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月夜のハルジオン  作者: 江川オルカ
番外編
70/111

風巻と山本③

 風巻は怯むことなくまっすぐ見つめながらその手を払うと、ゆっくり立ち上がり葉山たちにニヤリと笑った。


「誰がやるか、そんなイカサマ」


「あ?」


「めんどくせえな、かかってこいよ」


 葉山と仲間は固まった。どうみても自分達よりも幼く小さな風巻。そんな男から出てくるとは思えなかったため、葉山たちは声を上げて笑った。


「「ひゃっひゃっひゃ!」」


「いいのか?俺に殴られたらお前なんかひとたまりもないぜ?」


「そ、そうだよ。風巻、お前何言っちゃって……」


 殴られた衝撃で倒れていた山本も痛みを忘れて慌てて制止の声を上げた。だが当の風巻は平然としていて、自分よりもずっと大きな葉山と仲間たちを見据えながらひょいひょいと手で招いた。もちろん葉山は挑発に乗ってしまった。


「っ!……テメェら!このチビを囲め!ぼこしちまえ」


 葉山の号令と共に仲間達は風巻を囲んだ。仲間達は風巻に殴りかかろうと手を振り上げた。風巻の頭や腹、それぞれが急所になるところ目掛けて腕を振り下ろした。

 殴れる。そう思った瞬間に仲間達は相打ちになりそれぞれが互いの仲間のパンチを受けて倒れてしまった。


「なっ……」


「え……、何が起こってんだ」


 葉山は息を呑み、山本は立ち尽くした。風巻は何もしていない。ただ殴られる瞬間にしゃがみ込んだだけだった。そして殴り合ったと同時にその輪の中から抜け出し、葉山の前に立った。


「逃げるなら今のうちだぞ」


「っ!うるせえ!」


 葉山は奥歯を噛み締め、強く拳を握った。空いている手で風巻の胸ぐらを掴むとすかさず殴りかかる。

 この後の出来事は一瞬だった。掴まれた胸ぐらに風巻は手を添えると、引くわけではなく敢えて自分から前に出た。葉山の懐に入り込むと振り上げられた拳をよけて、勢いのまま風巻は葉山を押し倒した。いくら風巻が小柄でも思いもよらない行動に受け身を取るすべもなく倒された葉山は頭を地面に打ち付けそのまま気を失ってしまった。


「おい、大丈夫なのか?」


「ん?」


 風巻はゆっくり立ち上がると、汚れてもいないのに手をパンパンと払って不安げに尋ねる山本に振り返った。どう考えても巨漢を小柄な少年が倒したようには思えない。現実を受け入れられない山本に、風巻は優しく微笑むと食料の入ったビニール袋を拾って山本に差し出した。


「あ、……いや、あの」


「これ。弟と妹に買ったんだろ?持って帰って食わせてやんねえと」


「……」


 山本は差し出されたビニール袋を受け取ると困ったように頭をかいた。働かない頭で何が起きたか整理しようにも全くまとまらずわけがわからないままだ。

 すると「ううぅっ」と仲間の一人が気が付きそうになり、声を上げた。風巻は山本の手をつかむと早々に走り出し、その場から離れて人気のある商店街に入った。





 暫く山本は黙ったまま風巻の横を歩いていた。何度見ても自分よりも小さくて華奢で、ブレザーもおそらく一番小さいサイズなのではないだろうか。そんな男が自分が恐れていた巨漢を呆気なく倒してしまった。明日からも学校はあるのにどうするつもりなのかも、山本にはわからない。


「なあ」


 初めに声をかけたのは風巻の方だった。ぴたりと歩くのをやめて山本に向き直ると、突然手を伸ばし山本の両頬を包んだ。彼女ができたこともなく、女の子と話したことない山本からすれば、男だろうがきれいな顔立ちの風巻がまっすぐじっと見つめてくると何となく照れくさく、頬が熱くなるのを感じた。


「お前、初日みたいに笑ってる方がいいよ」


「へ?」


 これ女の子が言われたら惚れちゃう奴だ。と、なんだか他人事のように山本はぼんやり思った。それにかぶせるように風巻はさらに言葉をつづける。


「葉山たちはもうお前に何もしてこない。絶対」


 ぼうっとした頭はすぐに冴えてしまった。山本は核心のない風巻の言葉に頬を包んでいた手を払うとまっすぐ風巻を見つめた。


「そんなわけねえだろ」


「してこない」


「なんでだよ」


 山本の問いは最もである。不安げな山本をよそに風巻は小さく笑うと自分の唇に人差し指を当てた。


「内緒」


「はぁ?」


「いいじゃねえか。じゃ、俺こっちだから」


 風巻はひらひらと手を振り、呆然と立ち尽くす山本を置いて、角を曲がり帰っていった。

 山本は暫く呆然と立ち尽くしていたが、ふと手に持っていたビニール袋を見て思い出し、苦笑した。


「これ、どうしたらいいんだよ」



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