別れある月にまた side黒田
今日が本当に最後になる。僕はこの高校に入学して良かったと本気で思っている。中学の頃は根暗だオタクだといじめられたこともあったが、ここにきてからそんなことはなかった。言い方は悪いが、頭の良さが同じくらいの人たちは僕を邪険にしない。そんな暇があるなら自分のことをするからだ。
大学も有名なY大に合格した。これから僕の人生は薔薇色、……なんだろうな。きっと。
心残りがある。
僕の初恋に決着がついていない。一生懸命アプローチしてきたけれど全く相手にされていなかったのはわかっている。けれど、しっかり終わらせたい。僕のエゴだとしても。
僕は卒業式には似つかわしくない大きな紙袋を持ってきていた。中身は見えないように布で覆われている。同級生からは不審に見られていたが関係ない。僕の恋にピリオドを打つ。
昨日の夜、僕は近所の花屋に行った。そして初めて花束というモノを買ったのだ。朝イチで受け取りに行って今に至る。
◇
卒業式が終わり、僕は土端くんを探した。彼女は一人でいることが多いから容易に見つけることができた。土端くんは1人、体育館にいた。おそらく最後の見回りで来たのだろう。さっきまで賑わっていたそこも、今は可憐な少女が一人ぽつんといるだけだ。
僕はどうしてこの子のことを好きになったんだろう。見た目?それは勿論あるけれど、彼女の凛とした強さに惹かれた。情けない僕を支えてくれた。僕の弱いところを強い心で押してくれた。カッコいい。そして美しい。彼女に火の打ち所など何もない。
「土端くん、少し時間もらえるかな?」
多分今までで1番弱々しく声をかけた。自信がない。最後になることがこんなにも悔しいなんて知らなかった。
土端くんはひらりとスカートを揺らし振り返った。ふわふわのツインテールが微かに揺れる。紅く、くりりとした目が僕を捉え、こくりと一つ頷いた。
いつもと変わらない、感情の見えない表情。もうわかっている。僕に脈なんてこれっぽっちもないことを。それでも僕は僕なりに決着をつけたい。
僕は大きな花束を土端くんの前に差し出した。
「僕、黒田は、今日卒業いたします!」
「……」
「土端くん、ありがとう」
冷たい視線が一瞬揺らいだ。花束と僕の言葉がチグハグだったから戸惑ったのかもしれない。
伝えたかった言葉ではない感謝の言葉が出てしまったが、そこはご愛嬌。きっと今僕が伝えたかった言葉はこれなんだろう。
土端くんは驚いたものの、すぐにいつもの冷たい目で僕を見つめる。そして蔑むように笑うと、花束をじっと見つめた。
「これは何ですか?」
「へ?あ、えっと……」
「ありがとう、にしては、随分大きいように感じますが」
わかっているのに聞いてきてるんじゃないか。あぁ、何でこんな性格の悪い女の子を好きになったんだ、僕は。誰にも靡かず、相手の好意を無碍にする嫌な人。皆が魔女と呼ぶのも少しはわかる気がする。人を惑わせたくせに責任を取らずこうやってポイ捨てするのだから。
僕はなんだかとっても恥ずかしくなった。僕の好意をいとも簡単に否定し、お前にチャンスなどないと再度叩きつけられているように感じたからだ。
でも、引きそうになる手をぐっと堪えて、僕は花束を土端くんの胸にぐいっと押しつけた。
「ありがとうで合ってる。生徒会の皆にも伝えて」
土端くんは抵抗なく花束を受け取るとペコリと頭を下げて「ありがとうございます」とだけ告げた。
言い換えたことなどバレバレだ。皆にプレゼントということで事無きを得ようとする情けない僕の考えなんてきっとお見通しだ。誰が彼女を御せるんだろうか。
いる。一人だけ。敢えて口にしないし、したくもない。
いつの間にか僕は強く拳を握って俯いていた。気づけば花束を抱えた土端くんはじっと僕を見つめていた。僕は驚いて少し飛び上がってしまった。綺麗な紅い目に見つめられてつい照れてしまったからだ。
「黒田会長」
「っ!な、なに?」
「前に聞きましたよね。どうして生徒会長になったんですかって」
僕のドキドキなんか無視して土端くんは唐突に妙なことを尋ねて来た。学校祭の時に聞かれた気がする。それがどうしたんだろう。
「う、うん。それが?」
「あれって本心ですか?」
何かの謎かけだろうか。間違いなく言えるのは僕は試されている。ならば僕がすることは誠心誠意答えることだけだ。
「もちろん。僕は人の役に立てるならなんだってするよ。その手段として生徒会長が一番だと思ったまでさ」
決まった。自画自賛になるけれどこんな立派な回答できる僕に惚れちゃったりして。
まぁ、そんなわけもなく僕の答えを聞いて土端くんは今までよりもずっと蔑むような目で僕を見ると小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。小生意気なその表情はどこか幼く、そして魅力的だ。
「お世話になりました」
そういうと土端くんは一礼し、花束を抱えてその場からいなくなった。
彼女は認めない。僕と話しているときも、ほかの子と話しているときも、いつも意識にあるのはあの男のことだけだということを。




