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あの日の温もりと①

 夏休みが終わり、あっという間に秋になった。3年生は数少ない就職組を除いて必死に勉強する毎日だ。特段イベントはなく、朝から夕方、休み時間までほとんど会話せず生徒たちは勉強に打ち込んでいる。県内トップの高校ゆえ、目指すは国内外問わずハイレベルの大学を狙う生徒がほとんどだ。

 

 そして10月のある日。生徒会役員たちは生徒会室に集まり、定例会議を開いていた。普段と違うことはここ数日、副会長である土端の姿がないことだ。

 役員たちは心配を隠さず、何故いないのか、誰か知っているか、など不安を口々に出したが風巻だけは普段と変わらなかった。

 

「来週の生徒会長選挙をもって今の生徒会は解散します」


 役員たちの不安をよそに、風巻は資料を眺めながら淡々と告げ、更に「来週までよろしく」とだけ付け加えると鞄を持ち早々に生徒会室から出て行った。


 夏の暑さは過ぎ、木々の葉も紅く色づいている。風巻は生徒玄関で靴を脱ぎ履き替えているとふと気配を感じて振り返った。そこにいたのは全速力で追いかけてきて顔を真っ赤にしている成田だった。


「風巻くん!」


「ん?」


「あの、さ。ここ最近、土端さん見ないんだけど知ってる?」


 上がる息を整えながら必死で話す成田にぴたりと風巻は固まった。だが側から見ればわからないほどの変化のため、成田は更に話し続ける。


「先生に聞いたらね、家の事情でしばらく休むってことらしいんだけど。あんまりに長過ぎるから、その……出席とか大丈夫なのかなって」


「……」


 風巻はじっと耳を傾けながら、答えようとはしなかった。理由は知らない。けれども、もう関わらないようにしようと決めたからだ。

 魔族と神は相容れない。成田にそのことを伝えるわけにもいかず、風巻はしばらく思案して視線を逸らした。

 だがその表情は成田からすれば「興味がない」と言われたように感じた。そして今まで風巻に見せたことのない剣幕で叫んだ。


「風巻くん!」


「っ、な、何だよ」


 怒りに満ち満ちた目で成田は風巻を睨んだ。その瞳にはじんわりと涙が浮かんでいる。風巻は成田の言動の意味が分からず自然と眉間にしわが寄る。だがそれもまた、成田からすれば「うるせえな」と言われたように感じ、その場で地団駄を踏んだ。


「もうぅっ!そんなに冷たいなんて思わなかった!土端さんと風巻くんてよく話すから仲いいのかなって思ったのに。私の好きな風巻くんはすっごくすっごく冷酷だったってこと!?」


「は?あ……いや」


 風巻が言葉を発そうにも成田の剣幕に元より会話が上手ではない風巻の声はかき消される。何も答えない風巻に成田はとうとう涙を流し始め、勢いはなくなった。


「土端さん、どこに住んでるかもわからないし、お見舞いにも行けないし、連絡先だって知らないし、先生に聞いても教えてくれないし。……ぐすっ、私、私ばっか心配してバカ……」


「……」


 泣きじゃくる女の子を介抱する術を風巻は持っていない。すると聞きなれた声が聞こえ、風巻は振り向いた。


「あちゃぁ……らしくねえの。どうしたんだ?」


「山本」


 肩にカバンをかけ、大きな封筒を片手に持った山本は目の前の光景につい苦笑した。戸惑う風巻からすれば救世主のように見え、自然と縋るように見つめた。その弱弱しい風巻の反応に更に困ったように山本は笑うと成田の頭をぽんぽんと撫でた。


「泣くなよ。ごめんな。風巻、時々辛辣なこと言うからさ」


「いや、俺は何も……」


「うぅっ……ごめっ……」


 泣いたせいで上手く声が出ず、成田は首を横に振って否定した。成田の反応に山本は安堵し、ポケットからハンカチを取り出して成田に差し出すと風巻の方へ向き直った。


「で、なんで泣いてんの?コイツ」


「……」


 風巻は答えなかった。ぎゅっと拳を握るだけで風巻は俯いた。小さな動作に山本はため息を漏らし、頭をかいた。


「こんなに泣かしちゃ駄目だって」


「いいの、山本くん。私が悪いから……」


 成田は山本の差し出したハンカチで涙をぬぐうと、泣く声を必死に取り繕った。だが山本はびくとも反応しない風巻に苛立ち、風巻をじっと見つめた。


「お前が今一番したいことは何だ?生徒会?受験勉強?……違うだろ」


「……ごめんなさい……?」


「え?いいよ!私が取り乱しただけで……」


「ちっげぇよ!」


 無垢な目で山本を見つめ、ハッと思いついた言葉を風巻は言うとそれに呼応して成田は首をブンブンと横に振った。だが山本のツッコミで2人は口を閉ざした。


「あぁ……いや、違くねえけど。……はぁ。ほんと、いつも鈍感だし、何も言わねえからわからねえし」


「……」


「ま、俺は風巻のそういうところ好きだけどな」


 カラカラと笑う山本に成田は不思議そうに2人を見た。すると風巻は封筒を抱きしめるとなぜか少しだけ照れたように視線を逸らした。

 そして山本は成田にしたように風巻の頭をポンポンと撫でる。


「そういうわけだ。な?成田がこんなに取り乱してんだ。同級生として、男として放っておけねえよな」


「……あぁ」


 風巻は顔を上げると優しく笑う山本につられて表情をやわらげた。そして成田に向き直ると風巻は頭を下げた。


「え?え?」


「ごめん。……ありがとう」


「え?」


 成田だけが何もわからず戸惑っていると、2人は一度視線を交え、すぐに風巻は走って行ってしまった。


「えっと……」


「成田が心配するほど土端は弱くねえし、風巻も人でなしじゃねえよ」


「え!?聞いてたの?」


「そりゃ、あんだけバカでかい声出したら聞こえんだろ。アハハッ!」


 そういえばここは生徒玄関。廊下にその声は響き渡り、秋と言えどまだ暑いため、窓が開け放たれた教室はいくつかありそこから更に多くの人に聞かれたかもしれない。

 成田は顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。


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