03
「いただきま~~す!」
翌日、ひまは嬉しそうな顔で手を合わせた。隣の萩や向かいのあざみ、紫苑も同じ様に手を合わせる。それぞれの前にはメニュー表には無いカツカレーが置かれていた。相変わらずサクサクに揚げられたカツに、辛すぎずちょうど良い味のカレー。美味しそうに頬張るひまにあざみは申し訳なさそうな顔を向ける。
「ひま、昨日は悪かったな……その、うちのクラスの人間が失礼な態度を取って」
「ハナ兄のこと? 大丈夫だよ~~、むしろ裏メニュー教えてくれてビックリした!」
笑顔でカツカレーを食べ続けているひまにあざみは安堵の表情を浮かべた。昨日突然あざみたちの机に来た花は、萩にこそ積極的に話しかけていたがまるでひまの存在は無視しているようで名前を聞くことすらなかったのだ。それどころか彼女のことを〝一年生〟と呼んでいた。流石に失礼だとは思ったが、あざみが注意する前に萩とひまは裏メニューが何かに気がつきはしゃぎだし、花はその隙にクラスに帰ってしまったのである。クラスに帰ってから一度彼に文句を伝えたが彼からは〝じゃー菊家から向日に謝っといてー〟ときた。何故あざみが彼の代わりに謝らなければならないのか。しかしながら彼があざみたちの机に来たのも彼があざみのことを妙に気にかけてくるからで、そう考えれば彼がひまに失礼な態度を取った大元の原因はあざみにあるのではないかと納得した。
「お姉ちゃんはハナ兄といつから仲良いの?」
「仲良くはないけど……話をするようになったのは今年に入ってぐらい……? あれ、去年ってどうなんだったっけ……なんか思い出せないな」
「へぇ~~、そう考えるとひまや先生ってお姉ちゃんから大事にされてるんだ。嬉しい~~!」
「べ、別に⁉ 萩もだし!」
「あざみチャン、照れ隠しの方向間違ってるよ、嬉しいけど……紫苑クンは怖い顔しないで」
萩は呆れた顔で溜め息をついた。深見の話になると紫苑はすぐ機嫌が悪くなる。あざみが彼と仲良くしているのが気に食わないからだが、どうも彼女はそれを理解していないようで今も不思議そうな顔で不機嫌な紫苑を見ていた。
「ひまチャンも花クンにあまり話しかけてなかったよね? 実は人見知り?」
「先輩に声かけるのってドキドキしちゃうもん!」
「でも私たちには話しかけてくれたんだ?」
「そうだよ~~! だって仲良くなりたかったんだもん! ひま頑張ったの!」
「あわ~~! 可愛い~~!」
「あざといだけだ」
「シオン兄ってば冷たい~~! 本当はちょっとぐらい嬉しいって思ってるくせに!」
紫苑の方を指差し、ひまはニンマリと笑う。心を読まれていることは明らかで、紫苑は黙り込んだ。そんな彼に萩もニヤニヤとしている。あざみは三人の様子を見て、自分の口角が上がるのを感じた。こんな賑やかな昼休みを過ごしているなんて、二年生になりたての頃の自分に言っても信じてもらえないだろう。一学期の間、そのたった数ヵ月でこんなにも友人に恵まれるとは思っていなかった。もう夏休みはすぐそこまで来ている。
「……萩やひまは、夏休みはどうするんだ?」
「私は文化祭の準備もあるし、部活もあるからちょくちょく来るよ」
「ひまも文化祭の準備に行くし、そもそもお姉ちゃんの監視をしないとだからほとんど毎日学校に居ると思うよ~~」
「そう……」
あざみは素っ気なく言ったが、その声にも表情にも喜びが隠しきれていなかった。二人や深見に会えるのならば、夏休みも悪くない。あざみは満足気に笑ってカツカレーを口に入れたのだった。




