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女王の婚活~結婚を急かされ、紹介された騎士に一目惚れしました~  作者: 茉莉花
番外編

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40/44

40.【番外編】ある花屋の恋慕の花①

話に登場した『恋慕の花』で短編を作りたくて、番外編を創作しました。

お楽しみください。

「すみません! 一輪ください!!」


「は~い! こちらから選んでください」


「えーっと、じゃあ、このピンクのやつ!」


「こちらですね! どうぞ!」


 マリーナは銀貨を受け取ると客を見送った。


 ここは王都にある花屋『フラワーショップ マリーナ』だ。店主のマリーナは忙しいが充実した毎日を送っていた。忙しい理由は、女王の結婚に伴い『恋慕の花』の文化が流行っていることにある。


 先ほどピンクの花を購入した男の行く先を見ていると、一人の女性に花を差し出していた。その女性は両手を口元に当て驚いている様子だったが、ゆっくりと手を伸ばしその花を受け取った。その後二人は一言二言話すと互いにお辞儀をしわかれていった。


(一目惚れの花だったのかな?)


 その男はくるっと向きを変えると、再び花屋へとやってきた。


「さっきはありがとうございました!」


「成功したの?」


 ポリポリと男は頬をかくと、にやけた顔をした。


「はい。前にも見かけた子だったんですけど、その時は近くにあった花屋ではスムーズに花が手に入らなくて、彼女を見失ってしまって。今回は間に合ったんで、この花屋のおかげです! 名前も聞けたし、今度会う約束も取り付けました!」


「それは良かったですね!」


「プロポーズの時にはまたここを利用しますね! お姉さんいい仕事してますよ! では」


 マリーナは21歳。1年前にこの場所に花屋をオープンさせた。幼い頃からの夢だった。この1年で花屋の環境は一変した。花の需要と共に花屋の件数は増えたが、その分競争も激化した。『恋慕の花』の風習について考察し、スピード感を大事にしたマリーナは、一目惚れの花を予め用意しておくことにしたのだ。店先には色とりどりの『一本巻き』を用意し、購入希望があればすぐに対応できるようにした。ラッピングされた状態の一輪花はただの一輪とは違い特別感があり、『恋慕の花』の成功率が高かった。マリーナの店は口コミでも評判で、ここぞの時はフラワーショップマリーナに行くという男性が増えた。


「マリーナさん、こちらをもらってってもいい?」


 店にやってきた男は一等の深紅のバラを指さした。


「とびきりのラッピングでいいかしら? 何本にします?」


「3本で」


「いいと思います!」


 この男は今、食堂の給仕の子とお付き合いをしている。きっかけは一目惚れ。その時にマリーナの店で『恋慕の花』を購入している。3本のバラは『愛してる』を意味する。平民の男が用意するにはちょうどいい数だろう。

 マリーナは心を込めてブーケを作った。


「がんばってね!」


 完成したブーケを渡し、マリーナは男を見送った。

 この日の売り上げも順調だった。さらには女性客も心なしか多い気がする。


「こちらをください」


 少女が白い花を手に取り、銀貨を差し出す。それを受け取りマリーナは少女を見送った。視線の先には数名の女性が騎士を取り囲んでいた。


(騎士様?)


 背の高い騎士の背中が見える。少し離れた場所にも騎士の姿が見え、マリーナは暦を確認した。


(……もうすぐ士官学校の卒業式か)


 ヴァランデル地方にある士官学校はまもなく卒業のシーズンを迎える。卒業後はそれぞれ職に就くが、親の商いを継ぐものもいるが平民の多くは騎士としてどちらかに配属される。配属前に一時帰省するのが今の時期の通例だった。


「すみません、こちらをください」


「私もお願いします」


 恋人のいない女性にとっては、見初めたり見初められるチャンスだ。この『恋慕の花』の風習を利用する手はない。騎士は平民からしてみれば高給で、訓練を終えたばかりの卒業生はその体つきからもとても魅力的だった。

 少女たちは先ほどの人だかりに加わった。


(どおりで忙しいわけね。もう少し一本巻きを増やしておかなくちゃ)


 マリーナは店の奥に引っ込むと商品の在庫の確認を始めた。




◇◇◇


 約3年ぶりに王都に帰省したフィンは一層華やいだ景色に驚いた。フィンは徴兵制により士官学校に通っている18歳の青年だ。卒業が近づき、進路が決定する前のこの時期は一時帰省するものが多く、家族や婚約者もしくは恋人との時間を満喫するのである。フィンは両親が営む食堂に向かっていた。


「すみません、あの、こちらを受け取ってください」


 後ろから声を掛けられ振り向くと、少女が一輪の花を差し出し立っている。


「え?俺に?」


 人違いではないかと辺りを見回すが、一緒に王都に戻ってきていた同期も同様に女性から花を受け取っているのが見えた。どうやら自分が特別というわけではなく、帰省した騎士は花と令嬢に囲まれるようだ。


(これが『恋慕の花』か……)


 それならばとフィンは少女から花を受け取る。

 少女は一礼し、小走りで離れた場所にいた友人と思われる少女と手を取り合い騒いでいる。


(なんとなく風習にあやかっただけか?)


 もらった花をくるくると眺めているとまた声をかけられた。


「あの、お名前を教えていただけませんか?」


 花を差し出しながらの問いに、フィンは素直に反応する。


「俺?俺はフィンです」


「フィンさんというんですね。私はモアといいます。あの、とても素敵だなと思って声をかけました。恋人はいらっしゃいますか?」


 モアと名乗る少女のストレートな物言いにフィンは狼狽えた。


「あ、いや、今はいないけど……」


 聞くや否やモアはぱあっと満面の笑みを浮かべた。


「そうなんですね! でしたら、今度改めてお会いしていただけませんか?」


 『恋慕の花』は出会いを助長するための風習であり、愛を伝える手段なのだ。踏み込んだ問いとその当事者となったことで、フィンは改めて『恋慕の花』という風習について考えさせられた。


「あー、すみません。ちょっとそれは……」


 フィンが頬をポリポリとかく様子に、直感的に感じ取ったモアは申し訳なさげにうつむいた。


「好きな人は……、いるんですね?」


「あー、すみません」


 言い当てられたフィンは思わず背筋を伸ばしたが、申し訳なさから謝りつつも伸ばした背を丸めた。


「あ、いえ。フィンさん、とても素敵だと思いますから、きっとお相手の方にも伝わると思いますよ」


「そんなことは……」


 モアはフィンに一歩近づくと、改めて花を差し出した。


「私は応援します。こちらはフィンさんに惹かれて用意したお花なので、ぜひ受け取ってください」


「ありがとう。モアさん」


 モアの純粋な好意にフィンも誠実に対応するため、花はありがたく受け取ることにした。

この後もフィンは数人から花を受け取った。片手に持つ一輪花は寄せ集まったことで花束に見える。ふと、この花はどこから来るのかと辺りを見回すと、花屋が点在することに気付いた。


(こんなに花屋ってあったっけ?)


 その花屋の一つにある人物を見つけて、フィンは歩み始めた。




◇◇◇

「マリーナ!これをくれ」


「あら?アクセル。今日は何色?」


「今日は赤だ!」


「はい、どうぞ」


 マリーナは銀貨を受け取ると、遠目に事の顛末を見守った。1分もしないうちにアクセルは戻ってくる。


「で?ダメだったのね?」


「はぁ。話も全然聞いてくれなかった」


 アクセルの手には赤い花が残っていて、がっくりと肩を落としている。


「あなたってば、手あたり次第なんだもの。ここらでは有名よ。それにさっき声かけた女性は3日前にも声をかけてるわよ。その時は黄色い花を渡そうとしてたわね。ちゃんと見てる?彼女には原色ではなく淡い色が似合うと思うわ」


 アクセルは項垂れたまま顔を上げられずにいる。


「それに、真剣度が低いわ。この町の女性みんなに声かけてない?特別感がないじゃない。自分以外にも声をかけてるんだろうなと思うもの」


「じゃあどうやって恋人を作ったら良いんだよ」


 アクセルは顔を上げマリーナを見つめる。


「ちょっと素敵だなと思う程度ではなくて本当に好きになった人だけに告白するべきね。あなたに『恋慕の花』は合わないわ。プロポーズの時まで取っておくべきね」


「そうか。でも、今までなんで教えてくれなかったんだよ」


 マリーナは肩をすくめると口角を上げた。


「だってあなたは貴重なお客様だもの。毎日お花を買ってくれてありがとう」


 アクセルは目を見開いた。


「はぁ、なんだよ。そういうことか。ちょっと期待しちゃったよ」


「何を?」


マリーナは意味が分からないと両手を広げる。


「俺に会えるのがうれしくて花を売ってくれてたんだと思った」


 今度はマリーナが目を見開く。


「どれだけポジティブなのよ。でもあなたに会えるのは歓迎してたわ。その理由ももうわかったでしょ?」


 マリーナにとってはお店にお金を落としてくれる上得意様だ。アクセルに会えるのは大歓迎だった。


「なんだよー。……じゃあ、またな」


 アクセルは丸めた背中をマリーナに向けて帰っていった。

 すると入れ替わるように一人の男が入ってきた。


「マリーナ?」


 マリーナが視線を移すと、その声の主は背の高い騎士だった。


「騎士様?」


 なぜ名前を呼ばれたのかとマリーナは目を凝らす。逆光により顔がはっきりしなかったが、見上げるほどに大きい騎士は低く響く声が艶やかだった。


「マリーナ? わからない? 僕だよ」


 成人を迎える年頃の大男が「僕」と告げる。マリーナは記憶をたどると、その騎士の顔に面影を感じた。


「もしかして、フィン?」


 騎士は正解だと言わんばかりの笑顔を見せた。


「そうだよ、マリーナ!」


「まさか……。ずいぶんと大きくなったのね。会わない間にどれくらい背が伸びたのかしら?」


 少しだけ上を見上げたフィンは視線をマリーナに戻すと首を傾げた。


「30センチメートルくらいかな。マリーナは小さくなったね」


「私は変わらないわよ。貴方が大きくなりすぎたの」


 マリーナは腰に手を当て頬を膨らませた。


「あははっ。3年くらい会ってなかったからね。成長期の男は侮れないだろう?」


「本当ね。3年か……。じゃあ、もう卒業かしら?」


「ああ、だから今回は一時帰省をね」


「家には戻ったの?」


「これからなんだ。ちょうど街に着いたところでマリーナを見かけたから。この花屋はマリーナのお店なんだね」


 フィンは店先の看板を読んでいる。


「えぇ。1年前にオープンしたのよ」


「花屋を開くのが夢だったもんね」


「あら、覚えていてくれたの?そうよ。やっと準備が整ってね。そうしたら、女王陛下が婚約されたでしょ?公開プロポーズのおかげで商売は繁盛してるわ」


 花屋の店先に大きな騎士が立っているのは珍しい光景だったからか、周りには人だかりができていた。商売の邪魔をしてはいけないと慌てたフィンは向きを変えマリーナに手を振った。


「あっ、ごめん。また改めるよ」


「ええ。よい休暇を!」


 マリーナは手を振って見送った。ドキドキと高鳴っている胸のせいで頬は上気し、少し呼吸が乱れた。


(びっくりした。すっかり立派になって……。とっても男らしくて騎士らしくなって。もしかして先ほどの女性の人だかりの中心にいたのはフィンだったのかしら……)


 フィンの手には集まって花束になった一輪花があった。中にはマリーナの店で売っている一本巻きも混ざっていた。


(買いに来たお嬢さんの中に、フィンに渡した人がいたのね)


 ズキンと胸に痛みが走り、マリーナは首を傾げる。


(なんだろう。ちょっと苦しいな)


「すみませーん。こちらの花をもらってもいいですか?」


「あ、はーい。何色にしますか?」


 こうして、マリーナは仕事に戻っていった。


まだまだ続きます。

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