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Soul World  作者: Hamlet
第2章―決闘の世界―
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仮初め

私の目の前を月光に照らされて美しく輝く銀色の髪の青年が歩く。外見からすると私より少し年上、だいたい高校生くらいだろうか。背丈はレイカより大きい。

装備は恐らく最上級品だと思う革をふんだんに使って作られた鎧一式。金属的な部品が含まれていないのは動きやすさ重視で作られたからなのだろう。腰には闇に照らされて見分けにくいが、緑色の竹か何かを丸ごとくりぬいて加工した矢筒。そこには大量の矢が詰められている。一本一本に丁寧に鳥の羽がつけられていて、どれ一つ見劣りがない。


つい数分前――私は目の前を歩くその人と一緒に行動することとなった。彼はあるアイテムを探す為にここへ来たついでに、SBの前提クエストをぱぱっとクリアしたとのことだった。颯爽と対象モンスターを屠って行った後、他の場所へ探しに行く途中に私と偶然出会い、そのまま探すのと平行に私の前提クエストをクリアしてくれるという話になった。

かなりおいしい話だが、目の前の青年は特に怪しそうなところはないのでここは是非彼にてつだってもらおう。


彼があるアイテムを探すなど行っているものの、そのアイテムについて私に何一つ教えてくれない。企業秘密という類でやっているのならば仕方ないが、私に話してそのことを私が知っていたら情報提供ができたりするのに。それとも私がビギナー層のプレイヤーだと判断してあえて面倒くさいことを話さなかったのか?


どちらにしろ私にアイテムについての情報は一切話されていない。


「ところでさ、その一緒に歩いている妙な奴ぁパートナーか?」


「え?あなたこれが見えるんですか?」


「そりゃそーだ!パーティー組んでるんだからそれっくらい見えるわ!」

カルトの存在に警戒心を抱いたのか、ナナは細い体をぶるっと体を振るわせる。そして兎にしてはいくらなんでも長すぎる尻尾を、風で揺れ動くねこじゃらしのように振った。

「でも見かけねぇーMobだな・・・。名前はなんていうんだ?」


「≪ななうさぎ≫っていうんですけど・・・・・知ってますか?」

彼は大きく首を傾げた後、前を向いて再び歩き始めた。そして知らんなぁ~と口から漏らした。

恐らく一年以上はこの世界での生活を経験していると思われる彼にとっても、この得体のしれない≪ななうさぎ≫というMobを知らないというのだ。この子とエンカウント・・・厳密にいえば助けたのは第5の世界で、現実だとほんの数日前のことだった。もしかしたらごくごく最近この世界に出現した新規実装Mobの一つだったのかもしれない。


ましてやレアモンスターらしいので、情報が出回らないのはもちろんのこと実装されても長期の間気づかれないまま停滞する場合も考えられるから、ナナはそういうタイプのモンスターじゃないのかな思う。もしかしたら私一人だけがパートナーとして持っているのかもしれない。


「おーっと、モンスターのお出ましか!」

前方を確認する。そこには何度も見たカラス型のMobが数十体。名前は赤い色のが≪ブラッディ・レイヴン≫、闇に同化して目視するのが難しいほどどす黒い羽毛に覆われたのが≪ヘル・レイヴン≫、やや紫がかったのが比較的どのフィールドでも出現するタイプの≪ミッドナイト・レイヴン≫だ。


バシュンバシュンという矢が敵に命中する音が、カラスの不気味な鳴き声と羽ばたきの旋律を真っ二つに切り裂く。先を飛んでいたカラスが体を塵と変えて消滅していく。

私も支援攻撃に入った。球体魔法を赤い色の鴉目掛けて放った。しかしあっさりとかわされて、カラスが私目掛けて飛んでくる。そしてくちばしが体へと当たる寸前に矢が飛来して、カラスの生命を大きく抉る。そして瞬時に崩壊――不気味な鳴き声が断末魔となって響く。


カルトは次々に空を飛ぶMob達に照準を合わせては撃ち落としていく。一発たりともミスらないその弓捌きはまさに神に相応しい。プロという存在さえ猿も木から落ちると言われるほどなのに、彼の腕前を見ればその予兆すら微塵たりとも感じ取れない。

もはやプロを超えたマスターといったもの・・・それより超えていくかもしれない。

「すごい・・・・・腕前」

あらかたカラスを片付けた後、一仕事終えた彼に向かって声をかけた。彼ははにかみながらたいしたことはねぇーぜ!などと言った。






「・・・っと、着いたぞ」

目の前には巨大な遺跡エリアが広がっていた。神殿とは違い、柱があちこちに連なって奥にはアンコールワットのような形のボロボロの建物がそびえる。もはや遺跡というよりダンジョンや迷宮だ。というかそれらも遺跡エリアみたいなものか・・・・・。

見ると人影が点々とある。目を凝らしてよく観察すると、名前はぼんやりと見えてくる。名前は≪ゾンビ≫まんま過ぎる名前だ。それらの一匹に向かってカルトが≪スナイプショット≫を撃ち込む。およそ100mは離れた場所にいたような敵が一瞬で死亡し、ちらりとエフェクトが見える。


なんて恐ろしい射程と命中率だろう。これをSBなどで使われたら、遠距離のこの攻撃ですぐさまやられてしまうだろう。


ここで、彼がなんでこんなに強いのか本当に気になってきたので、聞いてやった。そして帰ってきたのは私でも知っているあの存在だった。レイカ曰く神に等しいくらい強いというスキル群――

彼の持っているスキルはまだ公に広まっていないものらしい。9個の中の2個に該当するタブに属する最強レベルのものだ。情報量もすくないらしいので、持っているのは本当に奇跡なのだろう。どうやって手に入れたのだろうか?


すごく気になったので聞いてみた。

「あなたはどうやってそのスキルを手に入れたんですか?」

はっきり言って入手法を聞き出すのタブーだと思うが・・・・・。

しかし、彼は口をゆっくり開いた。

少し悲し気に――




「――――俺がこのスキルを入手できたは、ある事がきっかけなんだ。恐らくお前にゃぁまねることすらできねぇと思う。いや、まねようとすら思わないかもな・・・・・っとお前は魔法使いだよな、ハハハッ!」



「ずいぶん昔の話だ・・・・・。俺は現実でも友達の奴3人と、この世界で知り合った女の子二人のメンバーで狩りに行ったんだ。別に合コンか何かじゃないぜ・・・?そしたらな、とんでもねぇMobが出現してだ、しかもそいつは一度でもライフをそいつの攻撃によってゼロにされれば、ソウルポイント関係なくこの世界と現実世界から永遠に退場するっているモンだったんよ・・・・・。さらにフィールドボス並みの強さだ。だから俺達は圧巻の一撃に次々と倒れて行った。生き残ったのは俺・・・一人だけさ・・・・・」

あまりにも悲惨な事を聞き、私は絶句したままでいた。話は続く。



「それでよ、急いでアウトして布団から飛び起きて、メールしがてら一番近い友人の家に自転車を急いで飛ばして向かったんだ。そしたらな・・・・・生きてた。何故かな・・・・・、だけどこの世界のことについて何もかも忘れていやがるんだ・・・。当時はそっちの方が少しショックだったよ。明日になって学校に向かったときに会った残りの友達二人もこの世界について完全に記憶を無くしていた」



「それで次の日の話だ・・・。学校が早々に終わって遊ぶ約束をしたんだけどよ、母にお買い物に行ってちょうだいって言われて遊べなかったんだ。それで買い出しから帰ってきた後、母から悲しい知らせを聞いた・・・・・。友達全員が交通事故で死んだ・・・・・。有り得なかった。全員帰る途中でバラバラだってのにそれぞれ同時刻のタイミングで車にひかれたんだ・・・・・」

思わず息を呑んだ。有り得ない・・・・・。常識的に知っている者同士が同時に事故に遭うなんて考えられない。つまりこの世界での出来事は、何らかの手によって確実に現実で発生するのだ。一体この世界はなんなのだろうか?死ぬというリスクを背負った分現実で利益を得られるのか?これなら単純だが・・・・・。





「俺は我を失ってこの世界にうようよいる怪物どもをかたっぱしから狩った。そりゃもう体が動かなくなるくらい狩ったさ・・・・・。いつしか一撃で倒すことだけを考えて、ひたすら一撃で仕留める弓術の道を進んできた。いつしか射程は伸び、命中率もほぼ100%だと言われるまでになってきたんだ・・・・・。そして魂霊スキルを手に入れるまでに至ったんだ・・・・・」


「んっ・・・・・・・・・・なんか悲しいこと聞いちゃってごめんなさい・・・・・。まさかそんなことが魂霊スキルにかかわるとは・・・・・・」


「魂霊力は人自身だ。だからその人自身が今まで経験してきた喜怒哀楽が魂霊の心理を作り出す。だからこれは現実の自分を映した鏡でもあるんだ・・・・・!」


魂霊力、それはこの世界の住民であれば誰しもが持っているといわれる力だ。それに現実が関与している点があるとは思いもよらなかった。よく考えてみれば私の特技が魔法になっているのも、現実が関与しているということになる。ひたすら勉強に励んできた私の心理がこの体を作り出した、と言って過言ではない。


見る人からすればただのスキルポイントだが、まさかそれに綿密な微細があったなんて本当に驚いた。確かにライフの次に重要な値である。


「だけど・・・、あなたはもうこの世界を憎んでいないんですか?」


「あぁ、もう憎んでいないさ。いつまでもネガティブな力だけを矢じりに込めてちゃ進歩はねぇ・・・!魂霊力は人間の有りとあらゆるものを取るからな。負の感情だけじゃねぇんだ。それにもう過去の話だ。ずっと友達の死をひっぱってちゃあ、やってらんねぇさ!!」


「それよりおっめぇ!いい加減そのですます口調直せよ!フレンドリー第一な俺にやぁ耳障りさ!」


「はいはい・・・・・わかりま、わかった」

彼はフフッと笑って狩りを開始した。





『レインアロー!!』

複数に増殖しカルトの周りに大量に召喚された矢が、弦を離すのと同時に一斉に空へと飛んでいって目の前をふらふらと彷徨うゾンビたちに向かって落ちてきた。5体いたすべてのゾンビが消滅する。

広範囲攻撃型の弓術スキル≪レインアロー≫だ。名前の通り雨のように降り注ぐ無数の矢が、相手の身体を抉る豪快な技だ。

私もそれに劣らないほど豪快なスキル、魔法スキル≪インフィニティデストロイヤー≫を密集している場所にめがけて放った。空中を飛来する巨大な火の玉は複数のゾンビを巻き込み、どごぉーんというけたたましい衝撃音を発しながらゾンビを跡形もなく消し去る。


「ユイっちこそすっげーじゃん!今の詠唱25秒くらいだったぜ!」


「何そのなれなれしいのっ!?」

確かに私の詠唱速度はどんどん早くなっている。高位魔法の詠唱は開始の言葉の後、目の前に出現する数式を暗算で解いて最後に終わりの言葉を言い終えて初めて魔法が実体化される。インフィニティデストロイヤーだと、5問の難しい数式を解かなければいけない。すべて三ケタが混ざる掛け算であり、これのおかげで学校では超高速で問題を解ける超能力を身に着けてしまった。周りからは神扱いされる始末・・・・・。

ちなみに周りからは受験勉強を頑張っている人だとみられている・・・・・。


他にも理科や社会の用語が、魔法の詠唱内に出現する物もあるらしい。最高位の魔法だとそれがおよそ10問だという・・・・・。もはやファンタジックではない。

一応私が習得した魔法の中で高位レベルだと思われる魔法は≪インフィニティデストロイヤー≫と≪トワイライトサンダー≫、それと最近覚えたあれだ。

計算上にルートや二乗が出てくる合計7問を解かなければならなく、洒落にならないスキルだった。





「ユイッ!!危ないぞ!」

突然背後に刺激が走った。この世界に痛覚はない、だけど大きくノックバックして前方に膝をついて倒れた。ワンドを掴むのと同時に後ろを振り返った。それと同時に飛来した一陣の風が目の前にいる赤いボディの敵の頭部を的確に射通す。それと同時に一瞬にしてその敵は消滅していった。人型だけあって膨大な量の粉塵。


「大丈夫か!」

ごくんとポーションを一気飲みして体力をマックスまで引き戻す。この世界だと数値化された体力はどうも似合わなくて萎える。

「ううん、問題ないです。あの・・・」

そういったのもつかの間、同種の別固体が私に再び襲い掛かってきて、私の体を切り裂いた。途端に視界が真っ赤に彩られた火花に包まれる。さっき受けた時点で気づいていたが、攻撃力がかなり高い。そしてMobの見た目は人そのものだ。ゴブリンのようにごつい体つきではなく、コボルトのように鼻が長いわけでもない。れっきとした人間そのものだ。

そして、大きく掲げた剣を私に絶対当たらないのにもかかわらず狂ったように振り回している。自我がない人形のようだ。


「くそっ・・・・・ここでこいつらとご対面か・・・厄介だ!ユイッ!あそこにいる大きめの黒い奴を重点的に狙うぞ!」

指さした方向には、指先を虫の足のようにくねくねと動かすさっきの敵より一回り大きめなMobだった。黒い魔導師風のローブに身を包み、目は赤く光っている。


「分かったわ!」

私はバーニングブレイズで赤い色の敵を一撃で屠り、その方向へと向かっていく。





魂霊スキル――『狩狙眼(かりそめ)』の使い手とともに――――




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