少年忍者の危機
まずは、目の前の危険を回避することだ。
錠前破りの現場を見られちゃまずい。
更に、中等部の男子生徒が何やってるってことになったら……。
校務員さんの足音が近づいてくる。
俺はとっさに床を蹴った。
月並みだが、天井に張り付くしかない。
幸い、ここの工法では格子で補強されている。
その一辺は俺が手足を突っ張ったほどの幅だから、何とか身体を支えることはできる。
眼下では、作業服をまとった年配の校務員さんが2つの大扉の鍵を開けていた。
チャンス!
鍼を使う手間が省けた。
校務員さんが廊下の角を曲がって立ち去るのを待ち、再び床に降りる。
今度こそ。
たかが、菅藤瑞希のみっともない姿を確かめるだけだっていうのに、結構、ドキドキする。
大扉に手をかけると、手応えもなく軽く開いた。
さて、では天井から降ってくるブックブクの女子高生を待たせていただきますか。
その時、廊下の曲がり角から声がした。
「急いで! 時間押してる!」
さっきとは別の担任の声だった。
不満交じりの、ガヤガヤ雑談する声が聞こえてくる。
声の質からして、たぶん上級生だ。
4月のしょっぱなから、だいぶ迷惑かけたみたいだ。
でも、そんなことを気にしていたら鳩摩羅衆の忍者はやってられない。
忍びの世界は非情なのだ。
菅藤瑞希にしても同じことだ。
僕は彼女の恥ずかしい姿が見たいだけで、それができないんならここに用はない。
このまま放っておけば、宣誓式が終わるまで排気ダクトの中に潜んでるだろう。
あとは自分で考えることだ。
問題は、俺の身の安全だった。
また天井に張り付くか?
さっきは1人、しかもカギを開けるだけだった。
だけど、今度は何百人もやってくる。
1人ぐらい、天井を見上げる奴がいるかもしれない。
さあ、どうする?
誰かが廊下を曲がったらおしまいだ。
考えろ、考えろ、考えろ……。
辺りを見渡して気づいたのが、つまりこの廊下の突き当りにある非常ベルだった。
もう一方の大扉のそばにある。
……これだ!
俺は大扉を開けて、講堂の中に入った。
生徒の集団がやってくるのは、足音で分かる。
反対側の大扉にもたれて、最初の集団がやって来るのを待つ。
ふいと天井を見上げると、その奥の一隅に排気ダクトの格子が見えた。
……まあ、頑張れよ、菅藤瑞希!
大扉がガチャリと開いた。
視界の隅を、数名の影がよぎる。
俺は背中で大扉を開けると、廊下の突き当りに滑り出た。




