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「空色の授業」  作者: 翠野希
Ⅱ.異端の空
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黒い夜

さあ、いよいよ始まります。

  夜、アトリエに戻ると、と寝転がっていた山吹が、よっ、と手を挙げて迎えた。

「夜まで出掛けるなんて珍しいな、青人」

「うん…」

 山吹は表情を変えずにおれの様子を見て来た。

「なんかあった?」

「気になることがあってね」

 おれは最下層の門の側にいた、「影」の女の子のことを話した。その暗い瞳の中に、嫌な光を感じたことも。

「それで?」

「その辺りをまた見て来たけど、いなかった。思い過ごしだよ」

「そうかなあ」

 山吹の言葉にドキッとした。

「いやね、何か起こるなら、これからなんじゃないか」

 ランタンで照らされた灯りが、木に影を写し出す。夜のアトリエに、山吹のネオングリーンの眼鏡が浮き立って見える。

「青人の感性って鋭いってか、感度が高いからさ。ほっとけないっつーの?」

 いかにも若者口調、と言うおれは老人ではないけど。山吹に言われると、思い過ごしでもないのか。

「今日は寮に帰るのか?」

「いや…」

 山吹とおれは同じ寮だ。時々、アトリエに泊まって帰らない。夜にたまらなく描きたいって思ったり、制作が盛り上がったりしたら、帰ってる場合じゃないから。

「そうとなったら、今夜はおれも帰らないよ」

「え?」

「言ったろ?青人のヤな予感は当たるんだよね。何が起こるか、見てやろうじゃないの」

 前もこんなことがあった気がする。確か、職人学校に来る前の年だった。おれが、背を丸めて、周囲を目だけで警戒してる男を見つけた時だ。話をすると、山吹も一緒になって男をつけたら、放火犯だったってことが。

 灯りの火が揺れる度に、枝の影が生き物のように動く。

「じゃあ、行くか?」

「うん」

 上の空へと続く門の元へ。


 おれたちは木から降りた。ランタンに照らされた森は秘密めいている。

 しばらく歩いて、木々の広場に出た時、空も広く見える。

「あ」

「どうした、青人?」

 気のせいかと思った。でも、確かに空に浮かぶ光が陰った。つまりは…

「星が消えた」

「え?」

 空のある方角から、星が一つ、またひとつと、目の前から消えていった。

 いや、消えていくのは星だけじゃない。空が…

「青人!」

 山吹に指差されて地上を見ると、森の一部がなくなっていた。これは…

「黒い空だ!」

 叫んだ瞬間、目の前は黒い闇に覆い尽くされ、見えなくなった。

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