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20. 猫にモヌモヌ〈1〉

13話のあとに【閑話・1】を割り込み投稿しました

タイトル通り閑話ではありますが、よろしくどうぞ(19/05/03)


 異世界生活4日目は、朝からあいにくの雨模様だ。


「毛玉・毛玉・毛玉~、毛玉~を食べ~ると~」


 シュテッケンプフェルト見学の報告を領主さまに済ませた後、私は部屋にこもって、上機嫌でペンを走らせていた。


「おなか・おなか・おなか~、おなか~痛く~なる~」


 ちなみにこの歌は『お毛玉地獄』。うにたんをブラッシングするときの歌だ。

 長毛の猫は毛玉ができないように、それから毛を食べて吐かないよう気を付けなきゃね。


「……よし!」

 それはそうと、1ページ目が書き上がったぞ。


 私が作成しているのは、『猫のしおり』だ。

 この世界の人に猫のことを知ってもらうため、私の知識をすべて詰め込んだ冊子を作ろうと思うのだ。

 完成ページ数の見当はまったく付かないけれど、ひたすら分厚い冊子になることは間違いない。

 そして今、その記念すべき1ページ目が完成したのだ。


「むぁああん!」

「あ!」


 そんなことを考えていたら、キジトラちゃんが辻斬りのように机の上を走り去り、インクの瓶がひっくり返った。


「あああ~! も……もおおお‼」


 なんということだ!

 せっかく上手く書けたのに、台無しだ!

「もおお、これだから付けペンって嫌なんだよぉ」

 私は嘆く。猫のいる部屋で、インクや墨汁が扱えるわけがない。


「もう、キジトラちゃん! ……ん?」

 机の上を片付けて振り返ると、キジトラちゃんは部屋のすみっこで神妙な顔をしている。

 部屋の隅に置いた浅い箱、猫トイレの上だ。


 トイレのへりに両手をかけて、後ろ足をふんばり、お尻を浮かせて床の一点に視線を落としている。

 どこか哲学的ですらある、真剣な表情だ。


 ほどなくして、ぼとん、ぼとん、と短い音。


「……むぁああああん!!」

「わっ⁉」


 砂かけ動作もそこそこに、キジトラちゃんはロケットのようにトイレから飛び出すと、再び暴徒と化して部屋中を駆け回った。

 そっか、トイレハイか!


「って、もうトイレを覚えたんだ! 偉いね、かしこいねえ……」


 キジトラちゃんをわさわさ撫でていると、部屋の扉が荒々しくノックされた。


「あっかり――ん‼」

「わ⁉」


 返事も待たずに、新たな暴徒が飛び込んできた。

 血相を変えたエマさんだ。


「ど、どうしたんですか?」

 問いかける私に、エマさんは必死の形相で訴える。

「猫ちゃんたちが、おかしくなっちゃったんです‼」

 ――な、なんだって⁉


 私たちは小雨の中、教会堂への道を急いだ。

 なぜかキジトラちゃんもついてきた。


「はぁ、はぁ、あかりんが外出中じゃなくてよかった」

「はい。今日はヨハンナさんが忙しくて、お出かけ中止なんです。レオン君の調子が良くないそうで」

「フンスフンス!」


「それより、どんな感じなんですか? おかしくなったって、二匹とも?」

「ええ。とにかく見てもらえば分かりますっ!」

「フンスフンス!」


 サビちゃんとハチワレちゃん、一体どうしてしまったのだろう。

 昨日までは元気だったのに、環境の変化で疲れが出てしまったのだろうか?



 しかし、応接室に飛び込んだ私たちが見たものは、


「なぁん」

「にゃん!」


 ケロッとした顔でご挨拶してくれる、2ニャンだった。


「あ、あれれぇ?」

「……なんともないですね」


 息を切らしながら、エマさんは呆然とした顔。

「ま、まあ、もとに戻ってくれたなら、何よりですけど……」


「ふんすふんす」

「フンスフンス……」

 2ニャンは初対面のキジトラちゃんに興味深々だ。


 しかしエマさんの慌てぶりに加え、オロオロしているマッスルさんの様子を見ても、何か異変があったことは間違いないのだろう。

 私は探偵さながら、詳しく事情を聴いていくことにした。

「おかしいって、どんな様子だったんですか?」


 エマさんの話はこうだ。

 

 遡ること20分ほど前、午前中の雑務を終えたエマさんは、お茶で一息つくことにした。とっておきの茶葉を取り出した瞬間に、その事件は起こった。


 サビちゃんとハチワレちゃんが、揃って猛ダッシュで駆けてきたかと思うや否や、茶葉の缶へと突進、茶葉を卓上に撒き散らした。

「ナァァアアァン!」

「ふぁあああ~ん!」

 さらに異変は続いた。二匹の猫は、撒き散らされた茶葉にがっついた。ものすごい勢いで嗅ぐやら舐めるやら、ひっくりかえって体中にこすりつけるやら、半狂乱で転げまわったという。


「もう、完っ全に目が据わってましたよぉ……」


 ため息をつくエマさん。

 一方、私はおおよその見当がついていた。


「エマさん、そのお茶って?」

「ああ、ハーブティーです。

 自家製ドライハーブのブレンドなんですよぉ」


 ――ビンゴだ!

「異変の原因、わかりましたよ!

 まず安心してください。体に害はありません」


 ふっふっふ、その異常行動ならば知っている。

 実際にこの目で見たこともあるし、その奇行を引き起こす植物について、自由研究で調べたこともあるのだっ!


「エマさん、そのお茶、マタタビですねっ!?」




 小一時間後、雨はあがっていた。

 私たちは教会堂の裏手にしゃがみ込んで、雨に濡れた草むらをかき分けていた。


「あ、あったあった!」


 シソを小ぶりにしたような葉っぱの、細かな毛で覆われた植物が、ひとかたまりに群生している。

 一つまみ摘み取って、私はしげしげと観察する。


「普通に自生してるんですね、キャットニップ」

「え?」

「あ、キャットニップじゃなくて、――モヌモヌ」


 エマさんのハーブティーはマタタビではなく、「西洋マタタビ」の異名を持つ「キャットニップ」という植物だった。

 キャットニップ、英語で「猫が噛む」という意味らしいけれど、この世界では「モヌモヌ」という名前らしい。

 とにかく、モヌモヌはマタタビ同様に、猫をぐでんぐでんゴロンゴロンのへべれけ状態にしてしまう植物なのだ。


「使い勝手のいいハーブですけど、結構どこでも見かけますね。繁殖力が強いので、一度誰かが植えたらすぐ雑草化しちゃうんです」

「こんなに生えてたら、危ないですよ」

「そうね」

 モヌモヌを麻袋にポイポイ投げ込みつつ、エマさんも頷く。


「とりあえず、このへんの分は全部収穫しちゃいましょ。猫ちゃんたちも協力してくれますし」

 

 草むらを嗅ぎまわる猫たちは、モヌモヌを見つけるたびに、その上でひっくり返ってゴロンゴロンする。じつに優秀な探知機だ。

 しかしそれは同時に、モヌモヌがねこ怪獣をも引き寄せうる危険性を示している。ほんの数グラムの粉末であっても、猫はキャットニップ――もといモヌモヌに反応してしまうのだから。


「あかり!」

「あれ?」


 そんなことを考えていると、元気な声に呼びかけられた。

 顔を上げると、雨上がりの景色に神々しいほど白っぽい姿。レオン君だった。



・トイレハイ

 猫飼いの方はご存知、トイレ(ウンチッチ)の前後にネコチャアンがハイテンションになる現象。個ニャン差があるみたいです。


・キャットニップ

 和名は「イヌハッカ」だそうです。一体どっちなんだ……。

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