穢れた獣たち side徳原
正直に言おう。俺は風巻が大嫌いだ。先にも言ったけど、土端が俺にとってはとても重要だ。カマをかけて話してみたけれど、話にならない。風巻って男は何を考えているかさっぱりわからない。俺と同じ生き物のくせに、土端から何かを取ろうとしない。そればかりか、ヒトから奪うこともなさそうだ。じゃあ、どこから力を得て、どうやって人間界で暮らしてるんだ?
すごく、すごく不愉快だ。
俺よりもずっとずっと不安定な出来損ないの癖に。どうせ俺と同じかそれ以下の悪魔の子だろ。もしかしたら代償も少なく、ヒトから何か奪っているのかも。山本とかってやつから、何か取り続けてたりするのか?それなら合点がいく。山本の願いやら何やらを叶えてやる代わりに何かを奪っている。そうに違いない。
俺は風巻から離れると、苛立ちを隠すのをすっかり忘れて商店街を歩いていた。すると、目の前に女が数人。おそらくウチの学校の奴らだ。店のディスプレイを見ながらワーキャー騒いでる。
「ナツ、これ可愛くない?」
「いいね」
「ね!皆でお揃いにして付けようよ!」
「そうだね。由依の分も……」
「え?成田さんの分も買うの?」
「あ、いや、ごめん。何でもない」
「「あははっ!だよねー!」」
ナツと呼ばれる女以外は、成田の名が上がった瞬間に冷たい視線をナツに向けた。ナツは慌てて否定して、キーホルダーを人数分手に持つと他の女たちと店の中に消えた。
くだらない連中。
俺は女たちが出てくるのを店先で待った。あまり時間もかからず女たちは賑やかに店から出てくるなり、俺を見つけて顔を真っ赤にした。
「徳原くん!え?ひとりなの?」
「きゃー!え?迷ったの?」
「あぁ……うん、そんな感じ」
俺は適当に相槌を打った。それだけなのに女達は更に黄色い歓声を上げながら話し始めている。俺が何でこんなくだらない連中を待っていたかって?それはすぐにわかるよ。
ワーキャー騒いでいる女達を他所に、俺は少し悩んだ素振りをしてにっこり笑って商店街の裏路地の方を指さした。
「あっちにね、ご当地グルメでまだ雑誌に載っていないところがあるんだって。俺、班の人たちとはぐれちゃったし、皆で行かない?」
「「えー!?いくいくぅ!」」
「徳原くんと行けるなんてラッキーじゃん!」
「う、うん」
ナツとかいうやつだけ乗り気じゃないけど、他の女達に促されるまま、俺と一緒に裏路地の方へ歩いていった。しばらく中に入っていくと、表の喧騒が嘘のように聞こえないところまで来た。ビルの間を通っているためあたりもほんのり暗い。
さすがにバカな女達でも違和感を覚えてきたらしい。1人が俺の服を掴んできた。
「ね、ねえ。徳原くん」
「なに?」
「本当にこんなところにそんなお店あるの?」
「「そうよそうよ」」
「うん、あるよ。とっておきの。皆が幸せになれる甘いものが」
俺はそういうと歩くのを止めて振り向いた。女達は俺の見た目に息を呑んだ。わかっている。俺は醜い悪魔の子だから。本能が表に出ると、瞳の色は金色に輝く。かろうじて保っている人型に感謝して欲しいくらい。女達の1人が声を上げようとした瞬間、ふわりと甘い香りが空間を占めた。わざと選んだ、空気の流れの悪い箇所。人の目につかず、ゆっくり食事を楽しめる場所。逃げようとした女は、ぱたりとその場に倒れた。1人、また1人とその場に気を失った。最後に残ったのはナツだけだ。すっかり腰を抜かしている。
恐怖に慄きながら俺を見る目は最高。でも、早く眠ってくれないと困る。
怯えるナツの前にしゃがむとそっとナツの額に手を伸ばし、指先で触れた。その瞬間ふとナツは意識を失いその場に倒れた。そして触れた指先からツーっと白い糸が額と繋がる。他の子達の額からも白い糸で繋いでやる。
契約成立。
キミたちの夢は全て俺のもの。どんな夢を見ようが構わないけれど、夢見が悪くなったらごめんね。それは全部俺の仕業。でもいいでしょ?かっこいい見た目の俺の餌になるんだから。別に命とってるわけじゃないし。
すでに生徒達の何人かは手中に収めているけれど、もっともっと欲しい。ヒトには見えないこの糸は、もちろん何かに引っかかったりすることはない。たとえ地球の裏側にいたって一生俺の餌。本人達は気づくことなく永遠に食われ続ける。
自然と口端が上がる。今目の前に転がっている女達の夢をいただこうとした瞬間、聞き覚えのある不愉快な声が聞こえた。
「あれ?徳原。そいつら大丈夫?」
山本がたくさんの土産を抱えながら1人、俺と女たちを見て固まっていた。俺は力を隠し、振り向くとにっこり笑った。瞳の色も黒にもどっているだろう。山本は土産をその場におくと俺を差し置いて女達の方へ駆け寄った。
「どうしちまったんだ?こいつら」
「うん。俺がきた時にはここで寝てて。そうだ、山本くん。一緒に彼女達を運んでくれないかな」
「おう、そうだな」
しゃがみこみ、女達が息をしているか山本は確かめ始めた。
この際だ。コイツも餌にしてやろう。
俺は話しかけながら山本に近づいた。案の定バカな山本は俺の提案に息を荒くしながらこちらに振り向いた。その瞬間、女達に施したように山本の額に手を添えた。だが、額に触れることは叶わず何かが俺の手を弾き返した。ビリリと指先が痺れる感覚。俺は一歩後退りするとその手を押さえ俯いた。
「あ?大丈夫かよ、徳原」
「あ、う、うん。ごめん」
咄嗟に貼り付けた笑みを浮かべて何でもない貞を装ったが、はらわたが煮え繰り返るほどの怒りを覚えた。
また邪魔された。アイツだ。風巻。
一瞬にして俺は理解した。なるほどね。自分の餌を取られることがそんなに気に入らないのか。
心配そうに見つめる山本に、これ以上何かをする手段はない。俺は「何でもないよ」とだけ告げると、山本と一緒に女達を起こしてその場を後にした。
女達の記憶からは俺がヒトではないことは消えている。




