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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
幕間 奥さまは宇宙人(2015年のいろいろな日付)
152/683

140手目 ちょっとホラーな奥さま

 こんちゃっス。すみちゃんっス。

 今日はエリーちゃんのおうち、っていうか、姫野ひめのさんのおうちで、お料理パーティーを開催することになったっス。角ちゃん、腕のみせどころっスよぉ。

大場おおばさん、なんだかうれしそうだね」

 いつものピ○チュウフードをかぶった遊子ゆうこちゃんが、話しかけてきたっス。

「角ちゃん、料理は大の得意っスからねぇ」

「このまえごちそうになった手作りクッキー、おいしかったよ」

 えっへん。角ちゃん鼻が高い。

「オーイ、こっちも準備できたぞ」

 ここで、エプロン姿の男子登場。

 たっちゃん、九十九つくもくん、ヨシュアちゃん、そして――

「大場お姉さん、お待たせしました」

 優太ゆうたくんが、エプロン姿でぴょんぴょん。かわいいっスねぇ。

「わざわざ駒桜こまざくらまで来てくれて、うれしいっス」

「H島駅から、車でお迎えしてもらいました。楽ちんでした」

 あのリムジン(?)みたいな車っスね。なんか縦長で事故りそうなのが怖いっス。

 それにしても、姫野邸のキッチン、めちゃくちゃ広いっスね。まるで、レストランの調理室みたいっス。今日は貸し切りっス。

「それでは、お料理パーティーを始めましてよ」

 ひらひらのピンクエプロンを着たエリーちゃんが、ホストっス。

 じつはこれ、『どうすればカンナちゃんが捨神すてがみくんにモテるか会議』あらため、『どうすればエリーちゃんが佐伯さえき様とおつきあいできるか会議』なんっスよね。カンナちゃんに協力義務があるのはいいとして、なんで角ちゃん、毎回毎回キューピッド役してるのか、よく分かんないっス。

 とにかく、あやしまれないように、それぞれ男子をひとり誘っておいたっス。

 アタリーデートのときと、いっしょっスね。角ちゃん、かしこい。

「さてと、ふたりひと組みで、一品作るんだったよな?」

 そうっスよ。辰吉たつきちくんの言うとおりっス。

 もとは遊子ちゃんの提案なんっスけど……男女ペアっていうのは、ちょっと露骨過ぎたんじゃないっスかね。最初は女子グループと男子グループに分かれるとか、そういうありきたりなのもあったと思うっス。ま、全員了承すれば、問題ないっス。

「俺と来島くるしま、捨神と飛瀬とびせ、佐伯とポーン、大場とやなぎくんでいいか?」

「アハッ、それでいいよ」

「Kein Problem!!」

「うん、それで……」

「問題ないっス」

「僕も」

「よろしくお願いしまーす」

 遊子ちゃんは、特に返事なし。返事したほうが、いいっス。

「事前に、メニューは決めておくって話だったよな? みんな、なにを作るんだ?」

「あ、言い出しっぺからっスよ、そういうのは」

「俺と来島は、オムライスを作るぞ」

 なかなかオーソドックスっスね。

「で、大場たちは?」

「角ちゃんたちは、カニクリームコロッケを作るっス」

 優太くんの好物っス。カレーが食べたいって言われたけど、さすがにムリっス。一晩寝かせないと、おいしくならないっスからね。それに、分量が余るっス。

「ポーンと佐伯は?」

「わたくしたちは、シュトーレンを焼きます」

「しゅとれえん? ……なんだ、それ?」

「ドイツのクリスマスケーキですわ」

 まだクリスマスまで半年あるっス。

 でも、デザートを作ってくれるのは、助かるっスね。

 遊子ちゃんがご飯もの、角ちゃんがおかず、エリーちゃんがデザート。

 こうなると、メインになにか欲しいっス。お肉とか。

「飛瀬と捨神は?」

「アハッ、ちゃんと準備してきたよ」

 九十九ちゃんはそう言って、おっきな紙袋に手を突っ込んだっス。

「はい、カップラーメン」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「ま、まさか、それだけってことはないよな……?」

「え? これだけだよ? 1チーム1品でしょ?」

 たっちゃん、ぷるぷる。

「スープがないのは事実だが、カップラーメンはないだろ、カップラーメンは」

「もしかして、箕辺みのべくん、カップラーメン嫌い?」

「好き嫌いの問題じゃないぞ。料理パーティーなんだから、料理をしろよ」

「電子レンジでチンするから、ちゃんとした料理だよ?」

 これはもう、話が通じてないっスね。

 たっちゃんは、レンジでチンは料理じゃないと熱弁。説得に成功したっス。

 九十九ちゃん、残念そうな顔で、カップラーメンをお片づけ。

「そっか……じゃあ、どうしようかな。これしか持ってきてないんだけど」

「メイドに訊けば、なにか冷蔵庫にあるかもしれませんわ」

「っていうか、カンナちゃんは、なにも持ってきてないの?」

 と遊子ちゃん。なかなか手厳しいっスね。

「いっしょに買い出しに行ったから……カップラーメンしかない……」

 ふたりで出した結論が、これなんっスか。

 将来が思いやられるっス。

「あっちで相談してくるから、ちょっと待って……」

 カンナちゃんと九十九ちゃんは、キッチンから出て、廊下で相談。

 角ちゃんたちは、それぞれチームに分かれて、レシピを確認したっス。

 5分ほどで、カンナちゃんたちがもどって来たっス。

「おかえりっス……あれ? その挽き肉は、どうしたんっスか?」

「宇宙船で作ってきました……人造肉……」

 このネタがやりたかったんっスね。芸が細かいっス。

 お肉を用意してあるなら、最初からそう言って欲しいっス。

 どうせ、廊下に隠してあったとか、そういうオチっス。

「それじゃ、みんなで分かれて作ろう。ケーキが一番時間かかるか?」

「Ich glaube so」

「僕たちのはデザートだから、焼けるまえに食べ始めていいんじゃないかな?」

 とヨシュアちゃん。さすがは常識人っス。

「あ、角ちゃんたちのも、仕込みにちょっと時間がかかるっス」

 中身のホワイトクリームを冷やさないといけないっスからね。

「そっか……とりあえず、材料を仕込んで、焼くタイミングだけ合わせよう」

 さすがは会長、段取り上手っスね。

 みんなバラけて、自分たちのキッチンへ。

 角ちゃん、がんばるっスよぉ。

「大場お姉さん、まずは、なにをするんですか?」

「手を洗うっス」

 料理の基本っスね。ちゃんと消毒して、タオルで拭き拭き。

「お姉さん、手がすごい綺麗ですね。すべすべ」

「うにゃッ!?」

 角ちゃん、きょどっちゃ〜う。

「それで、なにをすればいいんですか?」

「ま、まずは、ホワイトクリームを作るっス」

 フライパンにバターを大さじ6杯。電気コンロに弱火でかけるっス。

 ひとり2個として、16個。結構、多いっス。

「いい匂いがしますね」

「バターは、やっぱりいいっスねぇ……と、完全に溶けたっス」

 小麦粉を大さじ8杯。どろりとしたら、木べらでさくさく混ぜるっス。

「僕にも、やらせてください!」

「焦がさないように、注意するっスよ」

 うまいっス、うまいっス。手首のスナップを利かせるっス。

 このあいだに、鍋を用意して、卵を茹でるっス。これもあとで必要っス。

「そろそろですか?」

 ソースをチェック。

「……いい感じになってきたっスね。牛乳を加えるっス」

 牛乳は、さすがに全部入れるとよくないっス。4回に分けるっス。

「ここで、泡立て器の登場っス」

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

「ねっとりしてきましたね。完成ですか?」

「まだまだっス」

 牛乳をちょっと加えて、弱火でかき混ぜるっス。

 クリームみたいなどっろどろになるまで、やるっス。

 できあがったら、塩をふって、お好みで隠し味。

 今回はアーモンドにしてみたっス。砕いて追加。

「次は、カニ缶を開けるっス」

 クリームコロッケと言えば、カニ缶。定番っスねぇ。

「僕もなにかしたいです!」

「じゃあ、タマネギをみじん切りにするっス」

 優太くんは、タマネギの皮をむいて、包丁でざくり。ちょっと危ないっス。

「こうやって持つんっスよ」

「あ、分かりました」

 そのあいだに、角ちゃんは鍋を用意。バターを入れて過熱。

「タマネギを入れるっス」

「はーい」

 じゅうっという音がして、炒め物開始っス。塩、コショウ、お酒を入れて、さらにゆで卵を追加。あとは、クリームソースに混ぜ合わせるっス。

「できたっスね」

「これを焼けばいいんですか?」

「冷蔵庫で、冷やさないといけないっス」

 ラップをかけて、そのまま大型冷蔵庫へ。

 すっごくおっきいっスね。ひとが入れそうっス。

 これだけあるなら、30分で間に合いそうっス。

「待ち時間ができちゃったっスね」

「将棋を指しましょう! 将棋!」

 さすがに赦して。

「ふつうにおしゃべりするっス」

「じゃあ、団体戦の話をしましょう」

 結局、将棋っスか。団体戦は負けたから、その話はしたくないんっスけどねえ。

「優太くんの学校は、市代表なんっスよね?」

「そうです。僕が個人戦の市代表ですから、独占ですよ」

 独禁法どっきんほう違反っス。警察にしょっぴかれるっスよ。

 それにしても、角ちゃんとおなじくらいで、しかも男子なのに市代表ってことは、地域によって実力がバラバラなんっスね。駒桜市は、意外とレベルが高いっぽいっス。

長門ながとお姉さんとキングお姉さんが、また会いたがってましたよ」

「そのうち、遊びに行くっス……ん?」

 角ちゃん、不穏な空気を察知。キッチンをきょろきょろ。

 カンナちゃんが、ばらばらになったタマネギを手に乗せて、きょとん。

「この野菜……皮をむいたらなくなっちゃった……」

「ほんとだ。不良品かな?」

 たまねぎを手で解体しちゃダメっス!

「ふたりとも、なにしてるんっスか。それは包丁で切るものっス」

「え……これ、皮じゃないんだ……」

 あたりまえっス。猿でも知ってるっスよ。

 ちょっと手伝うっス。

「なにを作ろうとしてるんっスか?」

「ハンバーグ……」

 あ、それはいいチョイスっス。簡単っスからね。

「まずは、タマネギをみじん切りにするっス」

「みじん切りって、なに……?」

 お手本を示すっス。角ちゃんの華麗な包丁さばきをみるっス。

 

 ダダダダダダ


「すごい……」

「アハッ、さすがは大場さん、ありがとね」

「のこりは、自分たちでやるっス」

 ふたりは、どちらが切るかで相談を始めたっス。はやくするっス。

「じゃあ、ふたりでやろうか……」

「そうだね。こうやって手を合わせて」

「なにやってるんっスか! 危ないっス!」

 九十九ちゃんには、卵を割ってもらうっス。

「え? 卵を割るの? どうやって?」

 なんで卵が割れないんっスか。こうやるんっスよ。

 角ちゃん、華麗に卵割り。

「すごいや、手品みたい」

 あ、そのキーワードはマズいっス。ヨシュアちゃんが反応したっス。

「卵割りマジックなら、僕にもできるよ」

 そう言ってヨシュアちゃんは、卵をスプーンのうえに乗せたっス。

「手を触れずに、このまま割るよ。3、2、1……」


 パカッ

 

 卵がスプーンのうえで割れたっス。

 角ちゃん拍手。

「飛瀬さんも、なにかやってみてよ」

 ヨシュアちゃん、いつもの挑戦状。

「うーん……じゃあ、この卵を、手を触れずにゆで卵にします……」

 カンナちゃんは両手を伸ばして、うにうに動かし始めたっス。

「……できた」

 殻をむいてみて……あ、ほんとに、ゆで卵っス。パチパチパチ。

「オーイ、そっちは準備できたか?」

 たっちゃんの声。角ちゃんたちは、あわてて準備。

 ヨシュアちゃんも、エリーちゃんのところに戻ったっス。

「とにかく、さっさとタマネギをみじん切りにするっス」

「了解……」

 カンナちゃん、包丁をもって、ザクリ、ザクリ。

 なんかみてて危なっかしいっス。

「……こんな感じかな」

「ふぞろいだけど、これはこれで味があるっスね」

「これを、お肉といっしょに混ぜればいいの……?」

「さきに炒めておいたほうがいいっスよ。フライパンに油をひくっス」

 こうして、角ちゃんたちはハンバーグの準備が終えたっス。

「大場お姉さん、そろそろコロッケを作りましょう!」

「そうっスね。30分経ったっス」

 冷蔵庫から、クリームソースをとりだして、サラダ油を準備。

「これを、手に塗るっス」

「え? 手に塗るんですか?」

「そうしないと、タネがべとついて、うまく丸められないっス」

 ぬりぬり、こねこね。

 たわら型の生地が、16個できたっス。

 小麦粉、溶き卵、パン粉をつけて、いよいよ揚げるっス。

「たっちゃん、遊子ちゃん、こっちは準備オッケーっス」

「アハッ、こっちも大丈夫だよ」

 じゃ、一斉に熱を通すっス。

 網じゃくしで、丁寧に揚げるっスよ。

 

 ジュー

 

「うわあ、いい匂い」

「大きめの皿を出すっス」

 きつね色のコロッケを、皿に乗せていくっス。

「できたーッ!」

 みんなで持ち寄って、皿に盛り合わせ。

 オムライス、コロッケ、ハンバーグ。結構、豪華っスね。

「ごめん……ハーバーグがちょっと焦げた……」

「そのほうが、料理パーティーって感じでいいぞ」

 たっちゃん、気配り上手。

 エリーちゃんとヨシュアちゃんも、ケーキの生地をオーブンに入れて、着席。

「いただきまーす」

 パクリ……からっとして、おいしいっス。

 なかは熱々のとろとろで、角ちゃん、大満足。

「みんな、うまくできたね」

 と遊子ちゃん。オムライスも、ちゃんと味付けされててグッド。

 ケチャップが甘くていい感じっス。

「……あれ? このハンバーグ、なんの肉っスか?」

 豚と牛の合挽きかと思ったら、違うんっスね。未知の味っス。

「それはね……捨神くんが食べたがっていたものだよ……」

「なんっスか?」

「わ・た・し……」

「アハッ、ダメだよ、飛瀬さん、そんな恥ずかしいこと言っちゃ」

 角ちゃん、タメ息。

「肉の種類を訊いてるんっスよ」

「うん……だから言ったよね……人造肉だって……」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 え?

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