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Soul World  作者: Hamlet
第2章―決闘の世界―
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狂乱の軍制

行く手を妨げんと青色の体色の人型Mob二体が私の前に立つ。

名は≪マッド・ガードナー≫。このエリアに現れた純粋な人型Mob全員にこの『マッド』という名前が付けられている。彼らの能力からしてたぶん普通に配備されているモンスターじゃないだろう。


それはカルトと彼らの編成を見ることでわかる。

あのカルトがとても苦戦しているのだ。放たれた矢一本で敵を射落す彼が複数の敵に囲まれて攻撃されている。もともと近くにポップして包囲されたのならば仕方ないが、たとえ彼がそんな状況に入ってもあの腕ならば容易く状況を切り抜けるだろう。


次に現れた敵の編成は攻撃力に特化したと思われる2種のMobと、タンク級の戦士だと思われるさっきの青い体色のガードナーに、ダンスをして魔法攻撃を仕掛けてくるモンスターまでいる。極めつけはダメージを治癒するヒーラーまで・・・・・。


これは大型ボスモンスターを狩るときに集めるパーティー並みの編成だ。私も2~3回大型狩りをしたことがあり、その時はひたすら攻撃を飛ばしてモンスターをボコボコにしていた。ずっとこちらだけの攻撃でボスは完全に沈黙、マナポーション意外使った薬は一つもなかった。



それで今そんな編成の奴らに包囲されているというわけだ。その中を私は突っ切って、一番奥にいる黒いフード付きローブを身に纏ったリーダー各らしきMobを倒さなければならない。

「ええい!スパー・・・・・クッ!」

連続で≪スパーク≫を発動し、ワンドの先から大放電が発生して周りにいるガードナーを巻き込んでいく。さすが両手でやっと持てるような大きな盾を携えているので、他の防御特化Mobとわけが違う。とんでもない強度だった。

私の攻撃を嘲笑うかのように後ろに控えていたダメージを与える役目だと思われるタイプのモンスターが襲い掛かってくる。かろうじて身に当たらず避けきるが、次々と飛来する剣と鎚の攻撃をいつま振りきれるかどうかわからない・・・・・。


「こんのォ!」

荒れ狂う凶器の嵐の中、私は魔力のかけらもこもってないワンドをひたすら振り回した。ワンドはもともと魔法用の武器だが、振り回せば打撃属性付きでダメージがちゃんと入る。もちろん絶望的な量だが。

微弱なダメージの前に攻撃手はひるむはずもなく、攻撃の嵐は止まない。大剣を掲げた相手のモンスターがなんらかのスキルを使ってくる。


これは・・・・・ユウスケが前使っているのを見たことがある。水平軌道を描いて攻撃するっていう感じのスキルだったはずだ。名前は知らないけどそんな風のだった・・・。

とっさに思い出したのもあり、私は自分でも発揮できないと否定してしまう程のスピードを、その瞬間だけ発揮した。頭部をスライドするように下げて攻撃をかわす。こんな芸当レイカとかユウスケとかトラカぐらいしかできないだろうな・・・・・。もしくはフリーダム・ソウルズの中の強力プレイヤーか・・・・・。


しかしこのとっさの動作が裏目に出た。偶然ハンマーを振り下ろしていた≪マッド・ストライカー≫の一撃が後頭部にクリーンヒットアンドクリティカルヒット。私は大ダメージを受けて視界が暗転した。この現象は一般的にスタンって言われている気絶状態だ。言わずかもなこの状態は何一つできないから、喋って助けを求めることも武器を掴んで詠唱することもできない。

ひたすら沈黙して待つのみ。


「うーーーうううっうぁぁぁぁーーーーっ!!!!」

後方から青年の悲鳴が聞こえる。その悲鳴はだんだんと遠ざかって行って、私の記憶の片隅のさらに奥の方へと消えていく。気絶時間が恐ろしく長い。こんなんじゃケルビム一匹も狩ることができず町に逆戻りじゃないか・・・・・。



「全く・・・・・狩狙眼(かりそめ)も未熟なお方なんですね。」


「あの能力は使いこなすのは非常に難しいと私は思う。それに比べ私の能力は名前からして本当に使いやすそうな能力だ・・・・・。ま、実際そうなのだがね」


「さようですかリーダー。」

どこからと人の話し声が聞こえてくる。だんだんと近づいてくる人の足音・・・・・数人近づいてくる・・・!こっちに・・・!声からしてかしこまった感じの女性と落ち着いた男性。


「あら、こんなところに何故かメンバーがいるじゃないですか。確か彼女は最近になって入ってきた子じゃないですか?私と同じ魔法使いの・・・・・」


「そうだな。確か名をユイと言ったね」

どうして!?なんで私の名前を知っているの?まさか・・・・・彼らは!!


「あっ・・・!」



その思考の中、かしこまった感じの女性が大声で回復呪文を唱えた。それはおそらく私と向こうにいるカルトに向けたものなのだろう。刹那視界が完全に回復し、闇色の上空が視界を覆い尽くす。素早く立ち上がって辺りを見舞わす。そして目に映った攻撃していたモンスターは、次の瞬間複数の音符がぶつけられて散って行った。




「大丈夫ですか?ところであなたのような未熟なプレイヤーが何故ここで狩りを?それもこんな時間に?」

眼鏡のフレームをくいっと軽く上にあげた動作をした彼女――――完全に見覚えがあった。そうだ、ギルド≪フリーダム・ソウルズ≫のサブリーダーの一人ニーナさんだ。今までにこの人と一緒に狩りをしたことは一度も無いが、レイカが言うには特技に相応しい実力の持ち主だとか・・・・・。


とりあえず今までのことを彼女に説明したのち、スズシロさんにもいろいろと伝えた。・・・・・・・・・・それより、なんでこの二人がこんなところにいるの!?・・・・・あ、そうか、彼女も魔法使いだからケルビムを狩りにここへ来ていたのか。と彼女の手に握られたワンドを見て悟った。



「まさかこんな難敵がこの場所に現れるとは・・・・・。ここは三重県の遺跡エリアのはずだ。日本だったら東京か大阪あたりでしかでなかったはずなのだが」


「確かに、それはおかしいですね。この前提クエストを皆が受ける時期にだけこのイベントが発生するというのなら納得できますが・・・・・。それだったら過去にだって起きているはず」


「やはり・・・・・あれ(・・)か」


「ユイさん」

私は二人の会話の最中突然名前を呼ばれ、あまりにも予想外だったので思わず肩がびくんと上がった。

「あなたと私は今から、モンスターの軍制に巻き込まれている狩狙眼を救出します。リーダーは奥にいるネクロマンサーの相手をしに行きますから、私たちは・・・・!」


「はっ・・・はい!了解です!」

かしこまった性格コンビの私たちは、お互い協力な魔法を詠唱しながら敵が密集している場所へ疾走していった。先にニーナさんの攻撃魔法が発射される。言わずと知れた高威力火属性攻撃魔法、≪インフィニティデストロイヤー≫だ。空中を隕石のように舞う火の玉は敵の群集の中に吸い込まれていき、恐らくカルトを巻き込んで敵をすべて葬った。




数十体はいたと思う敵はすべて消し飛び、跡地にはあちこち黒いすすにまみれたカルトただ一人――――

「ゲホッ・・・ゲホッ・・・、あんた!助け方が・・・荒いよッ!鬼か!」


「そうですか?あなたが助けられるような状況になっている方が悪いと思いますけど。」


「うるっせぇ!あーーー噂にゃあ聞いていたが超ドSだな星霜さん!」


「そんな噂が流れているということを、前に一度小耳にはさんだことがあります」

顔色一つ変えずニーナさんは目の前の銀髪の青年に対して言葉を放った。恐らくこういう冷徹な態度がドSだということを彼女は気づいていないのだろう。と言っても私も学校でドS女とよく言われるのだが・・・。だから最近少し控えめな感じに振る舞っているのだが、こっちでも向こうでもあまり効果はないようだ・・・・・。


「あの、そんなことより早く敵を片付けませんか?」

軽い喧嘩の真っ最中の二人に、どうにか言葉を割り込めた。二人ははっとした顔にほぼ同時になり、猛ダッシュでモンスターを片付けに向かった。


まずはカルトの攻撃、美しく月光に照らされた髪の毛が揺れるの同時に、弓術の大技である≪バイオレンス・アロー≫が敵陣に浴びせられた。ヒーラーもろとも巻き込んでの攻撃なので、回復するまもなく敵は塵となって消え失せた。


次はニーナの番だ。ぐるぐると回されたワンドから無数の音符が溢れ出す。それを相手に向かって飛ばしていく、≪フラッシュノーツ≫だ。色ごとに音程が設定されていて、それが溢れ出すワンドを指揮者の如くふるって攻撃するスキルだ。

左から迫っていたモンスターの軍制は、彼女の攻撃によって完全に散った。跡地には戦利品意外に何も残っていない。さすがプロの魔法使いは違う!



さて次は私の番・・・・・のはずなのだが、倒すべき敵が全く見当たらない。二人が倒した分がすべてだったようだ。


その頃、リーダースズシロはひたすら剣を振るっていた。

黒いローブを纏ったマッドモンスター達のボス、≪マッド・ネクロマンサー≫が無数の配下モンスターを召喚、それがスズシロの身に襲い掛かってくる。

まずは大きな剣を携えた、赤色の体色の≪マッド・スラッシャー≫の攻撃が右肩に襲い掛かる。そこに左腕が差し出され、鋼鉄並みの強度を誇る盾がその衝撃と斬撃を防ぐ。そこに右手から煌めいた閃光がスラッシャーの体を刻みこんでいく。


次は背後から襲い掛かってきた≪マッド・ストライカー≫のバトルハンマーを、盾で受け止め衝撃を流動して相手の体制を崩す。そこに片手剣スキルが炸裂してストライカーの体を木端微塵に切り裂いた。


そこにユイ達が到着する。

「スズシロさん!大丈夫ですか!?」


「あぁ、問題ない。ただし気を付けてくれ。≪マッド・ネクロマンサー≫は≪呪縛(じゅばく)≫スキルを使ってくる強敵だ!当たると非常に危険なスキルだ」


「わかっています。もちろんお二方も十分に理解していますね?」


「もちろんだぜ!」「はい!」

呪縛スキル――前にそれを使う敵に一度遭遇したことがある。廃城風の迷宮エリアにて出現し、ユウスケがそれを受けそうになっていた。私は骸骨モンスターに翻弄されて彼の手助けができない状況だったが、レイカは何だかんだで彼を救い出せる立場だったらしいので、本当に落ち込んでいた。


――ただしすぐにいつもの戦闘マニア然の狂気が戻ってごく普通のレイカに戻ったのだが・・・・・。もし今だったら、私はレイカを責めていただろう。



私は黄色い体色の≪マッド・ダンサー≫を相手をすることになった。トリッキーな動きで攻撃を優雅にかわすかなり手ごわい敵で、中級程度の魔法を楽々使って攻撃してくる。

奇声を発しながら舞い続けるダンサーに向かってまずは第一弾、火属性球体魔法をぶつけてみる。それを颯爽とかわしたダンサーは私に向かって蹴りを入れてきた。腹部に直撃してライフゲージがぐぐっと減った。


思ったより近接格闘能力も高いようだ。ダンサーなら魔法と近接両方を両立させた感じのモンスターだろう。これはかなり苦戦を強いられそうな気がする――

今度はある意味ほぼ確実に命中する≪スパーク≫を使った。空中を放電する魔法が相手の体に浴びせられる。2割分のライフが削れた。防御力も馬鹿にならないほど高いのか・・・・・。それでも並みのモンスターよりかは断然柔らかいと言える。

しかし不意を突かれてしまった。後方から来たスラッシャーに背中を斬られた。スパークを再び詠唱してスラッシャーの体に叩き入れる。当然大ダメージとおまけのクリティカル発動で一撃の身に屠り伏せることができた。



攻撃をしている隙をダンサーはついて、私に攻撃を浴びせてきた。何とか一発目のパンチは避ける。しかし二発目のパンチは顔に炸裂、少量の火花がすぐさま目の前に映る。そして膝蹴りが腹部に確実に入った後にとどめの横蹴り、しかしそれでも私は戦闘不能にならなかった。

2割以下か1割以下か、それくらいの量だけ残った。これくらいあれば十分、あとは舌をかまないようにこの呪文をぶつければ・・・・・!



「えぇぇぇーーーぃぃっ!」

ワンドに装填したのは魔法スキル≪バーニングブレイズ≫だ。次々に溢れ出す業火がダンサーの体を包んでいき、体力をぐんぐん減らしていく。逃げ出そうと足掻くダンサーだが、この魔法スキルの範囲は直線上で広い方だ。だから背を向けて逃げても、この炎から抜け出す前に灰になるし、左右に動いてもワンドを振るだけで大丈夫だ。


およそ10秒ほど燃やした後、戦利品が残るのみとなってダンサーは完全に塵と化して消滅した。これぞ正真正銘の塵だと思う・・・。もしSBでこれを使うのだったらちょっとやだなぁ・・・・・。


「ダンサーをソロですか。なかなかやりますね。さすがレイカの周期の人だ。」


「いえ・・・・・それほどでも・・・・・」

意外にもほめられたので少し照れてしまう。しかし油断は禁物。すごい近くに呪縛スキルを使用する難モンスターがいるのだ。


「ぬぅんっ!!」

片手剣というだけあって素早いスピードの斬撃が繰り出されている。ユウスケのナイフ並み・・・いや、それより速い気がする。さすがマスターレベルの人は違う。


「そらっ・・・はっ・・・・・・かなりタフのようだな。さすがレベル80を下らん強さのMobだ」

思わず驚いたが、実際の所不思議な話ではない。この世界はどうやら他人の腕によって戦いが左右されるという世界、つまりスキル制といわれるものなのでレベルという概念は存在しない――――だけど存在するのよね、とレイカが言っていた。


モンスターに設定されているものはモンスター自身のレベルであり、プレイヤーのそれとは別らしいのだ。仮にレベル10プレイヤーがレベル50のMobを倒すことができる。プレイヤー自身のパラメーターが原因での火力不足という事態もあまりないらしい。


実際の話、レイカ曰くあの廃城にいたあの龍のレベルは70を下らないそうだ。あのとき20レベルにも満たない私が≪スレイブ・チェーン≫で複数の首をロックできていたことが不思議でならない・・・・・。


ちなみにさっき相手をしていた≪マッド・ダンサー≫は名前からして強さはネクロマンサーと同じくらいだろうか。両方同じになっている。



まずは倒すことが先決――――私は確とワンドを握りしめた。

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