01
第一話
菊家 あざみ 十六歳。胸まで伸びた赤みがかった茶色の髪。砂糖を煮詰めた飴のような色をした目は鋭く、いつも不機嫌そうな顔をしている。クラスメイトと話す姿はあまり見られないことから、友人は少ないのだろう。何も無いところをよく見つめており、その耳には度々イヤホンをして外部の音を遮断している。彼女のクラスメイトからの証言にて彼女の勘がよく当たるという情報を入手。同学年の生徒たちからは〝不思議ちゃん〟として遠巻きに見られているようだ。悪い噂が絶えないが、それも含めて彼女に何かしらの能力があると見られる。No.0116とともに彼女に接近、その能力を確認すること。
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「目障りなんだけど、告白ならヨソでしてくんない? そこに居られると部室入れないし」
五月の大型連休も明けた頃の放課後、あざみが部室である音楽室に向かうと扉の前で一人の男子生徒が女子生徒の腕を掴み〝熱心な〟告白をしていた。告白されている女子はか弱く、掴まれた腕を振り回そうとするもびくとも動いていない。確かに音楽室がある十字棟と呼ばれる建物は本館と違って人通りが少ないので、告白をするには絶好の場所だろう。しかしながら、何もわざわざ音楽室の扉の前でしなくても良いではないか。まあ恐らく本館から十字棟への渡り廊下辺りで告白をして、この女子に逃げられたから追いかけて彼女を捕まえたのがたまたま音楽室の目の前だったのだろうが。
腕を掴まれている彼女はあざみに背を向けておりあざみは彼女の顔を見ることはできない。それでも困っているのは明らかだった。
「何だよお前、目障りなのはそっちだ、失せろ」
「……そこ、音楽室の前だって分かってる? 部室に入りたいって言ってんのこっちは」
「うっせぇなぁ、自分が男に相手されないからって嫉妬かよ」
「検討違い甚だしいな本当……まぁ良いか、忠告はしたから」
この男子とは会話ができる気がしないあざみは深い溜め息をついた。男子に相手にされないから、なんて言われても相手をしていないのはあざみも同じだ。男子だけでなく、女子もそうだ。どうせ関わっても最後にはうまくいかなくなる、これまでの人生を反省して高校ではほとんど誰とも関わらないようにしていた。何か言われても相手をしないようにしているといつの間にか悪い噂が絶えなくなり、今や悪い意味で学年の有名人になってしまった。
そこまで考えて、暗い気持ちを振り払うようにあざみは首を振る。それから彼女は左手を握りしめて目を閉じた。そして彼女が再び目を開けると十字棟の中を風が吹き抜け、途端に音楽室の重たい鉄の扉が開く。開いた扉は彼女の瞳に目を奪われていた男子生徒の後頭部に直撃した。ガン、という痛そうな音にあざみは呆れた顔をする。
「あーあ、言わんこっちゃない……」
「なっ……お前が何かしたのかっ!」
「さぁね」
「くっそ、覚えてろキツネツキ!」
そう言い捨てた男子生徒は後頭部を手で押さえながら走り去っていった。キツネツキとはまた古臭い言い方をするものだ、とあざみはクスクス笑い口元を手で覆った。どうせこれでまた悪い噂が増えるが、部室に入れるようになったので良しとしよう。
「あの……?」
「どいて、アンタも邪魔」
一連の流れに呆気にとられていた女子生徒が振り返り、あざみは苦い顔をして目を逸らした。軽くウェーブのかかった薄茶色の髪、ぱっちりとした二重の目、小ぶりな赤い唇に透き通るような白い肌
見る者を魅了する美少女の名前は宮城野 萩。関わることを避けて同級生の事情に疎いあざみでも彼女の名前は知っていた。あざみとは別の意味で有名人だ。ただでさえ自分の噂で辟易しているというのに、更に有名人の彼女と関わるのはごめんだった。
「た、助けてくれてありがとう!」
「手を放して、あと話しかけないで……呪われるよ」
目を涙で潤ませながらも笑顔であざみの手を掴んでお礼を言う萩を彼女は睨みつけた。話すだけで呪われるなんてことはないはずだ。そもそもあざみにできるのはこんな風に扉を開けたりすることだけで、人を呪うなんてそんな魔女のようなことはできない。この『力』だって一体何なのか分かっていないのだ。昔から使えた気がするが、それがいつからだったのかあざみには分からない。
萩に掴まれた手を振りほどこうとした時、あざみは視界が歪むのを感じた
「手ェ、放し、て……」
「え、大丈夫ですか⁉」
「うるっさぃ……」
最近この『力』を使っていなかったから加減を間違えたのだろう。この『力』は使いすぎるとこうやって眩暈がして。暗くなっていく視界。
あぁ、また怒られちゃうな。心の中でそう呟いて、彼女はその場に倒れた。




