第11話『二日目のおやすみ』
「――ふぅー、お風呂気持ち良かったー」
俺がソファーでスマホをいじっていると、エマがタオルで髪を擦りながらリビングに入ってきた。風呂から上がったみたいだ。パジャマを着ているし。
「よいしょっと」
そう言って、エマは俺の隣に座ってギューってくっついてきた。
「ちょ……どうした?」
「えー? 暖かいなーって思って」
「湯船で十分温まっただろ」
風呂で温まったのに、こんなに密着されたら、今日は寒いと言っても流石に暑い。
だから離れようとするのだが、強くぎゅーってしてくるから離れられない。――以外に、エマは力強いんだよ。
もう離れるのは無理だなと悟ったから、俺は抵抗をやめた。
そしたら、
「ねぇ、髪乾かして?」
「まあ良いけど。ドライヤーは?」
「はい、これ」
俺はエマからドライヤーを受け取って、コードをコンセントに差す。
「じゃ、お願い、れーくん」
床に座って、俺の両足の間に挟まるとエマはそう言った。俺はそれに「はいはい」と答え、ドライヤーの電源を入れて、エマの髪に熱風を当てる。
「――髪長いよな。いつも乾かすの大変じゃない?」
エマの金髪は、背中くらいまである長髪だから、毎日乾かすのって大変だよなーと思って、質問する。だが、
「え、なんか言った?」
――聞こえていなかった。まあ仕方ない。ドライヤーの音がうるさいし、俺もちょっと声が小さかった。
だからもう一度言おうとしたら、
「冗談冗談。まあねー、乾かすのめんどくさいよー。時間取られちゃうからさー」
「聞こえてたのかよ」
わざと聞こえないフリをしていたエマに、俺はため息をつきながらつっこむ。それでも、エマは楽しそうにクスクスと笑った。
「なでなでしながら乾かして?」
「わかったわかった」
全く要求の多いやつだ。さっきまでは結構適当に乾かしていたが、頼まれたし仕方ない。俺は、優しく頭を撫でながら、ドライヤーを当てて乾かす。
こっちからはエマの顔が見えないから、これで良いのか分かんないが、身体を左右に揺らしてて満足そうにも見える。
――数分して、俺はエマの髪を乾かし終えた。するとすぐに、エマはソファーに座って俺の腕に抱きついてくる。
「またこれかよ……」
「良いじゃん? アタシ、れーくんのこと、だ――」
「――? どした」
途中で言葉を終えて、なんか静かになったエマ。そのまま、俺の腕に顔を埋めた。
――なんか、ちょっと熱い気がする。熱か?
「エマ? 熱か?」
左手でエマの顔を起こすと、真っ赤――とまではいかないが、白い肌の頬が赤く染まっていた。俺がじっと見つめてしまうと、
「あ、いや、なんでもないって。アタシが可愛いからって、そんなにジロジロ顔見ないでよー」
「自過剰はご健在のようだな」
熱だと思って心配したのに、違ったようだ。心配して損した。
「――そろそろ寝るか? ま、明日土曜だから夜更かししても大丈夫だけど……」
「夜更かしは身体に悪いし、寝よっか」
俺らはそのまま立ち上がって、リビングの電気を消して寝室に入る。
「よいしょ。今日も一緒にぎゅーして寝ようね?」
「分かった分かったって」
ベッドに入って毛布を被り、両手を広げているエマ。
俺もベッドに入って、横になり、エマを抱きしめる。
「んふふ〜」
「これで良いのか?」
「うん! これが良いの……」
エマはそのまま腕を俺の背中で組んで、俺の胸に顔を埋めて密着する。
「――相変わらず力強いな……」
「もう、女の子にそんなこと言わないでよ。ちょっと傷つくなぁ」
「あ、ごめんって」
俺の胸に顔を埋めてるから、どんな表情をしてるのかは見えない。だがきっと、頬を膨らませてるんだろうな、と、そう思った。
――しばらく、沈黙の時間が続く。五分くらいだっただろうか。そしたら突然、エマが喋りだした。
「ねぇ、れーくんまだ起きてる?」
「起きてる」
俺の返事に、エマはただ「そっか」と答える。それからまた、
――一分くらい経った。すると、
「――アタシね、れーくんと一緒に過ごすの大好きなんだ。ほんと、幸せなんだ」
「――そうか?」
「うん。だって、高校かられーくんは地元を離れたでしょ? この一年間、アタシはずっと寂しかった。心細かった。もしかしたら、もうずっと会えなくなるんじゃないかって」
「――――」
エマは、そのまま話を続ける。
「夏休みとか、長期休みのときは帰ってきてたから、会えなくなるってことはないって思ったよ。――でも、それでも、アタシは毎日、ずっと一緒にいたかった。だから、苦手な勉強を頑張って、ここに来たんだよ?」
「――そう、だったのか」
昨日から、思っていた。自分で言うのもなんだが、俺が通ってる高校は、県のトップファイブレベルの頭が良い高校だ。
言っちゃ悪いが、俺の知る限り、エマは中学二年生まで、頭がそんなに言い訳ではなかった。俺に、いつも勉強の愚痴を言っていたし。
そんなエマが、なんでこの高校に入れたのだろうと。そう、疑問に思っていた。
――そういえば、昨日、高校で初めてエマを見たとき、
『そりゃ、れーくんと一緒にいたかったからに決まってんじゃん。アタシ、ここ受かるためにめーっちゃ勉強したんだからね? アタシの頑張りを労ってくれていいと思うなー』
なんて、言っていた。そのときはあんまり深く考えなかったが、ここに来るために、エマは苦手な勉強をかなり極めたというわけだ。
「――アタシ、もう、れーくんと離れたくない。だから、一緒にいて……?」
「――ああ。一緒にいるよ」
そう言って、俺はエマの頭を優しく撫でる。すると、「えへへ……」という声が聞こえてくる。
――しばらくそうしていると、「すぅ、すぅ」と聞こえるようになった。
もう、寝たのだろう。
だから俺は――、
「おやすみ、エマ」
小さくそう言って、俺は眠りについた。




