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「空色の授業」  作者: 翠野希
Ⅱ.異端の空
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空の闇

わたしは窓辺に座り、両手で頬杖をつき、夜空を見上げていた。

結局、青人には会えなかった。紅さんのアトリエを出た後、青人を待ったが、夕方になっても帰って来なかったのだ。


朝は桃枝に茶化されたくなくて、アトリエにいないのがほっとしたけど。

今日1日、本当に会えないと、空を掴むようで。


もちろん、山吹と紅さんと出会い、パソコンデータと染めで原画が創れることを目の当たりにして、十分、面白かった。

けど…。



「苦労するわよ」

紅さんの最後の言葉が不意に蘇る。


紅さんと山吹さんと青人は幼馴染みで、自然、青人の話にもなった。

「青人って描くのに夢中になって約束とか忘れちゃうのよ。青人が一番好きなのは空だから」

そう言う紅さんは、とっても楽しそうだった。

無意識に溜め息をついた。


「なあに悩んでるの?悩める乙女のみどりちゃん」

目の前に現れたのは、言うまでもなく、桃枝だった。

「何よ。冷やかし乙女の桃枝さん」

「まあ!冷やかしだなんて」

どこぞのマダム風に、おほほ、と反対側の頬に手を添えて笑う。


「そんなに青人さんに会いたかったのね。それとも美人な幼馴染みがいて気落ちしちゃったのかしら?」

「モモ!」

「おほほ」

冷やかしマダムはまだ続く。

「良いわねえ、青春。若いわあ」

いつの間に老けたのよ。


そう。それがやって来たのは、そんな他愛もない時だった。


笑っていた桃枝の顔が、不思議そうな顔になった。

「空のあの辺、何か黒い?」

「え?」


振り返ると、空の一辺が、確かに黒い。しかも、じわじわとその範囲を広げている。

と、窓からこぼれていた柔らかい光が消えた。


部屋の明かりはそのままに、外に見えていた木々が一気に陰った。

「何、これ…」

研究層で起こる現象なのだろうか。

外はまるごと、闇に包まれてしまった。これまで夜に光が射していたことを、今になって思い知った。


「空、黒いね」

桃枝とわたしは窓辺で固まって、空を見上げていた。

まるで、空が無くなったみたいだった。外の世界の完全な闇に、ただただ、不安が募っていった。

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