教本の乙女と、大男騎士たちの葛藤
「……百合様、本当にその、お召し物が……」
ヴァルハイト侯爵邸の訓練場を見下ろすテラスで、ギルバートが190センチを超える巨躯を小さく丸めるようにして、顔を真っ赤に染めて背けた。
百合が身にまとっているのは、数日前に葵から届いたリメイクドレスだ。インストラクターとして鍛え上げられたしなやかな体型に、葵の完璧な仕立てが重なり、豊満なバストラインが柔らかく押し上げられている。
この国の女性特有の寸胴体型とは一線を画す、圧倒的なメリハリと豊かなボリューム。
(っ……くそ、デマリア教本の……『ユーリー』そのものではないか……!)
ギルバートの脳裏に、15歳になると渡されるな官能的な教本『愛しのユーリー』の挿絵が鮮明にフラッシュバックする。理想の乙女として描かれていたユーリーの胸元。まさか、それを遙かに上回る美しい胸を目の当たりにする日が来ようとは。
「葵が私の体型に合わせて直してくれたの。すごく動きやすいよ」
百合が屈み込んで生地の伸縮性を確かめるたび、豊満な胸元が揺れ、生地の張りがさらに強調される。
「つ、気をつけてください……っ!」
傍らに控えていた弟のジェイドが「くっ……」と息をのみ、咄嗟に手で口元を覆った。冷徹な騎士として知られる彼の耳たぶまで、熟した果実のように赤く染まっている。
(兄上も絶対、教本のユーリーを思い出している……! だが、実物の百合様のほうが何倍も毒が強い……視線のやり場がない……!)
「……あの、2人とも? 距離が近すぎない……?」
巨躯の2人に左右から挟み込まれ、百合が小さく息をのんだ。視界が彼らの厚い胸板と広い肩幅で完全に覆い尽くされている。
「近すぎるのは……百合様の方です」
ジェイドの低くかすれた声が、百合の耳孔を直接揺らす。彼はそっと指先を伸ばし、ドレスの胸元の縁に触れるか触れないかの距離で滑らせた。
「こんな……教本のユーリーすら霞むようなお姿で、俺たちの前に立つなど……反則です」
「教本……? ユーリー……?」
首をかしげる百合の胸元が、呼吸に合わせて再び上下する。その無自覚な動きに、ギルバートの喉仏が大きく揺れた。
「……お聞きにならないでください。男どもの……見苦しい妄執の産物です」
ギルバートは苦しげに顔を歪めながらも、抱き寄せた肩の手を離そうとはしなかった。壊れものを慈しむように、大きな掌で百合の背中をしっかりと引き寄せる。
かつて高慢な女性たちに心を踏みにじられ、「女」を恐れ遠ざけていたはずだった。
だのに今、腕の中に収まる小さな乙女の温もりと、布地越しに伝わる柔らかさ、そして自分たちをまっすぐ見つめてくれる純粋な瞳が、彼らの奥底に眠っていた熱を容赦なく呼び覚ましていく。
「百合様。俺たちは……騎士である前に、あなたを愛おしいと望む『男』なのです」
「ギルバート……っ、ジェイド……」
「わかっていただけますか? 今のあなたがどれほど魅力的で……俺たちの理性を痛めつけているか」
ジェイドが包み込んでいた百合の手首に、そっと誓いのキスを落とした。続いてギルバートが、彼女の額に愛おしさを込めた深いキスを捧げる。
大男ふたりの熱い息遣いと愛しさに包まれながら、百合の鼓動は激しく打ち鳴らされていた。




