番外編として創作しました。
ブルーノのその後も気になるところですが、それはまた機会があれば……。
作者のモチベーションに繋がりますので、よろしかったら、評価していただけると嬉しく思います。




