4 水の後はご飯
日の出とともに目が覚めた。
素晴らしい、健康的な生活。……いや、普通に、明るすぎて起こされただけだけど。
とりあえず、顔も洗いたいし、水も飲みたいと、寝ぼけた顔をこすりながら、そーっとそーっと歩いて階段まで向かう。
(あれ?昨日より動きやすい?)
んなわけないか…。希望は失望に変わると、動くのが辛くなるから、今は考えるのやめよう…。今は癌より失望のほうが命取り!
「切り替え!切り替え!」
元気よく声を出す。
尖り岩のあたりには、またヤシの実みたいな殻が増えていた。
「カラス、どこ行ったんだろう」
きょろきょろ見渡してみるけど、やっぱり姿はない。
滝でまず一口。
「やっぱりおいしい〜!」
今日も安定の水クオリティ。
ごくごく飲みながら、内心ではちょっと笑ってしまう。 この水にこんなに感謝する日が来るなんて、地球にいたときは思いもしなかった。
腹いっぱい水を飲んで、いざ出発。 今日は、川を下って池まで行く予定だ。朝とはいえ、太陽の光は強くて、歩き出してすぐ汗がじわりと浮かぶ。
1つ目の池まで、体感で8分。……あれ? 前より歩くの早くなってる?
「おおー」
池にぷかぷか浮かぶ、金色の実を発見した。
地球じゃ見たことない色。紫がかった金色、白っぽい金色……なんかファンタジー感がすごい。でも今は、感動より、空腹が勝った。
とはいえ、食べるには命がけ。この前の水はセーフだったけど、今度はどうかな。
カラスの食べ跡をよく思い出してみると、白っぽい実だけ食べてた気がする。なら、私も白い実を狙おう。
靴と靴下を脱ぎ、スカートをたくし上げて、池にそろ〜っと入る。
膝ぐらいの深さ。
冷たい水が心地いい……けど、長居したら体力が一気に持っていかれそう。
足の砂の感触を確かめながら、白い実を2つゲット。
(池の底、ちゃんと見えてよかった)
なんか真ん中、めっちゃ深くなってたし。
靴下でざっと足を拭いて、また靴を履く。
砂だらけの足をねじ込みながら、ため息が漏れた。
体力、ぎりぎり。
白い実を大事に持って、尖り岩まで慎重に移動。
とにかく、休む暇がない。
ぐったりしかけた脚を引きずるように、少しづつ進む。
岩まで来たら、少し休憩。
よし、やるぞ。
お腹くらいの高さの尖り岩めがけて、思いっきり実をぶつける!
意外とすんなり穴が開いた。
バキッ、といい音までした。
でも――
「……取れない」
固い殻に小さな穴がぽつんと空いただけ。これじゃ、食べられる気配ゼロだ。
(くそぅ、嘴があれば……!)
仕方ないので、原始的な作戦を考える。
「穴、いっぱいあけたら、ボロボロにできるかも……?」
岩の先端に持ち直し、2個目の実にもバシバシ穴をあけていく。でも、途中でふと、周りの地面に散らばったカラスの食べた殻に目がいった。
(あれ?)
並べてみると、違和感。 確かに穴は開いてるけど、それだけじゃない。殻の一部が、中から割れるみたいに裂けてるやつが混じってる。
「……中から?」
外からぶつけただけで、こんな裂け方はしない。岩で強く叩いても、普通なら外側が割れるはずだ。まさか、カラスが嘴で中から破った?
いやいや、それはない。 嘴ってそんな引っかけられる形してないし、そもそも、器用すぎる。
(爪?)
でも、爪でこじ開けたなら、もっとガリガリ傷だらけになりそうだ。実際の殻は、意外ときれいに割れてる。 暴れた感じがない。
(……じゃあ、なに?)
見渡す。
転がってる小石も、岩の破片も、特にフックっぽいものはない。 道具もない。カラスの武器といえば、もう残ってるのは――
「……水?」
ひらめいた瞬間、心臓がドキッと跳ねた。
まさか、穴から水を入れて、中からふやかして割る……? カラスがそこまで知能高いとは思わないけど、自然とそうなった可能性はある。
ここ、地球じゃないし。あの滝の水、なんか特別っぽいし。
「よし、試してみよう」
穴をあけた実を両手で大事に抱え、滝つぼへ――
ダッシュ……とまではいかない。変な石につまづかないよう、慎重に、でも急いで。息は切れ、足はがくがく。 一歩ごとに、体が重く沈んでいく。
滝の前にたどり着くと、私はそっと、実を水に沈めた。
穴から、冷たい水がしゅわしゅわと染み込んでいくのを、祈るように見つめる。
頼む……うまくいって。
パキッ。
パラパラパラ……。
殻が、細く裂けた糸みたいにほぐれはじめた。
繊維状になった殻は水流に絡まることもなく、ふわりとほどけていく。
そして、銀色の実が、ぽとりと私の手のひらに落ちた。
一瞬、世界がスローモーションになった。 滝の光が、銀色の実を抱く私の手を照らし、きらきらと舞い上がる水しぶきと混ざりあう。
なんだか――泣きそうだった。
「っしゃあーーー!!」
ぎゅっと拳を握る。
拳大の大きさの銀色の実は、滝の光を浴びて、宝石みたいにきらきら輝いていた。
(これ、食べ物じゃない見た目してる……)
賭けに出て、水を飲んだときの感覚が、ふっと脳裏によみがえった。
今回は勝ち確定の賭けなのに、どうにも負けそうな雰囲気が漂っている。
いざ勝負!
そんな実を、私はがっちり握りしめ、目をつぶり気合を入れた。
「……いただきます!」
ぱくっ。
もぐもぐ――
……おいしい。ものすごく!
ただ、たぶん皆が知っている「異世界グルメ!」みたいな感動を期待していたら、拍子抜けするかもしれない。
私は、今、空腹のど真ん中にいる。
甘ったるいものなんていらない。
正直、女子力とかそういうの全部放り投げて、今欲しいのは――
ガツンとしょっぱい、腹にたまる食べ物だ。といっても巷にいる肉食お嬢にもなれない私は、寿司とか蕎麦とかを欲している。
そしてこの実は、なんと――
「醤油をつけたかっぱ巻き」の味だった。
うーーまーーいーーー!!!
叫びたくなるのをぐっとこらえながら、銀色の実をもう一口、もう一口。
食べるたびに、全身の細胞が「これだ!!」と歓声を上げている気がする。
生きてる――生きてるよ、私。
……といっても、1個でギブアップだったけど。




