表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第13局 香子ちゃん、部員の秘密を知る(2015年5月25日月曜〜27日水曜)
141/682

129手目 後輩たちは反抗期

 ガチャンと、鉄製のドアが閉まった。

 私は踊り場から顔をのぞかせる――来島くるしまさんの姿はない。

 どうやら屋上にあがってしまったようだ。

 立ち入り禁止のはずなんだけど……っていうか、立ち入り禁止の看板あるし。

 私はドアに近づいて、こっそりと聞き耳を立てた。

辰吉たつきちくん、お待たせ」

「お、遊子ゆうこ、今日は早かったな」

「体育がつぶれて、着替える時間が省けちゃった」

 この声は――箕辺みのべくんかしら。なんで箕辺くんが屋上に? 来島さんと?

「今日のおべんとうは、あんまりうまくできなかったかも」

「遊子の作ったものなら、なんでもうまいぞ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 校内デート!? なにやってるんですかッ!?

 あ、あのマジメそうな箕辺くんと来島さんが付き合ってるなんて。

 裏見うらみ香子きょうこ、不覚。

「辰吉くん、そんなにくっついたらアーンできないよ」

「食べるまえにギュ〜させてくれ」

 あわわわ、なにか危ないことが始まりそうで、私はとんずらした。

 

  ○

   。

    .


「ハァ……ハァ……びっくりした……」

 あわてて逃げてきたけど、ここは……1年生のフロアみたいね。

 ついでに馬下こまさげさんたちの様子をみておきましょう。

 私は入り口から教室をのぞきこんだ。

 すると、窓際にある馬下さんのテーブルを囲んで、福留ふくどめさんと赤井あかいさんの姿が。

「ぜったいデートのお誘いだって」

 福留さんはそう言って、テーブルによりかかった。

 馬下さんはかるく頬を染めた。

「連絡網の作成を頼まれただけです」

「ふたりっきりで連絡網を作るなんて、そんなの口実に決まってるじゃん」

 福留さんは、となりの赤井さんに同意をもとめた。

「だ、断定はできませんが。チャンスだと思います」

「ほらほら、いっちゃいましょうッ! 当日は勝負服で兎丸うさまるくんを悩殺だぁッ!」

「制服で行きます」

「制服? 制服でアピールするの? 兎丸くんにスリーサイズ計られちゃうぞぉ」

 馬下さんの胸を揉み始める福留さん。馬下さんは悲鳴をあげた。

 こらぁッ! 私が受験勉強で目をはなしてるスキに、なにやってるんですかッ!

 駒桜こまざくら高校将棋部、全員集合ッ!

 

  ○

   。

    .


 【放課後】

 

「というわけで、女子将棋部は恋愛を禁止します」

「「「は?」」」

 なんですか、その返事は。礼儀がなってない。

「返事は『はい』でしょ」

裏見うらみ先輩……ついに老害と化した……」

「プライベートに干渉するのは、よくないと思いますよ?」

「来島先輩の言うとおり。じゃけん即撤回しましょうね〜」

「う、裏見先輩、どうしたんですか? もみじ、心配しちゃいます」

 口々に反論する後輩たち。私は一喝する。

「あなたたち、最近たるんでるでしょ。夏の県大会は、どうするつもりなの?」

「強くぶつかって、あとは流れで……」

飛瀬とびせさん、今、なんて言った?」

「あ、はい……がんばります……」

「がんばります、じゃないでしょ。具体的になにをやってるの? たまに顔を出しても、漫画を読んだりゲームをしたり、ぜんぜん練習してないじゃない。夏の県大会に私は出られないんだから、のこりのメンバーが自覚をもってやってもらわないと困るわ」

「これは……シャートフ星名物、宇宙バーで後輩社員に説教するおじさんの流れ……」

 こらぁッ! おじさん扱いするなッ!

 いきどおる私のまえで、福留さんは赤井さんに耳打ち。

「機嫌が悪いね。なんかあったのかな?」

「福留さんッ! 聞こえてるわよッ!」

「うわぁッ!? で、でも、ほんとに機嫌が悪くないですか?」

 受験ストレス+松平まつだいらの奇行+後輩の裏切り+恋愛いちゃいちゃで機嫌が悪くならないほうがおかしいでしょ。もっと先輩をいたわってくださいな。

「恋愛禁止はダメ……愛は宇宙を救う……」

「運営の決定権は、部長の私と主将のカンナちゃんにあります」

 くッ、飛瀬さんと来島さん、彼氏持ちゆえの頑強な抵抗。

 っていうか、だんだん当初の目的とズレてきてる。

 私の志望校を横流しした犯人捜しだったのに。

 いったん冷静になりましょう。

「こほん……じゃあ、話題を変えましょう。昨日、松平と会ったひとはいる?」

 私の質問に、返事はなかった。

 福留さんは、ふたたび赤井さんに耳打ち。

「話題を変えるってレベルじゃないと思うんだけど」

「松平先輩とのあいだに、なにかあったんですかね」

 こらぁ、ひそひそ話をしない。

「福留さん、松平とは会ってないの?」

「あ、会ってないです」

「赤井さんは?」

「昨日は、特に」

「馬下さんは?」

「お会いしてません」

「飛瀬さん」

「いいえ……」

「来島さん」

「会ってません」

 草薙くさなぎさんは来ていない。となると、残りは――

葉山はやまさんは?」

「え、あ、う」

 葉山さんは、びくりとちぢこまった。あ・や・し・い。

「はーやーまーさーん?」

「あ、会ってません」

「ほんとうはぁ?」

「……会いました」

 なるほど、彼女がユダだったか。私は指の骨を鳴らす。

「ちょっと待ってくださいッ! 会ったからなんなんですかッ!?」

「なんの目的で会ったの?」

「廊下でたまたますれちがって、挨拶しただけです」

「ほんとうはぁ?」

「ほんとうですってばッ! 松平先輩に確認してくだいッ!」

 うーん、あやしい。けど、拷問するわけにもいかない。

 あとで松平に吐かせますか。まだ教室にいるかもしれないし。

 私はとりあえず教室をのぞくことにした。

 ドアを開けると、知り合いの女の子が何人かいるだけだった。

「あれ、香子ちゃん、どうしたの?」

「ちょっと寄っただけ」

「そういえば、担任のかつら先生が香子ちゃんのこと捜してたよ」

 ん? 桂先生が?

 桂先生というのは、私のクラスの担任で、将棋部の顧問のおじいちゃんだ。

 数学担当だから、前回の模試の件かしら。変なケアレスミスをしてしまった記憶が。

「まだ職員室にいる?」

「さあ」

 ま、知ってるわけないか。私は職員室へ移動を開始。

 1階についたところで、ひそひそ声が聞こえた。

「やっぱりそうだよ」

「そうなのかな……」

 来島さんと飛瀬さんだ。私は、壁のでっぱりのうしろに隠れた。

「裏見先輩、松平先輩にふられたんでしょ」

「ほかに彼女ができたから……ってこと……?」

「そう。で、その彼女になった女を捜してるんじゃないかなあ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ええぇ?

「地球のことわざで、なんて言うんだっけ……逃がした魚は大きい……?」

「松平先輩、女子に人気で倍率が高いんだから、キープしておけばよかったのにね」

「でも、あの松平先輩が、ほかの子になびくかな……?」

 意味が分からない。なんでそんな話になってるの。

 憶測が憶測を呼んでいる。

 私は訂正のため、柱のかげから姿をあらわした。

「ちょっと、来島さん、飛瀬さん」

 ふたりとも、あッという表情。遅い。と思いきや――

「裏見先輩、盗み聞きはマナー違反だと思いますよ?」

 ぐッ、いきなりジャブを飛ばしてきた。

 来島さん、見た目と違って応手が強い。反抗期か。

「あなたたち、勘違いしてるわ。松平の彼女がどうとかいう話じゃないから」

「じゃあ、どういう話なんですか?」

 私は志望校の情報が漏れた件を伝えた。来島さんと飛瀬さんは、半信半疑。

「それだけですか?」

「それだけ、って言うけど、志望校でストーカーされたら怖いでしょ」

「私と捨神すてがみくんなら、一緒の大学へ行きたい……」

 話を逸らさない。自分語りしない。

「裏見先輩、なんで将棋部から情報が漏れたと思うんですか?」

「だれにもしゃべってないからよ」

 来島さんは納得しない表情。

「ほんとですか? 同級生とかにしゃべってません?」

「そういう話、しないもの」

「裏見先輩……友だち少ない説……」

 なんでそういう解釈をするかなぁ。

「飛瀬さん、最近なんか強気ね」

「捨神くんとつきあい始めてから積極的になった自覚……ある……」

「だからって、今朝みたいなのはどうかと思うわよ」

 私のひとことに、飛瀬さんは「え?」となった。

「今朝……裏見先輩と会いましたっけ……?」

 あ、しまった。尾行してたのがバレた。

「早朝から後輩をストーカーする先輩……さすがに引く……」

「す、ストーカーしてたわけじゃないのよ。志望校の件で質問しようと思ったの」

「裏見先輩がストーカー気質だから松平先輩がそう見えるんじゃないですか?」

 はぁ? 後輩たち、言いたい放題。さすがにこれは〆る。

「来島さん、あなた昼休みに校則違反で屋上にあがってたでしょ」

「あ、私のこともストーカーしてたんですか?」

「こちら、駒桜高校ストーカー部……」

「話を逸らさないッ! 屋上にいたでしょッ!」

「いたからなんなんですか?」

 校則違反だっちゅーに。私はもういちど指摘した。

「校則? 校則なんて気にしたことないです」

 こ、この子、けっこう思考が危ない。飛瀬さんも困惑し始めた。

「遊子ちゃん……さすがにそれはどうかな……」

「学校が勝手に決めたことに従う必要はないと思うよ?」

「宇宙公務員として、それには賛成できない……ルール大事……」

「じゃあ、捨神くんのマンションに泊まるのも校則違反だよ?」

「あ、そっか……愛はルールより大事……」

 話がどんどんズレる。私はとりあえず志望校の件にもどした。

「とにかく、志望校を漏らしたひとを捜してるわけ」

「ですから、ほかのひとに言ってないんですか?」

「言ってないってば」

「ほんとーに言ってないんですか? よく思い出してください」

 よく思い出すもなにも、言ってな――あれ? ヨッシーに言った?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ