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賢者の息子に転生したけど魔法が使えない件  作者: 天空 宮
第二章 入学試験編 ~学院にて入学したい僕~
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第20話 入試:1日目終了

 ミラ姉さんが家を出てから、はや1年が経つ。

 家が遠いこともあり、学院が休みに入っても家に帰ってこなかった。

 僕としては修行や知識を付けるのにより良い環境になったが、家族が少なくなったというのは思いのほか心に穴が空いたようで物足りなさも感じていた。

 彼女は成長していくうちに昔の強気な物言いや行動が薄れ、淑女らしい振舞いを求められることが多くなっていった。

 それで僕がより近づきにくい人種へとレベルアップしていったことになるのだが、彼女が僕への態度を変えることはなかった。

 おかげで僕の苦手意識が濃くなりはしなかったのだが、この1年という期間が僕の人見知りを開花させる。

 そんな中で僕はミラ姉さんと再会した。


「ミラ姉さん…………」


 僕を追いかけてきたのかミラ姉さんが一人で校門から出てきていた。


「見てた?」


 グーフィへ行った事を見られるのは少し嫌だった。

 僕が変わったように見られかねない。

 ずっと異能をむやみに使う事はしてこなかったので、その心情を変えたと思われたくなかった。


「ちゃんとね」


 堂々とした佇まいで腕を組む彼女の姿は、既にモデル級で男としてはそそられるものがある。

 前はあまりよく思っていなかったそれは、成長した今となっては彼女の美しさを際立たせる要因の一つとなっていた。

 一年の間が空いて、少しばかり距離感が分からなくなって言葉が出てきにくくなっているが、もし僕が正直者なら素直に「大人になった、可愛くなった」と褒め倒していたことだろう。


「宿なら解約しておいたわ」


 僕が気まずい様子で視線を逸らしていると、聞き捨てならない言葉が出るので振り返る。


「へ?」

「今日は、わたしの部屋に泊まりなさい」

「ちょ、ちょっと待って……何が何だか…………?」


 話が急すぎるうえに、手回しが過ぎていないか?


「いいから、アンタはわたしの言う事を聞いてればいいのよ」


 ……この感じはミラ姉さんだ。

 たぶん他人には見せないだろう素の姿。強きで正直なミラ姉さんだ。


「いや、でも……流石に女性と一緒の部屋に寝泊まりするのは…………」

「大丈夫。わたし、特待生で待遇も良くしてもらっているから部屋が広いのよ。一人くらい同居人ができても何も問題は無いわ」


 全く分かっていないようだ。無表情で淡々と言葉に出す様はまるで聖職者のよう。

 僕が言っているのは、年頃の男女が同じ部屋で寝ようとしている事に関しての問題を言っているわけで、部屋の広さを問題にしているわけじゃないんだ。


「でも、僕は入試を受ける受験生であって、まだ入学していないのに――」

「大丈夫よ。何か言われれば、わたしの弟、もしくは妹として紹介するから」


 言いたい事を先読みしたように遮り、悪戯っぽく微笑みながらに返してくる。


「えっ!? 待って、僕は男だよ!?」

「冗談よ……ちょっと女装させてみたいなとか思っただけ」


 何を考えているの!?

 僕は女装なんてしたくないからね!

 偶に女性の方がきつい事をしなくていいから女性扱いされたいと思うこともあるけど、前の世界でもこの世界でもずっと男だったんだよ。


「今やわたしはこの学院ではかなり力を持っている方だわ。アンタを部屋に入れようが、誰に文句も言われない。

 アンタはわたしの世話役として一日家事でもやってなさい」


 受験者になんて仕打ちだ……。

 ミラ姉さんらしいと思うけど、こういう時だけは少しは労わって欲しい。


 優越感に浸ったような表情で僕の横を通って先頭を行き、「付いてきなさい」と言わんばかりに案内を始める。

 久しぶりに会うのに、ミラ姉さんは僕を扱き使うことしか考えていないようだ。

 どうせ何を言っても聞き耳を持ってはくれないのだろうし、寝る時だけは壁際で小さくなっていればいいか……。



◇◇◇



 ミラ姉さんの部屋は学生寮という割には広すぎるほどだった。

 貴族用の部屋なのか僕達の家の自室と大差ない広さで、それを一人で使用しているのだから学生の優遇具合が目に見えた。

 ミラ姉さんの部屋は、女の子の部屋らしく中が模様替えされており、カーテンや敷物、枕などピンクの色がついた物ばかりだ。

 更には僕とは違って物が多く、ベッドに始まって収納棚に本棚、机、ソファー、テーブル、兎のヌイグルミなど可愛いグッズもある。

 しかし、いくつもある窓もカーテンも全て締め切っており、部屋の中は日差しがカーテンを通って部屋中をピンクにし、暗かった。


 その様子を見て、中に入った途端に嫌な予感はしたんだ。

 ベッドには枕はあるのに布団がなかった。

 布団を干しているのだとも思ったけど、それなら枕は干さないのかと疑問が過った。


 案の定、何の遊びか悪戯か、ミラ姉さんは部屋に入れるなり直ぐに僕をベッドの上に押し倒し馬乗りになる。

 この状態になるとミラ姉さんと顔を合わせる他ない為、恥ずかしいあまり顔を覆うとするのだが、先に腕を押さえられてしまう。


「何するんだよミラ姉さん!」

「もう、『ミラ姉さん』と呼ぶのは止めなさい」


 こんな事を言われる時が来るのをいつしか想像することがあったかもしれない。

 ミラ姉さんは、本気で賢者という名を継ごうとしている。

 事実上、ジュニアという名を持っている僕を消そうとしても不思議はなかった。

 しかし、その時は僕は杭を打たれてもいいと思っていた。そのくらいミラ姉さんの事を買っていたんだ。

 僕は、そんなに出ている杭ではないだろうが。



「…………ミラでいいわよ」


 暫くして顔が熱を帯びて真っ赤になり、恥ずかしそうに視線を逸らされる。


「ど、どうしたの……?」


 この一年で何かあったのだろうかという変わりように戸惑っている間に、ミラ姉さんはそれを続けるようであの日以来の頭突きをしてくるように首を引く、

 それを受け入れる覚悟をして僕は目を瞑った。


 ――痛みが一向に来ないので固く閉ざした瞼を開く。

 目に映ったのは、頭突きはフェイントで、してやったりのドヤ顔だった。


「な、何……?」


 僕は変なミラ姉さんが少し怖くなっていた。

 これじゃあまるで子供に戻ったみたいだ。

 かと思えば、僕の体に弱弱しくしなだれかかってくる。

 僕は胸とか色々女性の柔らかい体が密着して自分と戦うことになってしまった。


 これは姉さん。家族だ、家族…………家族なんだ。

 拒否はダメだ。傷付けたくない。

 でも、む……胸…………!

 見ないように見ないようにと、はっきり出て来たくらいから気遣うようにはなったけど、今は触れている!!

 誰か何とかしてくれ――――!


「ミラって呼びなさい。

 もう子供じゃないんだから姉さん呼ばわりは許さないわよ」

「へ?」


 体が触れている事を考えるとおかしくなってしまう気がして問題をシフトすることにした。


 こちらには、そういう文化でもあるのだろうか。

 大人になったら『姉さん』と呼ばれるのに抵抗を覚えるという意味不明な文化が。

 聞いたことはないが、ミラ姉さんがこっちで学んだ事の一つなのかもしれない。

 だから、皆の前で言われる前に釘を刺しておこうと、そういう訳なのか。


「分かったよ、こっちでは姉さんは付けない。だから――」

「本当!?」


 「離れて」と言う前に顔を起こしてウキウキ顔で反応してきたので怖気づく。

 しかし、彼女の沽券に関わると思いゆっくりと頷いた。

 すると、今度は顔を僕の胸の上に擦り付けてきて何かを呟き始める。


「ふふふ~、きゅー、にゃはっ、ぬきき!」


 一年でミラ姉さんは変わってしまったようだ。まるでミラ姉さんな気がしない。


「スンスンスン、スンスンスンスンスン」

「わっ! 何してんの!?」


 僕の服の匂いを嗅いでいるようで、なぜかその匂いに満足気である。


「アンタってかなりいい匂いなのよね」


 なんのこっちゃ!?


「ミラ姉さん…………」

「違うでしょ?」


 機嫌を悪くしたように睨み付けてきて唇を尖らせる。

 その表情に逆らえるわけはなく、僕は恥ずかし度マックスで答えた。


「…………ミラ」


 っ〰〰〰〰〰〰〰〰恥ずかしすぎる!!!


 爆発しそうなくらい熱くなるのが分かった。

 いくらか頭がくらくらする感覚もある。

 こんな面と向かった羞恥攻めは無理だ。恥ずか死ぬ。


 当の本人は、僕を虐め倒して満足したのか立ち上がってぴょんぴょん跳ねている背中が見える。

 よほど僕に悪戯するのが楽しいのだろう。


「これからずっとその呼び方だから、よろしくね」


 喜びに打ちひしがれた感じで顔がへなへなになって声も震えていたが、内容だけは彼女らしかった。

 この街にも娯楽はなさそうだから、ミラ姉さんが遊ぶのも久しぶりだったのかもしれない。


「うふ! フフフ、にゃははははは!」


 僕が羞恥に悶えている間ずっとミラ姉さんの方からブツブツ声が漏れていた。



 夜になって部屋の中が暗闇に閉ざされた頃、ミラ姉さんは何故か部屋の中にあった縄で僕を縛り、ベッドの上に拘束した。

 僕に抗う術はなく、抱き枕代わりに添い寝させられるのだった。


「ミラ姉さん…………」

「ん~ん! ミ~ラ!」


 眠いのか、普段なら有り得ないような甘えたような声で抱き着いてくる。

 虚ろな瞳はただただ僕の顔を見つめて離さない。

 その表情は、妖艶を超える女性の誘いを体現させたものだった。

 縄で縛られてなければ、今にもしたことのないキスをしてしまいたくなるよなムード。

 すぐ目の前に潤った唇があり、直視してしまうと操られたように誘われそうになる。


 やってしまったら、後で絶対怒られる。

 僕は、いつ女の子の唇を求めるようになってしまったんだ?

 いつもなら遠ざかりたくなって無理やりにでも逃げ出している状態なのに。


 ミラ姉さんは、既に知らない人じゃない。

 むしろ一緒にいて楽しいと思う時だってある。

 もしかしたら僕自身、知らない女性が苦手なだけで、知ってしまえばそうでもないのかもしれない。

 例えば、可愛くて天と地ほども容姿に差がある子が僕が良く知る姉弟なら、僕は彼女を愛せるのかも…………。


「ん……」


 ミラ姉さんの瞼がおもむろに閉じていく。

 こんな近くでミラ姉さんの顔や唇を見た事なんてなかった。


「み……み…………」


 体中が火を噴きそうになるくらい熱くなっていくのを感じた。



「――…………ミラ」



 一瞬で身体強化を使って縄を千切り、反対側の壁に転がっていく。

 「バンッ」と高い音が鳴ってミラ姉さんが起きないか心配になるものの、僕は自分の意識を一刻も早く失くしたかった。


「何をやっているんだ、僕は…………」

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