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自分のことは自分ではわからないと言います。
鏡に映してみたところで、実際に外から見える姿とは、随分と違っているように見えてしまうことです。
自画像を描かせたところで、一人の画家の目に映るその姿を、全ての人に映る姿として考えることはとてもできなくて、ですから自分がどうであるかというのは、貴重な情報であるのです。
多くの人は、その情報がいかに自分にとって希少価値の高いものであるかすらわかっていないような、重要な情報であるのです。
ですから私には人を遣わせて、他国での情報収集をさせることがよくありました。
私が見ている彼の姿は魅力的なもので、私の主観に沿って歪んだ姿でしかないのですから、それが彼と敵対する立場にある人々からしたらどのような姿となっているのか、私には知る必要がありました。
詳しい人に尋ねれば、私のことにまで触れてくれることがあるようでしたから、私としてはありがたい限りでした。
ありのままを伝えてくれと命じているので、容赦のない悪意から生まれた意見も多かったですが、それはそれで私としてはありがたいものでした。
正々堂々とは程遠く、非人道的な戦いばかりするので、冷たい人間だという意見が多く聞かれました。
国によっては悪人と名高いのだとすら聞かれました。
「ご自身を正義だとお考えになりますか?」
いくら私が悪と呼ばれても構いませんが、私の献策のせいで彼が悪と呼ばれることが、ましてや悪政を敷いているだなんて言われることは、許せそうにありませんでした。
そこで私は、彼に尋ねてみたのです。
「それは違うだろ」
即答でした。
答えを濁すような方ではないと思っておりましたが、迷われることさえないだとは、さすがの私も思っておりませんでした。
彼らしいことではありますが。
「では、なんのために、そうもまで一生懸命になっていらっしゃるのですか。私は目的を失ってしまいそうなのです」
私は問う立場にあらず、問われるべき立場であるはずなのですが、そうしたことを彼が気にすることはありません。
今度は即答とはいかなかったにしろ、その場ですぐに答えてはくださいました。
「……そうだなぁ、今は正義でない自分自身を、正義にするためかな」
かなり的確な発言であるように、私には思われました。
それは私と彼とが近い考えを持っていることを再確認させてくれることでもあります。
この時世では、国の数どころか、人の数だけ正義はあります。
正義でないという言い方には、そんなことはないのではないかと思えましたけれど、正しさを主張できる真の正義になるためには、この戦いが必要ということは理解できました。
自分自身が正義にするということは、乱世を自らの手で鎮めて、その主として君臨するということ。
実に軍人らしい発想でしたが、それに惹かれる私がいました。
夢物語ではなくて、彼は現実的な構想も練っておりましたし、才覚も持っておりましたからこそ、その言葉も成り立つものではあります。
理想の国なんて、夢の国なんて、そんな姿なんて彼は語ろうとしません。
そんなことをしようとはしないのです。
普通にいったら理想論で終わってしまうような内容のことを、現実論として語れる彼だから、きっと私は惹かれてしまっているのでしょう。
彼の隣にいることでしか、見られない景色があると私は確信していました。
そうでなければ私はここまで人に仕えるようなことはなかったでしょうと思います。
あの日、彼が私を呼んでくれたこと。
お断りしても私を求めてくれたこと。
それは運命に導かれたことなのではないか、神様のお告げからなるものではないか、そんな奇跡さえ信じてしまいそうでした。
それくらいに、私は彼との出会いを感謝しておりました。
どうやら私を嫌っているらしい天の神様が、私にこれほどの幸せを授けてくださるとも思えませんのに。
あぁ、それとも、大切なものを失う様を見たいというような悪趣味であるかとしか考えられません。
この病を治してくださらないでは、私は神様の力というのを他の人のように無邪気に信じられませんでした。
信仰心がないのかと言われたら、そういうわけではないのです。
神様と彼とを天秤に乗せて、どちらを選ぶかと言われたらば、彼のことを信じ選ぶような私ですけれど、これでも信仰心はないではないのです。
ただ、無邪気ではないというだけなのです。
救ってくだされと祈るではなく、救えるものなら救ってみせろと、その力を示してみせろと、神様に対して上から目線にも試すような物言いをするだけなのです。
長生きができますように祈ってくださるのを、病を治せまいかと祈らせてくださるのを、そんな両親の姿を見ていますから、神様を信じられないというのもあるのでしょう。
話が逸れました。私は、そんなことはどうだっていいのです。
それよりも、心を奪う彼のお言葉の方が、私にとっては神様とやらよりもよっぽど重要なのです。
世がこんなにも乱されてしまった状態で、神様も何もないと言われてしまえば、きっと偉そうな神様もそれまでなのでしょう。むしろこの乱れは、神様の怠慢ゆえなのではないのですか?
……なんて、寺社仏閣を襲う輩も現れているとはいえ、貴人方の間ではまだ熱心な信仰も続いているようなのですから、とてもこんなことは言えませんね。
馬鹿にしているのではないのですよ。
「ふん、正義を作るのなんて、簡単そうですよ」
思考回路が彷徨って、吐き捨てるように私は言ってしまっていました。
「残念ながら、そのようだ……。同感だよ」
返事など求めていなかったのですが、彼はぽつりと答えました。




