親友
今回は親友がでますが真上パイセンは出ませんでした。
壁から背中を離した俺は、正直こういう時何と言っていいのかわからないけれど、とりあえず口を開いた。
「練習、戻りませんか?」
その発言が意外だったのか、真上さんも含めた先輩たちがこちらを見つめた。
「俺、全然気にしてないです」
「木江・・・!」
「・・・俺は先輩方に何もされてません」
何もされていないというのは嘘だが、別に殴られたわけでもない。
他意は無い、という思いを込めて真上さんを見ると、少しの間俯いた後、一つ頷いた。
「分かった、練習に戻るぞ。・・・お前らも」
その声に同意するように、先輩たちは校舎裏から出て行った。
俺もそれに続こうとしたら、真上さんに呼び止められた。
「お前は本当に、何もされて無いんだな?」
「はい」
「・・・よし、じゃあ練習戻れ。休憩前と同じペアでピッチングと、ノルマの球数投げたらダッシュ10本な」
「はい」
その日の練習は、それ以降何も起こることなく終わった。
部室の鍵当番に当たった俺は、親友の飯沼良哉とともに、全員が部室から出るのを待っていた。
「なあ煌ちゃん、どうした?」
急に問うてきた良哉に首を傾げると、くすくすと笑われた。
「・・・何だよ」
「いや、分かりやすいなと」
昼間のことを考えていたのだが、表情に出にくいとよく言われるのだが、こいつは何故か、微妙な表情の変化に気が付く。
察しのいい良哉は、中学時代、転校初日から俺に声をかけてくれたやつだ。
常に明るく前向き思考で、それゆえ学校での人気も高い。
「昼休憩のときに、何かあったんだろ。お前急にどっか行くんだもん」
「先輩に呼ばれただけだ」
良哉はわざとらしく「ふ~ん?そうなんだー」と言って目を細めている。
こうなるとこいつはしつこい。
しかしここで話す内容ではないから、寮に帰ってからでもいいだろうと、とりあえず当たり障りないことを少し話すことにした。相談みたいなものだが。
「選考20人に残れなかった先輩たちに、俺たちが出来ることってなんだろうな」
「あー・・・なんかだいたい察した。てか、今現在進行形でやってんじゃんよ」
部室の鍵をいじりながら続ける。
「確かに、貴重な20人の内2枠に俺たちが入っちゃったことに、少しは罪悪感はあるけどさ。だからって悲観的になって、先輩たちに譲ろうとか考えて手を抜く方が、かえって先輩たちに対する侮辱だと思うぜ。だから俺、選ばれたときに、絶対全力でレギュラー取りに行くって、決めたんだ。・・・煌ちゃんだってそう思ったんじゃねえの?」
小さく頷きを返す。
そうだ。
俺だってそう思って練習をやってきた。
でも先輩たちには俺の姿は、心を決め、全力で取り組んでいるように映らなかったのだろう。
それに、今日の昼間、先輩たちの気持ちに触れて。
何か言いようのない、複雑な気持ちになった。
だから、俺が何をすべきかを考えていた。
「あんま深く考えんなって!もっと単純に答えだせばいいんだよ」
それにしても先輩たち遅いなーと言いつつ背中を叩いてくる。地味にいたい。
いい加減やめさせようと良哉の顔面をわしづかみにした所で、三年の更衣室の扉が開いた。
ぞろぞろと出てきた中に、今日の件の人もいた。
その人は俺を見るなり目を見開いて一時停止して、事情を把握しているらしいレギュラーの人たちは、その人の肩を叩いて一階に降りる階段に歩いて行った。
隣にいた良哉が訝しげに先輩を見上げる。
「悪かった」
急に頭を下げたその人――――甲斐 竜己さんはその体勢のまま言う。
「あの時もし、お前に手ェ出してたらと思うと、俺はっ」
「先輩、頭上げてください。俺、ホントに気にして無いんです」
「煌ちゃん・・・」
「俺、まじめに練習やってるように見えなかったんですよね」
自嘲気味に笑えば、甲斐さんははっとしたように顔を上げた。
「小さい頃から感情表現が乏しいと言われてましたし、こういうのは慣れてるんです。でも俺、選考20人に選ばれたとき、決めたんです。必ず、夏の大会で、チームを優勝させるって」
「!」
「だから、」
続けようとしたら、それは甲斐さんによって遮られた。
「やっぱ、慎司の言うとおりだな、お前」
「?」
「ホント何考えてっかわかんなかったけど、意外と芯がしっかりしてんだな。もっと早くにお前と話してたら、な」
俺の肩を叩いて、じゃあ、と階段の方に歩いて行く。
もっと早く話していたらなんだと言うのか。
「今からでも」
その背中に、声が届くように。
「俺、もっと先輩と話したいです」
一度止めた足を振り返ることなく進めて行ってしまう。
声は、届いたのだろうか。
俺は先輩のことを良くは知らないけれど。
それでもそれはお互い様だし、このまま終わってしまうのは、どうしてか嫌だった。
「煌ちゃん、だいじょーぶ。明日、また話しかけてみようぜ」
俺も一緒に行くから。
親友のその一言が、すごくありがたかった。
お読みいただきありがとうございました!
前回より短めですが、きりが良かったもので・・・。
次回は寮の話と、主人公が「人と付き合うこと」について考えます。
今度こそ真上パイセン出します。




