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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第6局 ジャビスコこども将棋祭り☆午後の部(2015年5月5日火曜)
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68/725

56手目 休憩時間

挿絵(By みてみん)


 【第4ラウンド】

  インコンパチブル vs お花と愉快な仲間たち

  Common Sense Girls vs 象棋小姐

  将棋の女王様 vs Outsiders


 うわーん、2敗目を喫しちゃった。ショック。優勝の可能性が消えた。

「えへへぇ、拾わせてもらったのですぅ」

 桐野(きりの)さんは、うれしそうに上半身をくねくねさせた。

「香子(きょうこ)殿には、悪いことをしたな。だが、これも世の定め」

 世の定めというか、単に棋力負けだわ。

 っていうかさあ、30秒将棋で神崎(かんざき)さんと当たるとか、ひどくない?

《第4ラウンドについて、ご案内します。女子は最終ラウンドとなるため、ここで15分の休憩を挟みます。開始時刻は、15時15分からとなります。男子は予定通りにおこないますので、着席して準備を始めてください》

 あら、ここで休憩が入るんだ。

 トイレでバタバタする必要もなかったわね。

「お腹が空いてきたのですぅ」

「お昼、食べなかったの?」

「おやつの時間なのですぅ」

 まあ、私も甘いものは食べたいと思う……別腹だし……。

「さきほどから気になっているのだが、あそこ連中は、なにをしているのだ?」

 神崎さんはそう言って、会場の入り口付近を指差した。

 ひとだかりができている。

「あ、なんだか甘いものの予感がするのですぅ。砂糖にたかるアリさんですぅ」

 桐野さんは、ふらふらと入り口のほうへ向かった。

 私も気になるから、あとをついていく。

 ひと混みをかきわけるまえから、どこかで聞き慣れた声が聞こえてきた。

「か、カードは使えニャいです」

「なら、これで支払おう」

「い、1万円は、おつりが……」

「ハハハ、つりは要らない。とっておきたまえ。将棋普及への支援金だ」

「ニャ、ニャんとッ!?」

 この特徴的な語尾は……私たちが最前列に出ると、案の定、猫山(ねこやま)さんの姿があった。あいかわらずのメイド服で、八一(やいち)の宣伝をしているようだ。

 でも、私の目を引いたのは、猫山さんじゃなかった。彼女のまえに立っている、金ボタンのついた濃紺の服の少年。同じ色の半ズボンに靴下で、エナメルの高級そうな靴を履いていた。髪型は、おかっぱ。目は、自信と高貴さに満ちあふれている。

 男子よね? ちょっとだけ背が低いけど……だれ? 着席の指示が出てるのに。

 少年は1万円札を猫山さんに押しつけて、ロールケーキを受け取った。

 そして、こちらのほうへ視線を向けた。

「ああ、そこにいるのは、桐野さんじゃないか」

「こんにちはなのですぅ」

 ん? 知り合い? またこのパターンか。

 私はこっそり、神崎さんのそでを引いた。

「なんだ?」

「あの男の子、だれ?」

「なに? 知らぬのか?」

 だから、知ってて当然みたいな反応やめてくださいな。

「そして、そのとなりにいるのは、神崎さんと裏見(うらみ)さんだな」

 ふえ……? 私のこと、知ってる?

「囃子原(はやしばら)殿、ご機嫌うるわしく」

「こ、こんにちは」

 私は、とまどいながらも挨拶した。どこかで会ったっけ? 思い出せない。

「裏見さんのほうは、初対面か。自己紹介しよう。僕の名前は、囃子原(はやしばら)礼音(れおん)」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 え? それだけ? 学年とか出身校とか、いろいろ言いなさいよ。

「おや、通じなかったか。これは失礼した。囃子原グループは、知っているかな?」

 はやしばらぐるーぷ? 知らな……ん、ちょっと待って……。

「三威(みつい)、満菱(みつびし)、隅友(すみとも)、安多(やすだ)と並ぶ、五大財閥のひとつよね?」

「そのとおり。戦後、GHQによって解体された十六大財閥のひとつだ。その系列会社を再結集して作ったのが、囃子原グループ。僕の祖父が会長を務める、企業連合体だよ」

 祖父? ……え、ああッ! ってことはッ!

「も、もしかして、囃子原グループの御曹司ってこと……?」

「まあ、そういうことだ。よろしく頼む」

 うそーん……なんでそんなお金持ちが、ここにいるの?

 お忍び旅行とか?

「今日はぁ、どうしたんですかぁ? ピクニックですかぁ?」

 桐野さんが、私の疑問を代弁してくれた。

「ハハハ、スポンサーとして、挨拶にね」

 げッ……ジャビスコも傘下ってことか……すごい……。

「というのは建前で、今年は日日(にちにち)杯がある。その下見だ」

 あ、ふーん、なるほど、吉備(きび)さんが言ってたわね。

 今日は、他県の偵察がいるかもしれないって……あれ? ってことは……。

「あの……囃子原くんって……どこかの県代表?」

 私は、おそるおそる尋ねた。

「うむ、O山県の県代表だ」

 うっそッ!? 私がびっくりしてると、人混みから、ひとりの少女が現れた。

 時代劇に出てくる、女武芸者みたいな髪型で、なぜかスーツを着ていた。

 ぎろりと、私をにらんでくる。

「礼音様、この裏見という女、さきほどから非礼が目にあまります」

 ちょ、なに言ってんのよ、喧嘩売ってるわけ?

 私がにらみ返すと、少女の腰で、なにかがキラリと光った。

 黒い鞘から、白銀の刃(やいば)がみえる……って、銃刀法違反! 銃刀法違反!

「剣(つるぎ)、おちつけ。なにを興奮している?」

「将棋指しを名乗りながら、礼音様を存じ上げないとは、失礼千万」

 知るかっちゅーねん。

 私は忍者の神崎さんに助けを求めつつ、あくまでもにらみ返した。

「そんなの、どうでもよくね? つーか、礼音、そのロールケーキくれよ」

 剣と呼ばれた少女の反対側から、また別の少女が現れた。

 一見ショートヘアにみえるけど、後ろ髪をふたつの角みたいにたばねて、それがあたまのてっぺんにひょっこり突き出ている。アイシャドウがきつくて、いかにも感じの悪そうな女の子だった。

「なんだ、鬼首(おにこうべ)、食べたいのか?」

「ああ、腹減ったからな」

「なら、いくらでも食べるといい」

 囃子原くんは、物騒な名前の少女に、ロールケーキを手渡した。

 少女は、包装をはいで、素手でぱくり。汚い。

「これ、うめぇな」

「1万円渡してある。おかわりしたければしろ」

「やったぜ」

 おにこうべ(?)さんがパクついている横で、桐野さんは「ほえぇ」と声をあげた。

「お花も食べたいのですぅ……」

 そのひとことに気づいたのか、おにこうべさんは顔をあげた。

「ん……お花じゃねぇか」

「おひさしぶりですぅ」

「食いたいのか?」

「食べたいと思いまぁす」

「じゃあ、分けてやるぞ」

 おにこうべさんは、のこりのロールケーキをふたつに割った。

 指がクリームでべとべとなんですが……テーブルマナー……。

「ありがとうございまぁす。ぱくぱく」

「お花、おまえちゃんと、春の個人戦で勝ってるんだろうなぁ? え?」

「勝ってまぁす」

「よーしよしよし、全国でかわいがってやるからなあ」

「あざみちゃんは、勝ったんですかぁ?」

 桐野さんの質問に、おにこうべさんは大笑いした。

「剣(つるぎ)のバカが頓死しやがるからよぉ、楽勝だったぜ」

 おにこうべんさんの台詞に、剣さんは不快そうな顔をした。

「あれは油断しただけだ。秋は殺す。首を洗って待っていろ」

 殺人ダメ、絶対。

「おお、言っとけ、言っとけ……おい、猫耳ヘアの姉ちゃん、おかわり」

 おにこうべさんは、おわかりをもらいに行った。

 囃子原くんは、のこされた桐野さんに話しかける。

「それにしても、こんなところで桐野さんにお会いできるとは、光栄だ」

「将棋指しは引かれ合うのですぅ」

「たしかに……そこにもふたり、高名な将棋指しが隠れているからな」

 囃子原くんは、ちらりと野次馬に目をやった。

 全員の視線が、そちらに集中する。

「松陰(しょういん)、バレているぞ」

「輝子(てるこ)さま、これではバレないほうがおかしいです」

「そうか、松陰はかしこいな」

 観念したように、ふたりの少女が出てきた。ひとりは、長身で、ロングヘアー。眼鏡をかけている。キャリアウーマンみたいなひと。服装のセンスがイマイチかな……グレーのコートにベージュのシャツ、グレーのズボン。どうみても色の組み合わせが変。

 もうひとりは、中背の猫背で、前髪ぱっつんなセミロングヘアー。いかにも知的そうな感じのひと。なぜか、ちゃんちゃんこをまとっていた。風邪気味? あと、左手に扇子を持っている。

「囃子原礼音、ひさしぶりだな」

 眼鏡をかけているほうの少女があいさつした。

「ああ、ひさしぶりだ……ほかの防長ファイブは、どうした?」

 ぼうちょうふぁいぶ? ……また変な名前がでてきた。

「キャシーと亜季(あき)は、日米親善デーに行った。萌(もえ)は、課題が忙しいらしい」

「なるほど、それでわざわざ、リーダーと参謀がお出ましというわけか。年長者に負担をかけるとは、Y県も連携が取れていないのではないか? ん?」

「H県を偵察するのに、わざわざ5人集まる必要がないというだけだ」

 は? H県のほうが圧倒的に都会なんですが。

 今の会話を聞いたかぎりでは、このふたり、Y口県の代表かなにかみたいね。

「あと来てないのは、S根県とT取県なのですぅ」

 山陰は、さすがに来て……。

「わらわなら、ここにおるぞえ」

 ふわぁ、また変なのが現れた。

 白い着物に真っ赤な袴。巫女さん姿の美女……だけど、雰囲気がものすごく異様。ロングの髪は、蛇みたいにぐにゃぐにゃとカーブを描いていた。今にも動いて、ひとに襲いかかりそうな勢いだ。しかも、床につきかけているほど長い。

「美伽(みか)ちゃんもいたのですぅ」

「桐野氏(うじ)、おひさしぶりじゃ……囃子原氏(うじ)もな」

「ハハハ、出雲(いずも)さんもいたのか。となると、来ていないのは、T取県の……」


「待ったーッ!」


 突然の大声に、私たちはキョロキョロする。

「あ、うえなのですぅ」

 桐野さんのコメントに、みんな天井をあおいだ。

 ……げげ、なに、あのひと。カウボーイの格好してる。

「真打ちは、最後に登場するってねッ! とりゃーッ!」

 カウボーイ少女は、2階の欄干から飛び降りて、ドシンと着地した。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 そして、動かなくなった。

「大丈夫ですかぁ?」

「足……足、ジーンってなった……」

 オニコウベさんは、

「バカじゃね? 今の、へたしたら折れてたぞ」

 とあきれ気味。

 カウボーイ少女はひざをさすったあと、スッと立ち上がった。

 腰からリボルバーを抜いて(さすがにモデルガンよね?)、カウボーイハットを銃口で押し上げ、気取ったウィンクを決めた。

「ジャジャーン☆ 砂丘(すなおか)のガンマン、T取県の救世主、ジェーン・梨元(なしもと)、見参☆」

 うわぁ……ノーコメント。

 どん引きする私を尻目に、桐野さんはうれしそうにはしゃいだ。

「真沙子(まさこ)ちゃん、こんにちはですぅ」

「真沙子氏(うじ)も来ておったか。T取市からは遠かろうて」

「そうなの、高速バスで片道4時間」

 しかもジェーンって偽名なんかい。

 出雲さんはほかの県代表をじろじろ観察して、

「中国五県の女子代表がそろいぶみとはな」

 とつぶやいた。

 ナシモトさんはリボルバーをまたクルクルさせながら、

「ねぇねぇ、この際だから、日日杯のまえに、決着つけちゃわない?」

 とのたまった。

 囃子原くんは笑った。

「ハハハ、おもしろい。剣(つるぎ)、鬼首(おにこうべ)、指すことを許可するぞ」

「かしこまりました」

「は? なんで指さなきゃなんねーんだよ、めんどくせぇ」

 対照的なふたり。剣さんは、

「あざみ、おまえは出なくていい。私がひとりで片をつける」

 と言って、腰の刀に手をやった。

「ああ、勝手にしろや。負けたらカンチョーしてやるよ」

「ふえぇ、みんなかっこいいのですぅ、サインくださぁい」

 ひとりだけ、状況を把握できてないひとがいますね、はい。

 H島県の代表は、桐野さん、あなたでしょ。

 私が内心突っ込んでいると、代表者たちの視線は、Y口県代表にそそがれた。

「毛利(もうり)氏(うじ)は、どうするのじゃ? 指すのかえ?」

 出雲さんに尋ねられたのは、眼鏡のひとだった。毛利さんっていうみたい。

 毛利さんが首をたてに振りかけた瞬間、ぱちりと扇子を鳴らす音がした。

 ちゃんちゃんこを着た例の女性が、あいだに割って入ったのだ。

「お待ちください、輝子さま、これは罠です」

「なに? 罠なのか?」

「輝子さまのみ受験勉強で棋力が落ちているところを狙った罠です」

 ん? 毛利さんは3年生? それで偵察にくるとか、暇人ですね。

 私も、ひとのこと言えないけど。

「松陰(しょういん)、いくらおまえの進言でも、今のは聞き捨てならないぞ」

「この松陰(まつかげ)の、腹蔵(ふくぞう)なき直言(ちょくげん)でございます」

 松陰さんのおおげさな啖呵に、毛利さんは考えこんだ。

「……松陰(しょういん)、私はおまえを信頼している。ここは降りよう」

「ありがとうございます」

「あーッ! Y口県が逃ーげーたーッ! 敵前逃亡ッ!」

 煽りまくるT取県。

 毛利さんは、ナシモトさんににらみを利かせた。

「真沙子、きさま……」


 バサリ


 ふたたび扇子の音が鳴った。

 ちゃんちゃんこさんは、押し開いた扇子で、ぐるりと他の面子に圧力をかけた。

「それほどまでに戦いたいなら、まずはこの松陰(まつかげ)亮子(りょうこ)がお相手いたします」

「えーッ? 亮子ちゃん、県大会で優勝したことないじゃん」

 ナシモトさんは、銃口をくちびるに当てて、挑発するように片目を閉じた。

「あなたがたには、その程度で十分、ということです」

 煽りがえし入りました。

 ナシモトさんは両肩をすくめて、出雲さんに目配せした。

 出雲さんは、両手を巫女服の袖口にしまって、ふんと鼻を鳴らした。

「負けて当然、勝てば、わらわたちの恥……げに小賢しき女じゃのぉ……」

「うむ、松陰(しょういん)はかしこいぞ。赤点常習犯の私でも分かる」

 も、毛利さん、さっきから抜けてる発言が多いと思ったら、そういうことか。

 ちゃんちゃんこさんの脅しが利いたのか、あたりの勝負熱は急に冷め始めた。

「手みやげに、賞金首のひとつくらいと思ったけど、残念」

 ナシモトさんは、モデルガンをくるくる回して、ホルスターにしまった。

「っていうかぁ、お花はこれから決勝ラウンドなのですぅ」

 そうよ、なんでだれもそれを指摘しないかな。呆れ。

「どうやら、お流れのようだ。四国勢も来ていないし、8月までの楽しみとしよう」

 結局、囃子原くんが場をおさめた。

《これより、女子の最終ラウンドをおこないます。各チームは新しい席順を提出してから、着席してください》

 ほら、アナウンスきた。

 囃子原くんは、やや残念そうな、それでいて、さわやかな笑顔を浮かべた。

「では、H県の将棋、しっかりと偵察させてもらおうか」

「えへへぇ、パンツと手のうちは、隠さないとダメなのですぅ」

「日本人ならば、ふんどしであろうが。拙者は、ぱんてぃなど履いておらん」

 神崎さん、マジですかッ!?

【他県の登場人物】

◇囃子原(はやしばら) 礼音(れおん)

O山県。大都会(だいとかい)高校。2年生。


◇剣(つるぎ) 桃子(ももこ)

O山県。大都会(だいとかい)高校。1年生。


◇鬼首(おにこうべ) あざみ

O山県。すこやか青年の家。1年生。


◇毛利(もうり) 輝子(てるこ)

Y口県。三本矢(さんぼんや)高校。3年生。


◇松陰(まつかげ) 亮子(りょうこ)

Y口県。尊王(そんのう)高校。2年生。


◇出雲(いずも) 美伽(みか)

S根県。大国(おおくに)高校。2年生。


◇梨元(なしもと) 真沙子(まさこ)

T取県。砂丘(すなおか)高校。2年生。

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