01:作者失格
……どこから間違えた?
齢、四十を前にして失業保険もあと一回で終わる。だが就職などしたくない。俺の人生設計ではすでに結婚し、子供は二人か三人、この女だと心に決めた相手と結婚しているはずだった。
しかし現実はどうだ?
わずかな貯金と、何者にもなれなかった自分が一人……洗面所の鏡の前に映っていた。
「規格外――」
リビングとは呼べない六畳一間から、垂れ流し状態のテレビはそんなセリフを吐いた。
「……またか」
昔は好き好んで観ていたアニメも、今はそんな使い回されたセリフを聞くだけで虫唾が走る。理由は単純だ。俺がそちら側の作者になれなかったから。
しまいにはAIにまで手を出し、作品を作ることを放棄した。それで結果は……『お気に入り0』『いいね0』の駄作を量産。
かつては相棒と呼んでいたチャットAIも、今は詐欺師呼ばわり。そうして、俺のWEB小説作家人生は幕を閉じた。
◇
異世界ファンタジーは作家によって作られる。
では、作家本人が異世界に転移・転生してしまったらどうなるか?
これは俺の体験を綴った……異世界ファンタジー物語り。
――。
気が付くと、中世ヨーロッパ風の街中にいた。
異世界トラックにはねられた記憶もなければ、食中毒で死んだわけでもない。
俗にいうところの『気が付いたら異世界転移』という、裏で糸を引く誰かが居そうというあれだ。
しかしその場合、主人公には後々明かされる隠された能力や、読者ウケする尖った性格や魅力的な仲間たちが現れたりするものだ。
だが俺の場合、重度のアニメオタクからWEB小説作家に移行してしまったため、そこらへんのアンチとはわけが違う。
「ステータス! プロパティ! ファイアーボール! ……」
その後もしばらくの間、思い当るあれやこれやを試したが何も起こらなかった。
ならば――
駆け込んだ一軒の店。現代文明チートで、大成功の成り上がりを一瞬でも期待した俺は馬鹿だった。
店のショーウインドウには、スマホやパソコン……ゲーム機すら並んでいる。
しかも店の店員は猫耳の獣人……糞みたいな異世界だと思った。
そして、反射するガラスケースには若返った俺が映っていた。
「……最悪」
下手ななろう作家でも、読者ウケするような余白を作るものだ。
しかしこの世界はどうだ? 文明チートで成り上がりする隙間もなければ、若返ったことによるメリットがない。
ましてや、神の加護や面白スキルを持っているわけではない。自作の小説世界で無双するわけでも、悪役令嬢におっさんが転生したわけでもない……ただ単におっさんが一人、若返っただけ。
出オチにもほどがある。
やるせないとはこういうことなのだろう。
そんなことを思いながら店を出た。
――ッ!
入れ違いになった客と肩がぶつかった。
「すみません……って、アイルなのか?」
「あん???」
そこにいたのは、俺が過去に書いた作品の主人公『アイル・クラウン』がいた。
「ってことは……!」
「お師匠、揉めごとは起こさないでくださいよ」
そう言って、ひょっこり出てきたのはアイルの愛弟子『リリィ』だった。
『魔法筆職人であるアイルが国外追放をきっかけに、弟子のリリィと旅をする』という、結果的にはエタってしまった作品の二人。マンガ化することも到底なかったが、俺の頭の中では確かに生きていた二人。
思い返してみれば、ライトノベル小説……ましてやWEB小説一作品すら最後まで読み切ったことがない俺が、WEB小説を書き始めてしまったのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
「俺だよ、アイル! お前の作者の■■■■だよ」
「なんだ急にお前。薬でもやってんのか?」
「――お師匠! 失礼ですよ、初対面の人に向かって」
結局、買い物を済ませ店から出てきた二人に事情を話したが、頭のおかしくなった奴とあしらわれた。
しかし、それが逆に良かったのか……。
「水――ッ!」
……。
使い物にならない魔法筆を一本、もらったのだった。




