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昨日の敵は明日の side土端

 羽田空港に着くとそれぞれのクラスのバスに乗り込み、高校へと帰った。

 高校につくと、帰りを楽しみに待っていた保護者はもちろん、部活中の後輩たちなどでグラウンドはごった返しになった。


 私は荷物を受け取ると正門を出て少し離れたところに止められている黒塗りの車に向かった。私の姿が見えると運転席が開き、見慣れた男が一礼して私を向かい入れてくれた。執事の立花だ。

 立花は「おかえりなさいませ」と告げるだけで荷物を私から受け取り、慣れた手つきでトランクに荷物を入れていく。私はそれをぼうっと眺めながら、後部座席が開くのを待った。そして立花が私の前に回りドアを開けようとしたところで、旅行初日に預けてくれた箱の入ったきんちゃく袋を立花に差し出した。


「ありがとう」


「あぁ、いえ。お役に立てましたか?」


「……すこし」


 立花は優しく微笑むとそのきんちゃく袋を受け取り後部座席を開けた。私が乗り込むと中を確認して丁寧にドアを閉める。運転席に乗り込んで私がシートベルトをしたのを確認してゆっくり発車した。

 しばらく外の景色に視線を向けて私の方から話しかけることはしなかった。すると立花がちらりとミラーで私を見ると優しく話しかけてきた。


「どうでした?楽しかったですか?」


「……」


「それは何より」


 むかつくけれど、立花は何でもお見通しだ。私が答えないイコール肯定だということを百も承知だ。だからこそ、立花はクスと小さく笑ってそれ以上深堀しようとはしなかった。





 数十分もしないうちに自宅に到着した。大きな門を車が通ると既に数人の執事とメイドが屋敷の玄関に並び深く頭を下げている。慣れているけれど私はこの感じがあまり好きではない。

 車が停車するなり、執事がドアを開け、私が下りると「おかえりなさいませ」と深く頭を下げた。それを合図に他の執事やメイドたちも一斉に頭を下げた。


「ただいま」


 ぽつりと私が返答すると皆ピタリと固まった。


え?なに?


 執事とメイドたちは私の顔を見るとお互いに顔を見合わせた。その様子に運転席にいたはずの立花がいつの間にか私の横にいて笑いながら皆をいさめた。


「何をしているんです?早くお荷物を中に運びなさい。あと、キミは百華様に温かい紅茶とお菓子を。アナタは湯殿の準備を」


 皆が立花の号令によって我を取り戻して早々に仕事を始めた。私にはさっぱりで苛付きよりも不思議な気持ちでいっぱいになって自然と立花を見上げた。すると立花は私を見ると首を横に振った。気にするなということだろうか。


 私は手提げカバンだけ持つと屋敷の中に入り自室に向かった。いつもはすぐに違う仕事に向かうはずの立花がなぜかついてきている。やはり不思議でならない。

 自室につくと立花は扉に手をかけてさっと開いた。私は礼を言うことなく部屋に入る。私の留守中に何かされた痕跡はない。鉛筆一つさえ動かされていないと思う。ただシーツは変えられ、ゴミ一つないきれいな部屋になっていた。いつもきれいにされているが、長く留守にしたせいもあっていつも以上に綺麗になっている。私の好きな香りのするフラワーブーケがぽつんとテーブルに置かれていた。


「先ほどの皆の無礼、お許しください」


 ブーケに気を取られていると背後から立花が申し訳なさそうに声をかけ、そして頭を下げた。私が振り返ると困ったように笑いながら、それでもどこか楽し気な立花を私は怪訝な目で見つめた。


「失礼ですが、百華様から労いの言葉をいただいたのは初めてで、皆驚いた次第です」


「は?」


労った……かしら。「おかえり」と言われたから「ただいま」と言っただけだ。でも、そうね。言ったことなかったかも。


 私が言葉に詰まっていると立花はにっこり笑って答えた。


「いい旅行だったようで何よりです」


 ムカッとする。それは間違ってないから。決していいことばかりではなかったし、いやなことの方が多かった気もする。でも……。


「百華様」


 先ほどまでの穏やかな雰囲気は一変。立花は改まった態度で私を真っすぐ見ると先ほど返したきんちゃく袋を取り出し、私の前に差し出した。


「なに?」


「一つだけ、よろしいですか?」


 時々まじめになるから困る。こうなった時の立花に私は何も言えない。それは恐怖とかそういうことではなく、私のことを本気で考えているときの態度だからだ。私が何も言わないのを肯定ととった立花はゆっくりと落ち着いた声でつづけた。


「以前もご説明しましたが、この音は普通の人間には聞こえません。モスキート音に似たもの、とお伝えしましたが、幼子にさえ聞こえる音ではありません。そして、地上にいるすべての生き物もこの音が聞こえないと言われております」


 何が言いたいかわかった気がする。立花は一つ呼吸を置くと一歩前に出てじっと私を見つめた。そして私の思った通りの言葉を告げた。


「この音に反応した者と距離を置かれた方がいいと思います」


 あの場にいて反応したのは徳原と……風巻。


「わかってるわ」


 私は表情を変えず冷たく答えると立花から離れ、荷物をテーブルに置くとソファに腰を下ろした。その様子に立花は「失礼いたします」とだけ告げて部屋から出て行った。

 バタンと扉が閉じる音と同時に私はソファに倒れた。


 徳原はおそらくもうあの箱に反応はしない。昨夜の出来事から徳原からは全くと言っていいほど力を感じない。ただの人間、そんな感じになった。それは風巻が何かしたから。ちょっと前まで自分で制御も出来なかったのに何があったのかしら。私にはわからない。

 ただひとつわかっていることは、立花にもほかの人たちにも風巻が魔の者だってことばれないようにしなくてはならない。特にお義父様には……。



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