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ある新月の日に 

「す、すきです!」


学校祭の準備で終日授業のないとある日。2年5組は「かぐや姫」の演劇の準備のために追われていた。役者たちはそれぞれ演出や音響の人たちと稽古している。衣装担当は家庭科室に行き採寸に合わせてそれぞれの衣装を作っている。その他は舞台装置作りをしていた。照明係の風巻と土端も例外ではない。舞台の流れができない限り、照明プランを固めることは難しいからだという。

土端はいつもの通り言われたものを作るつもりはなく、ぼーっと外を眺めている。周りは文句がありながら関わるのが面倒くさくて放置している状態だ。風巻は他の皆と協力しながら大掛かりな舞台装置を作っていた。するとダンボールが足りなくなったことに気づいて、廃材のある部屋まで1人教室を後にした。


冒頭に戻る。

一階まで降りてゴミ集積場へ向かう途中、顔を真っ赤にした一年生が前に立ちはだかった。周りを見渡す限り、女子はたまたま1人でいたようだ。普段なら風巻に近づこうとする女は陰で排除されている。親衛隊たちの手によって。無論、風巻は気づいていない。

この女子も機を逃す訳にはいかないと覚悟を決める前に飛び出してしまい、素直な気持ちを吐露した。

風巻は目の前の出来事にきょとんとしたが視線をそらし、壁に寄りかかりうつむいた。


「あの、ごめんなさい。いきなり」


女は、風巻の性格を知らない。ただ遠くで見ていただけで関わりを持ったことなどないからだ。一見具合悪そうにも見えた風巻だったが、ふと顔を上げた。そして女を見るなり、獲物を見つけたと言わんばかりの嫌味な笑みを浮かべた。壁から離れると次には女を壁際に押しやり、手をつくと自分よりも小さなその女に話しかけた。


「それで?」


「え?」


「何して欲しい?」


「はひっ!えっ!は!な、なに、とその、・・・」


「言ったからにはなんかあんだろ?」


「あっ、えっと。付き合って・・・は、まだ駄目ですよね。うーん、と・・・」


女は間近にいる風巻に驚きと興奮から頭が真っ白になっていて何も考えられなくなっている。それでも折角の機会だからこそ何かをと必死に悩んで、小さくつぶやいた。


「・・・ぐ、を」


「ん?」


「ハグ、抱きしめてください。それだけでいいですから」


「・・・」


耳まで真っ赤になった顔を見られたくないと、女は自分の顔を隠した。我ながら馬鹿なお願い事だと思ったからだ。風巻はしばらく黙り込んでいたが、ゆっくり口を開いた。


「5年くれたらやってやるよ」


「5年、て?」


風巻の言動の意味がわからず今までの緊張とは違う疑問が女の中に生まれた。だがずっと憧れていた風巻の要求と、どこかミステリアスな雰囲気に心臓は高鳴るばかりだ。


「何でもいいです!やります!やってください!」


風巻の目が黄金に輝いたのを女は知らない。すかさず風巻は女子の腰に手を回し抱き寄せた。女子は大好きな男に抱きしめられたことなどなく、更に相手が風巻であることに興奮し、小さく震えた。優しく包まれふんわりと優しい香りに包まれ心地よさを覚えた。

だが、すぐに女は力が抜け、目を閉じ意識を失った。風巻は支えるでもなく手から零れ落ちる女を床に転がした。今まで抑え込んでいた欲を満たしたことで愉悦に自然と口端は上がる。すーっと瞳の色は普段の漆黒へ戻った。


「風巻くん・・・?」


突然背後から声をかけられた。風巻は驚きからびくっと震えたが、すぐに振り向いた。少し離れたところから窺うように成田が此方を見ている。風巻は今まであったことを隠すようにその場に膝をつき、今し方倒れた女を抱え上げ、保健室のある成田の方へ歩を進めた。


「倒れていたから保健室連れて行く」


「あっ、私も行くよ!」


成田はびしっと挙手し風巻の後ろをついていった。






「おせーよ!どこほっつき歩いてたんだよ、しかも2人でさぁ」


「悪い」


「だって女の子倒れてたんだから仕方ないじゃん!風巻くんが助けなかったらあそこで倒れたまんまだったんだよ!」


「あやしいなぁ」


「なによ!」


クラスメイトの男子に、やんややんや文句を言われようと風巻は苦笑いしながら謝り、成田は食ってかかりながら事実を告げた。クラスメイトたちは状況を聞くとそれ以上突っかかることはなかった。そして2人が持ってきた段ボールをもらい、製作に取り掛かった。


すると土端が風巻の元へやってきて怪訝そうに見つめる。


「なんだよ」


風巻はあからさまに不機嫌そうに土端に尋ねた。土端はその言葉に怯むことなくまっすぐ風巻を見据えながら尋ね返す。


「何してきたの」


「は?」


「皆には見えてないみたいだけど、あなたの周りすごく嫌な空気よ」


土端はそれだけ言うと深く掘り下げるつもりはないと、再び椅子に座り皆の作業を眺めている。風巻は何も言わず、席に戻った土端を見るがすぐに作業に取り掛かった。


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