共闘
「ほう。ではあなたはお願いしただけと」
「は、はい」
ここは“風巻悠馬親衛隊防塞基地”もとい、会議室Aを時間で借りてる変な集団。
そこでは日夜、風巻悠馬について熱く語られている。【夜は6時になったら帰るよ!バスがなくなるし、先生に怒られるからね!】
今日の議題は“悠馬様に何故抱きしめられたのか”
前の話で風巻に抱きしめられた女子、一年の片岡さゆりは親衛隊の面々に囲まれ、事情聴取を受けていた。親衛隊たちは苛立ちの中にほのかに羨望の眼差しも含みつつ、やはり苛立ちが勝って睨んでいる。片岡はもじもじしながら皆の視線から逃れるように俯いている。
「あなたはまだ一年生で分からないのかもしれませんが、我が校では悠馬様は孤高の存在、そう、神に等しいお人なの。気安く触れたりしてはいけませんのよ」
「はい」
「一般生徒であるのもわかっていますわ。なので私たちの掟を全て守れとまでは言いません。ただ、ただ!抱きつくのはよろしくありませんわ!」
「「そーよそーよ!!」」
「ひぃっ、ごめんなさい」
リーダーである河山が捲し立てると取り巻きたちも合わせて大声を上げ、片岡はその気に押されてつい謝ってしまった。その後も延々と説教をされ、片岡は拳を握りじんわり目に涙が滲み始めている。すると「ピピピッ」とタイマーの音が響いた。
「はい、終了」
「何をしてらっしゃるかと思えば、この魔女!まだ話は終わってませんわ!」
「知らないわよ。今日申請されている時間は17時まででしょ。終わり。片付けて帰ってよ」
「きぃ!」
今まで一言も発することなく窓際に座り、本を読んでいた土端はタイマーの音が鳴るなり立ち上がって時計を指さした。河山は奇声をあげ文句を言うが、それ以上は何も言わず周りの取り巻きたちと一緒に片付け始めた。片岡はほっとしたようにカバンを持つと逃げるように走って帰った。
「大体、なんで今日はここにいらっしゃるの?いつもなら時間になったら言いにくるだけですのに」
「アンタに言う必要ないでしょ」
「きぃ!仮にも私は先輩ですのよ!アンタとはなによ!アンタとは!」
土端は周りが片付けているのを微塵も手伝うつもりもなく、再び椅子に座ると本を読んでいる。そこに河山が話しかけたが、突っ返されてまた喧嘩のようになっている。取り巻きたちはアワアワしているが当の土端は思いついたように本を閉じて河山に視線を向けた。
「なっ、なんですの?」
「センパイは風巻くんのこと好きなんですか?」
「は!?好きとかそんな、陳腐なものじゃありませんわ!崇拝しておりますのよ。あの方はどこか人とは違う、何か特別な力を持った神、そう、神よ!あなたもお分かりでしょう?」
「わかんない」
「きぃ!」
「わかんないけど、そこまで言うなら一つ、私の提案聞いてよ」
もう夏に近づいている夕方5時は、自然と会議室を紅く照らす。土端の紅い瞳が一層際立ち、不気味さに河山は息をのんだ。取り巻きたちもぴたりと動きを止め、皆土端に視線が向いた。
「風巻くんと一対一にならないように見張ったらどうかしら」
「と、言いますと?」
「さっきの女の子は一人で風巻くんに会ったんでしょ?あなたたちの言う崇拝すべき神である風巻くんが、これ以上私的な理由で誰かに汚されるのは嫌なんじゃないのかなって」
「・・・そう、ですわね」
「だったら、あなた達が今以上に風巻くんを守ってあげたらどうかしら」
ぴりりとした空気がやわらいだ。河山と取り巻きたちは会議室の端っこに集まってこそこそ相談をし始めた。しばらくして河山が土端の前に立つとビシッと指さした。
「魔女にしてはいい提案ですわ。いいでしょう。私たちはこれまで以上に悠馬様をお守り致しますわ。無論、あなたも一人でお会いにならないでくださるわね」
「あなたたちが頑張ればいいんじゃない?」
河山はまた奇声をあげそうになるが歯を食いしばり思いとどまる。土端はニヤリと嫌な笑みを浮かべると立ち上がり、河山と取り巻きたちが会議室を出るのを待って鍵を閉めその場を後にした。




