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月夜のハルジオン  作者: 江川オルカ
番外編
68/111

風巻と山本①

風巻と山本の出会いのお話です。飛ばしても本編に差し支えありません。


 心地の良い春風が、新しい年度を祝っていた。ここはとある市立の中学校。2年3組に1人転校生がやってきた。年配の男性教師が黒板に名前を書き、廊下に立っていた男子生徒を1人呼び出す。その生徒はのちに風巻と仲良くなる山本宏太。山本は目をキラキラさせながら教壇に立つと教室を見渡してペコリと頭を下げた。


「はじめまして!隣町から引っ越してきました、山本宏太です。えっと、父は工場勤務、母は美容室をやっております。母が独立して店を開いたので、ここに引っ越してきました。あと、兄貴が2人、姉貴が1人、弟が2人、妹が1人います。よろしくお願いします!」


 皆は兄弟の多さにこそこそと話しながら驚いた。明るく笑いながら山本は皆の様子にどこか誇らしげに胸を張った。


 ホームルームが終わると早々に山本は皆の注目の的になった。山本はから質問一つ一つに笑顔で答えた。その人柄の良さにあっという間に友達も作った数週間がたったある日。


「おい、山本」


「なになに?葉山」


 山本を呼んだのは中学2年生とは思えない、大柄なスキンヘッドの葉山だ。数人の仲間達とニヤニヤしながら山本を体育館裏に呼び出した。


「一緒にゲームしねえ?」


「え?なんだろ。やる!」


「「ひひっ」」


 仲間達は小さく笑いながら葉山の次の行動を待った。山本は楽しそうな言葉にワクワクしながら待っている。葉山はポケットから一枚のコインを取り出し山本に見せた。


「根性試しゲームつって、俺らの間で流行っててさ。表か裏か当てるだけ。お前引っ越してきてまだやったことねえから、誘ったんだけど……やるか?」


「うん!どうやってやるんだ?」


「俺が投げて隠したコインの裏表を予想する。で、お前が当たってたら俺がお前のいうこと何でも聞く。もしお前が負けたら、お前が俺のいうことを聞く」


「うんうん」


「やるか?」


「やる!」


 ルールを聞いて俄然面白そうだと、山本はさらに興奮した。反して葉山はニヤニヤしたままコインを親指でピンと弾いて自分の手の中に収めて山本の前に出した。


「どっちだ」


「おもて!」


 悩むそぶりもなく山本は即答した。すると周りの仲間たちが大きな声で笑い始めた。葉山も笑いを堪えながらそっと手を開いた。コインは城の描かれたほうが上になっていた。


「あー、ざんねーん」


「「ひゃっひゃっひゃ」」


「あー、まじかよぉ。で、何すればいいんだ?」


 遊びなのだからデコピンとかだろうか、山本は悔しそうにそれでも笑いながら葉山の言葉を待った。

すると、葉山はぴたりと笑うのをやめて、山本の前に小銭を数枚投げ落とした。


「菓子パン買ってこい。ここにいる奴ら全員分の」


「え?」


「今日からお前は俺らの奴隷だ」


「え?いや、まだ昼休みだし。それに登下校の買い食いダメって……」


「約束守れねえのか?あ?」


 葉山の怒鳴り声を合図に仲間達は山本を取り囲んだ。パキパキと指を鳴らし、今にも殴りかかりそうな雰囲気。山本はヘラヘラ笑いながら断ろうとしたが、周りの威圧にぐっと拳を握って俯いた。そして、意を決して顔を上げると笑みを浮かべた。


「しょうがねえ。約束だもんな。買ってくるよ」


「釣りはやるから上手く買ってこいよ」


「「ひゃっひゃっひゃ」」


 山本は地面に落ちた小銭を一つずつ拾っていると、葉山が山本の頭に足を乗せて体重をかけた。自然と山本は地面に這いつくばる形になった。


「先公にチクったらお前ん家の店、荒らしに行くからな。弟妹に何かされたくなかったら俺らのいうこと聞けよ」


「「そうだそうだ!ひゃっひゃっ!」」


 そういうと、葉山は頭の上から足を退けると即座に山本の腹部に強い蹴りを喰らわせ、仲間たちとその場を後にした。



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