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少年忍者の尾行レッスン

 ……待て。

「何で『さん』付け?」

 あたしが玉三郎にツッコんだところで、お兄ちゃんは再び角を曲がった。

 いけない、追いついちゃう。

 あたしは足を遅めて、再びゆったりと歩いた。

 玉三郎も同じ速さで並んで歩く。

 2人で角を曲がると、お兄ちゃんの姿は遠くまで続く家々の塀の間に小さく見えた。

 しばらくすると、塀が途切れた先に車がせわしなく行き交いはじめた。

 広い車道があるのだ。

 最後の角を曲がったお兄ちゃんを、距離を詰めないように追う。

 玉三郎もぴったり寄り添ってついてきた。

 ……勝手にしろ。

 追い払ったって、どうせついてくる。

 人通りも増え始めたから、下手に口喧嘩なんかしたら目立つ。

 中学生の男女が仲良くじゃれあっているくらいにしか見えないかもしれないけど。

 それはそれで、嫌だ。絶対に。

 もっとも、玉三郎さえ見ないことにすれば好条件だった。

 人の陰に隠れてお兄ちゃんを尾行するには丁度いい。

 あたしは歩を速めて、その気になれば駆け寄れるくらいに距離を詰めた。

 そこで突然、隣にくっついている玉三郎、が前を向いたまま言った。

「靴を覚えるんだ」

 無視されているのに気付いているのかいないのか。

 どっちでもいいことなんだから、知らん顔してればいい。

 だけど、分からないことをそのままにするなという母さんの教育がものを言って、あたしはつい返事をしてしまった。

「靴?」

 なんでそうするのか、よく分からなかった。

 確かに、お兄ちゃんとの距離は10mほどある。

 でも、忍者の目に見えない靴ではない。

 何を今さら、とでも言うかのように、玉三郎は面倒くさそうに答えた。

「靴は履き癖がついてるし、人によって踵の減り方が違うんだ」

 う……そういうことか。

「し、知ってるわよ、そんなこと」

 実をいうと吉祥蓮には、人の靴を追って歩くようなセコい尾行術はない。

 でも、知らなかったなんて言ったらどこまでバカにされるか。

 つい、ムキになって答えている間に、お兄ちゃんは公園の角を曲がった。

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