57手目 高校生女子の部A4回戦 東雲vs桐野
※ここからは、桐野さん視点です。
【第4ラウンド】
インコンパチブル vs お花と愉快な仲間たち
Common Sense Girls vs 象棋小姐
将棋の女王様 vs Outsiders
最終決戦なのですぅ。どきどきのわくわくですぅ。
「席順は申請してきたぞ。これまでと同じだ」
「忍ちゃん、ありがとうございまぁす」
「変えなくてよかったんですかね?」
丸子ちゃんは、心配性なのですぅ。
忍ちゃんの考えたオーダーなら、ばっちりなのですぅ。
「拙者の勘を信じることだな」
「いや、そう言われると反論のしようがないんですが……」
「えへへぇ、開けてびっくり玉手箱ですぅ」
「全勝が条件だ。それ以外に、拙者たちが生き残る道はない。腹をくくれ」
ふえぇ……生きておうちに帰りたいと思いまぁす……。
《これより、女子の部最終ラウンドを始めます。着席してください》
いざ、ピクニックの時間ですぅ。1番席はぁ。
「あ、やっぱり青來ちゃんなのですぅ」
「ああッ! お花先輩なんですかッ!?」
森でくまさんに出会ったような反応しないでくださぁい。
「よろしくお願いしまぁす」
席についてぇ、駒を並べてぇ、チェスクロ準備してぇ。
《振り駒をしてください》
「お花先輩で、お願いしますッ!」
「はぁい」
ふりふりふり……ぽい。
「歩が1枚、お花と愉快な仲間たち、偶数先ですぅ」
「インコンパチブル、奇数先ッ!」
歩をもどしてぇ……あとは待つだけなのですぅ。
《対局準備のととのっていないところはありますか?》
ないでぇす。
《では、始めてください》
「よろしくお願いしまぁす」
「よろしくお願いしますッ!」
7六歩、3四歩、2六歩。いたって普通なのですぅ。
「8八角成ぅ」
「同銀ですッ!」
4二銀、7七銀、3三銀。銀さんニョキニョキ。
「3八銀ッ!」
「2二飛ぃ」
「やってきましたねッ! ダイレクト向かい飛車ッ!」
「ほんわか向かい飛車なのですぅ」
「それのどこがほんわかしてるんですかッ!?」
どこもかしこもですぅ。
4六歩、6二玉、6五角。
「あ、そっちでくるんですかぁ?」
「先輩対策は、ちゃんとしてあるんですよッ!」
「そういうイケナイ子は、おしりぺんぺんなのですぅ。7四角ぅ」
同角、同歩、4七銀、7二銀、5六銀。
「2四歩ぅ」
飛車先と飛車先が、ごっつんこしてるのですぅ。
6六歩、5二金左。
「6五歩ッ!」
「青來ちゃん、つっぱってるのですぅ。若気のいたりなのですぅ」
「今日こそは、お花先輩に引導を渡しますからねッ!」
そういうのは、勝ってから言ってくださぁい。
「だったら、お花も本気を出すのですぅ。7三銀ですぅ」
6八玉、7一玉、5八金右、7二金、7九玉、8二玉、8八玉、6二金左。
「堅めてきましたねッ! でも私のほうが堅くなりますッ! 7八金ッ!」
「こっちもまだ完成してませぇん。9二香ぉ」
「はうッ!?」
「ほんわか向かい飛車、森のくまさんバージョンなのですぅ」
「い、イヤリングは拾ってもらえるんですかッ!?」
「もちろんですぅ」
爪で切り裂いてから、形見として拾ってあげまぁす。
「こんなの絶対バランス悪いですッ! 9六歩ッ!」
「9一玉ぅ」
3六歩、9四歩(お花もつっぱるのですぅ)、6八金右、8二銀、3七桂。
うにゅにゅ、たしかにバランスは先手のほうがいいのですぅ……ここは、お花のクッキング・テクニックの見せ所なのですぅ。お料理、お料理、ああして、こうしてぇ。
「7三角ぅ」
角さんで、にらみを利かせるのですぅ。
「角を手放した……?」
あ、急にトーンダウンしたのですぅ。むずかしいと判断した証拠なのですぅ。
青來ちゃんは、考えてることがめちゃくちゃ分かりやすいのですぅ。
「4八飛は、4四銀の罠ですか……6四歩ッ!」
うにゅう、味付けしてきたのですぅ。単に4八飛だと、2五歩、同歩(同桂は2四銀で、ふにゃふにゃなのですぅ)、4四銀。ここで4五銀には、同銀、同歩、1九角成。途中を同桂でも2五飛で終わっちゃうのですぅ。だけどぉ、6四歩、同角、4八飛、2五歩、同歩、4四銀なら、6五銀、7三角(5五角は5六歩でバイバイですぅ)、7四銀がありまぁす。
なかなかいい手なのですぅ。
「えへへぇ、食べるのは、もうちょっと待ってあげるのですぅ」
「食べられるのは、そっちですよッ! 6四歩に、どうするんですかッ!?」
「もちろん、6四同角ですぅ」
これを取れないのは、乙女がすたるのですぅ。
「4八飛ですッ!」
ここはいったん、角さんを守りまぁす。7三桂。
「4五銀ッ! これで先攻ですッ!」
おみごとな手順の繰り替えなのですぅ。お花は感動してまぁす。
4四銀、3四銀、5五銀。
「6七金ッ!」
これは……飛車の逃げ場所作りですぅ。
4六銀、4五桂、3七銀成、6八飛は、ハマってまぁす。
「3二飛ぃ」
「単に飛車寄り……?」
4三銀成は3六飛で、こまったちゃんなのですぅ。
「あう……逃げられないのか……」
考えだしましたぁ。時間を使って欲しいのですぅ。のこり3分ですぅ。
お花はまだ5分ありまぁす。
「打つしかない……のかな?」
青來ちゃんは、1六角と打ちましたぁ。これはちょっと苦しいのですぅ。
「……1四歩ぅ」
「あうあう、角がイジメられちゃいます」
これはイジメではないのですぅ。かわいがりなのですぅ。
……ピッ。
青來ちゃんが30秒将棋になりましたぁ。
「がんばれがんばれがんばれ私ッ! 4三銀成ッ!」
「炎の妖精さんみたいなことしてもダメなのですぅ。3六飛ぃ」
「4五桂ッ!」
3九飛成ぅ……は、3八飛から交換されてしまうのですぅ。
ここは考えどころなのですぅ。
……………………
……………………
…………………
………………
ピッ。あ、30秒将棋になっちゃったのですぅ。
「9五歩ぅ」
「は、端攻めッ!?」
6四角が生きてるうちに動くのですぅ。
「これは……取るしかないですッ! 同歩ッ!」
9七歩、8六銀、1五歩。
2七角なら3七飛成ですよぉ。
「3八飛ですッ!」
「交換はしませぇん。3七歩ぅ」
「2七角ッ!」
なかなか粘るのですぅ。でもでもぉ。
「これはしめたのですぅ。2六飛ですぅ」
「はうわッ!?」
えへへぇ、この形の飛車角両取りって、めずらしいですよぉ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「さ、3七飛ッ!」
「3六歩ぅ。飛車捨てか角捨てか同角か、三択で選んでくださぁい」
普通なら、同角で2八飛成を許すと思うのですぅ。
でもそれは、成らずに4六銀の押さえ込みで後手必勝なのですぅ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「同飛ッ!」
えへへぇ、青來ちゃんは、できる子なのですぅ。
「2七飛成ぅ」
「3一飛成ッ!」
「これが先手なんですよッ!」
スカートの下から覗いちゃダメなのですぅ。エッチぃ。
7一金、2一龍、2八龍。
「2八龍? なんで中途半端なところに?」
中途半端じゃないのですぅ。絶好のポジショニングというやつなのですぅ。
「なんかあるのかな……?」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「あわわ、1一龍ッ!」
「うにゅ? 受けないんですかぁ?」
「受けたら攻め駒が足りなくなりますッ!」
「命あっての物種なのですぅ。9八歩成ぅ」
「ん……ああッ!」
もう遅いのですぅ。同玉とはできないから、同香しかないのですぅ。
「ど、同香……」
「9九角ぅ」
これでほぼ決まりましたぁ。
同玉、7八龍、8八角、6七龍。
穴熊に金4枚、イチゴに牛乳、ヨーグルトに蜂蜜なのですぅ。
「諦めませんよッ! 9四桂ッ!」
7八金、8二桂成、同玉(同金のうっかりさんはダメでぇす)、7九香。
意外と粘るのですぅ。こっちも頓死に気をつけようと思いまぁす。
8八金、同玉、6五桂。
この桂跳ねが絶妙なのですぅ。これを入れておかないと、お花の王様は、意外と危ないのですぅ。例えばぁ、9一銀、7二玉(9三玉は9四金でバイバイですぅ)、8二金、同金、同銀成、同玉、8一金、9三玉、9四歩、8四玉、9五銀、8五玉、8六歩、同角、同銀、同玉、9五角、8五角、8六歩、9四玉、7三角成の、21手詰みがありまぁす。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「7八金ですッ!」
「粘らずに投了してくださぁい」
「マナー違反ですよッ!」
おまえがいうなですぅ。6六角ですぅ。
これで仕留めてるはずですぅ。
7七銀のような受けなら、同桂成、同金、同角成、同桂、9六桂ですぅ。
(※図は桐野さんの脳内イメージです。)
同金のところで同桂は、すぐに9六桂で、もっと早く詰むのですぅ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「7七銀打ッ!」
同桂成、同銀、同角成、同金。角成りを桂馬で取れないのは、超絶痛いのですぅ。
「6八龍ぅ」
ここで一本、冷静に龍取りを回避しまぁす。
6八金なら、7七銀、同桂、9六桂で、ジ・エンドですぅ。
「あわわわ、持ち駒に桂馬と角しかないですッ!」
ご明察ですぅ。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「7八桂ッ!」
「8五桂ぃ」
いっちょあがりですぅ。
「さ、さすがになにもできない……」
「ひとつだけできることがあるのですぅ」
投了してくださぁい。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「……負けました」
「ありがとうございましたぁ」
ぴったり100手なのですぅ。おめでたいですぅ。
「な、なぜこんなことに……そんな……完敗……」
青來ちゃん、一気にトーンダウンなのですぅ。元気出してくださぁい。
「年季の違いなのですぅ」
「せ、せめて受けとくんでした……香車拾うんじゃなかった……」
えへへぇ、盤面をもどすのですぅ。
「うにゅにゅ、なんにも考えないなら、1九龍ですぅ」
香車さんをぱくぱくしまぁす。
「ここで1一龍ですか?」
「それには2通りありそうなのですぅ。ひとつは8四香と打って、9七銀なら6九角、7九香、7八角成、同香、8七香成、同玉に8九龍と入って、勝ちなのですぅ。ただ、8四香に7九香、8六香、同歩のあとが、ちょっとめんどっちぃのですぅ。もうひとつはぁ、8四香と打たずに8六角と切って、同歩、8七香の強攻策でぇ、お花は、ハッピーなのですぅ」
同金、7九角、7八玉に5八銀の離し打ちが好打で勝ちですぅ。
「私は全然ハッピーじゃないですよッ!」
「喜びと悲しみを分かち合うのですぅ」
「どうやってですかッ!?」
あとでハグしてあげるのですぅ。ハグハグぅ。
「って、こんな漫才してる場合じゃないのですぅ。応援するのですぅ」
おとなりの忍ちゃんは、どうなってるんですかねぇ?
場所:ジャビスコこども将棋祭り 高校生女子の部Aクラス 4回戦
先手:東雲 青來
後手:桐野 花
戦型:後手佐藤流ダイレクト向かい飛車
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8八角成 ▲同 銀 △4二銀
▲7七銀 △3三銀 ▲3八銀 △2二飛 ▲4六歩 △6二玉
▲6五角 △7四角 ▲同 角 △同 歩 ▲4七銀 △7二銀
▲5六銀 △2四歩 ▲6六歩 △5二金左 ▲6五歩 △7三銀
▲6八玉 △7一玉 ▲5八金右 △7二金 ▲7九玉 △8二玉
▲8八玉 △6二金左 ▲7八金 △9二香 ▲9六歩 △9一玉
▲3六歩 △9四歩 ▲6八金右 △8二銀 ▲3七桂 △7三角
▲6四歩 △同 角 ▲4八飛 △7三桂 ▲4五銀 △4四銀
▲3四銀 △5五銀 ▲6七金直 △3二飛 ▲1六角 △1四歩
▲4三銀成 △3六飛 ▲4五桂 △9五歩 ▲同 歩 △9七歩
▲8六銀 △1五歩 ▲3八飛 △3七歩 ▲2七角 △2六飛
▲3七飛 △3六歩 ▲同 飛 △2七飛成 ▲3一飛成 △7一金
▲2一龍 △2八龍 ▲1一龍 △9八歩成 ▲同 香 △9九角
▲同 玉 △7八龍 ▲8八角 △6七龍 ▲9四桂 △7八金
▲8二桂成 △同 玉 ▲7九香 △8八金 ▲同 玉 △6五桂
▲7八金 △6六角 ▲7七銀打 △同桂成 ▲同 銀 △同角成
▲同 金 △6八龍 ▲7八桂 △8五桂
まで100手で桐野の勝ち




