あの日の温もりと side山本
進路は最初っから決まっていた。母さんの美容室を継ぐ。そのためには適当なレベルの高校に行って適当に専門学校出て、母さんの店を手伝えばいい。そう思っていた。今思えばナメている。母さんのことも、仕事も。
けれど、風巻に会ってから考え方が変わった。アイツはいつも苦しそうで楽しくなさそう。そのくせ引っ越してきて数日でイジメられた俺を何の見返りもなく助けちゃうようなお人よし。全く読めない男だ。
だけど俺は知ってる。風巻は誰よりも純粋で、優しくてかっこいい奴だってこと。
クラスが分かれてから話す回数は減っていた。1年2年は幸いなことに同じクラスだった。いや、2年は俺が狙ったところがある。身の丈に合わない進路をあえて書いて、風巻と一緒になれるようにした。風巻は俺がいなきゃ駄目だと思っているようだけれど、本当は俺が風巻から離れたくなかった。
唯一出来た俺の本当の友達だから。甘えていた。風巻に聞けば何でも分かったし、俺は素でいられた。部活のやつといるのも大好きだし、同級生と騒ぐのも大好きだ。偽りはない。ただ風巻の隣ほど落ち着くものはなかった。
帰りのHRが終わった後、俺は進路室に行っていた。進学校であるこの高校にはあまり専門学校の資料はない。地元の専門学校の資料ならかろうじてある。けれど俺が欲しいのはそこのじゃない。先生に頼んで取り寄せてもらった書類をもらうとドアの前で一礼して進路室を後にした。
「あ、山本くん」
「お?なんか久しぶりだな。徳原。元気だったか?」
変わらずカッコイイ徳原はクルクルの髪を手の甲で払うと俺を見て人懐っこい笑みを浮かべた。いつもは大体女の取り巻きに囲まれてるのに、珍しく今日は一人のようだ。カバンを肩にかけて帰ろうとしていたように見える。
俺は同じようににこにこ笑いながら徳原に近づいた。
「まあまあかな。山本くんは……」
「あぁ、俺は元気!あったりまえじゃん!」
「えーっと……そうじゃなくて、その大きな封筒は?」
「これ?先生に頼んで専門学校の資料取り寄せてもらってさ」
徳原は俺の封筒を見ながら「へえ」と簡単な返事だけをした。あまり関心がなさそうだ。
「徳原、今帰り?一緒に帰らねえ?」
「ん?あぁ……帰ろう、かな」
妙な反応をする徳原だけど俺は気にしないで徳原の肩をポンポンと叩くと生徒玄関へ歩いて行った。
特に話すことがなく、俺たちは玄関についた。すると聞きなれた声と姿を見つける。
「もうぅっ!そんなに冷たいなんて思わなかった!」
成田が誰かに怒鳴ってる。珍しいこともあるもんだなと眺めているとその先に見えた人影に俺は驚いた。風巻が居心地悪そうに成田と向かい合っている。更に不思議な光景に俺は固まっていると横にいた徳原は小さく笑った。
「ん?」
「あっ、いや。ごめん。成田さんがあんなに取り乱すのも初めてだけど、風巻くんがあんな目に合ってるの、初めて見るなって」
「まあ……そうだけど」
徳原が時々嫌な奴なのも知ってる。どうにも風巻と馬が合わないらしい。
俺は戸惑う風巻を見て居られなくて徳原をそっちのけで二人の元へ走っていった。
◇
風巻が走り去った後。成田がなんだか恥ずかしそうにしゃがみこんだのを見守っていると今までどこに行っていたか徳原がひょいと現れた。
「そうそう。山本くんの言う通り。成田さんのおかげで風巻くんも吹っ切れたみたいだし、よかったね」
「ととととと徳原くんまで聞いてたの!?ひぃぃ!……穴があったら入りたい」
自分の頭をポコポコ叩くと成田は自分のカバンを抱えて颯爽と走り去ってしまった。結局、俺と徳原二人きりになった。
俺はちらりと徳原に視線を向けた。また笑ってるのかな。そう思って見たら、予想とは違っていた。徳原はさっき風巻が走って言った方角をさみしそうに見つめている。
「……どうした?」
弱ってるって言い方もおかしいけど、弱っていそうな徳原に俺は恐る恐る声をかけてみた。するとはっと我に返った徳原はいつものように笑みを浮かべると首を横に振った。
「あ、ううん。風巻くん、大丈夫かなって」
「何言ってんだよ。今さっき成田のこと慰めたくせに心配なのか?」
「……心配?……、うーん」
徳原は何も話さなかった。ミステリアスと言えばそこまでだけど、俺からすると少しだけ気味が悪いと思った。風巻の無口とはわけが違う。徳原は靴を履き替えると「じゃあ、お先」と言ってさっさと帰ってしまった。
俺は暫くそこにいた。徳原の反応が妙に引っかかったからだ。
風巻を行かせてはいけなかったのかもしれない。この不安がただの不安で終わりますように。
100話です!最後に「side山本」を書いたのが昨年の5月、32話でした。そのあと全然なかったことに先日気づきました。ひえええ。下書きにはよく山本の話を書いていたので、いつもいる感じがしてたのですが、すみません!!!(スライディング土下座)
いよいよ、本当にいよいよクライマックスです。ここまで読んでくださってたツワモノの皆さま。本当にほんとうに大感謝ターキーです。
2月中旬にお話が終わる予定です。最後までぜひぜひよろしくお願い致します。




