第六話 美濃攻略
第六話 美濃攻略
戦は、力だけでは勝てない。
それを誰よりも理解していたのが――
織田信長だった。
美濃。
その中心にそびえる稲葉山城は、難攻不落。
幾度攻めても、落ちない。
家臣たちの間に、焦りが広がる。
「このままでは……」
「兵を失うばかりにございます」
沈黙の中、信長は口を開く。
「誰か――落とせる者はおらぬか」
その声に、誰も応えない。
だが――
一人の男が、前に出た。
豊臣秀吉。
まだ名も低き足軽上がりの男。
「拙者にお任せを」
ざわめきが走る。
「兵は要りませぬ」
その言葉に、場が凍る。
「三日で、砦を築いてみせましょう」
無謀。
誰もがそう思った。
だが――
信長は笑った。
「面白い。やってみせよ」
その夜。
秀吉は動いた。
共にいたのは、ただ一人。
黒田官兵衛。
知略に優れた男。
「三日で、ですか」
官兵衛が静かに問う。
「やるしかねぇだろ」
秀吉は笑う。
闇の中。
木を切り、資材を運び、
人知れず築かれていく砦。
昼は隠れ、夜に動く。
誰にも気づかれずに。
そして――
三日後。
そこに、砦はあった。
まるで一夜にして現れたかのように。
美濃の兵は、動揺する。
「なぜだ……」
「いつの間に……」
守りは崩れる。
心が崩れたからだ。
「今だ」
信長の一声で、軍は動く。
混乱の中、攻め込む織田軍。
そして――
稲葉山城、陥落。
だが、この戦の始まりは、さらに前に遡る。
かつて――
織田信長は、美濃の地を訪れていた。
その時、彼は奇妙な姿で現れる。
上半身は裸。
腰にはひょうたん。
誰が見ても、うつけ者。
それを遠くから見ていた男がいた。
斎藤道三。
小屋の中から、静かに呟く。
「やはり……うつけか」
だが――
城での対面。
現れた信長は、別人だった。
整えられた姿。
隙のない所作。
そして――
鋭い目。
道三は、見抜いた。
(この男……)
会見が終わり、家臣に言う。
「いずれ、織田に呑まれる」
「この国は、あの男のものになる」
さらに遡る。
その始まり。
信長が、美濃と結ばれる日。
濃姫。
信長のもとへ嫁ぐことになった女。
政略結婚。
だが、その出会いは静かではなかった。
互いに相手を測る。
一歩も引かぬ視線。
信長は笑う。
「面白い女だ」
濃姫もまた、微笑む。
「あなたも、噂とは違う」
この出会いが、やがて信長を支える力となる。
そして再び、戦場へ。
稲葉山城を見下ろしながら、信長は言う。
「ここからだ」
地名を変える。
岐阜。
そして掲げる。
「天下布武」
戦だけではない。
人を見抜き、
心を動かし、
流れを作る。
風が吹く。
それは、新しい時代の風。
織田信長は、
すでにその中心に立っていた。




