2.ルーカスを超える男
「ご無沙汰しております、陛下」
ルーカスは眉目秀麗だ。存在感もあり人目をひく。
アリシアはルーカスを上から下まで確認すると、「うん」と頷いた。
「良いですわね」
「何がです?」
「カールグレーン侯爵も渋さのある美丈夫ですけれど、やはり若く美しいというのも良いですわね」
「若いって、陛下と私は同い年ですよ」
はははっとルーカスははにかみ笑った。
「急な世代交代に驚きましたが、よろしいのですか?」
「良いも何も、あのままでは何も進展がございませんから、新陳代謝といったところですわ。いつものように世継ぎを結婚をと促されました。でしたらお相手を連れてきなさいと申し上げましたの」
アリシアは口角を上げると告げた。
「ルーカスよりも優秀な男子をと」
「なぜ私よりも優秀な男子なのです?私ではいけないのですか?」
ルーカスは色気のある笑みを浮かべ、アリシアを見つめた。
「カールグレーン侯爵が貴方を勧めるならば話は早いでしょう?つまりカールグレーン侯爵が認めなかったのです。それに貴方には婚約者がいらっしゃるでしょう?」
「だからこそです。私を王命で奪ってくださったら良いのに」
「嫌ですわよ。敵対したくありません」
アリシアは、彼の噂の婚約者を思い浮かべる。
「私の心は陛下、貴女にありますのに」
「戯れは結構よ。幼馴染みの腐れ縁ですわ」
「私は至って本気なのですがね。陛下が想いをお寄せになるお相手はいらっしゃらないのですか?」
「女王の結婚に恋は必要ありません」
そして続ける。
「さあ、ルーカス?貴方より優秀な男子はいるかしら?」
ルーカスは問答を諦めると、静かに言った。
「私が認める男子が一人おります」
アリシアはちらりと視線を上げる。
「スヴェン・オークランスという者です」
その名前に、アリシアはわずかに目を細めた。
「スヴェン・オークランス?聞いたことがありませんわよ?」
「そうでしょうね。彼はオークランス辺境伯令息です。彼はヴァランデル地方から出ておりませんから」
「辺境伯……。ヴァランデルということは、あの軍事拠点の?」
「はい」
ルーカスは頷いた。
「スヴェン・オークランスは、私の士官学校時代の同期生なのです」
ヴァランデル地方。
国境に近い軍事拠点であり、ほとんどの男子が士官学校で鍛えられる地。
山に囲まれた国境地帯に存在し、軍事と統率を叩き込まれる場所だ。
女人禁制のため、王配の管理下にあり、その他の王族ですら立ち入ることはない。
この地の士官学校は、かつての英雄イデオン・ヴァランデル将軍の名を冠した訓練体系を起源とする。
軍事力強化の要衝でもあり、辺境伯家は代々その防衛を担っている。
「……彼は、嫡男ですの?」
「はい。ただ弟もおりますので、継承に問題はありません。ですが上手く行くかどうかといった所です。代々辺境伯は領地を守るために将軍に昇り詰める程武術に長けておりますし、その為の英才教育を受けています。辺境伯となるために存在しているようなものです。女王陛下との結婚に同意してくれるかどうか」
「……でも、ここで解決することでもないわね。お会いしてみましょう。王宮に招待してくださる?」
ルーカスはオークランスに文書を用意するため執務室から出ていった。
それを確認すると女王の側近であるクラース・オーバリは質問した。
「陛下、今更ながら宰相の世代交代についてですが、よろしかったのですか?」
「ええ。ちょうどよかったわね。今回、ルーカスと話をしてわかったことがあります。宰相の職務怠慢です」
「え?」
「士官学校やヴァランデル地方、オークランス辺境伯領に関する公務は王配が担当しています。ところが、王配不在時には宰相が担当することになってますが、活動記録はありますか?」
直近二年分のヴァランデルにおける活動記録はなかった。
「…こうなっては時間がありませんね。結婚を急ぎましょう。王配を確保する必要があります」
「はい」
「あなたの方でもスヴェン・オークランスについて調べて頂戴」
「かしこまりました」
「それから・・・」
他にもクラースに指示を出すと、アリシアは静かに息を吐き、覚悟を決めた。
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