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火刑戦旗を掲げよ!  作者: かすがまる
第7幕

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第123話 怪老は誘い、踊り、笑い、望む

「ふうん、サルマント伯は敢えて挑発に乗ったかな。武断的な彼らしいやり方だねぇ」


 カリサルミ・エテラマキ領境の最新報を受けて、アドルフ・マルヤランタ侯爵が楽しそうに頷いている。椅子に足を組み座る姿には芸術的な洗練があって優美だ。来年には齢八十にもなろうというのに矍鑠としたものである。


 そう思う己とて七十に近いと思い、アルヴォ・オタラは小さく吐息した。


 世界の理は平等だ。老いは間違いなく心身を捉えている。しかし同じ理でも社会の理となるとそれほどに寛容でもないものだ。時として人の老いることを許容しない。死ぬことをすら禁じる場合がある。


 さりとて北の怪老とも呼ばれる人物なれば、全てを優雅に楽しみきるものであろうか?


 そんなことを思うアルヴォの皺塗れの頬を、涼風がそっと撫でていった。この白色の部屋には随分と穏やかな風が通る。何気なく配置されただけのようにも見える調度品の数々にはどこか懐かしく清楚が薫り、古錆びた騎士の無骨をくすぐったくさせる。


 ここは旧パルヴィラ伯爵領領城であるところの、現テルヴァハル伯爵領領城の一室である。


 寂として停滞した空間だ。未だ新領主を迎えることなしに時は刻まれて、多くのものが過ぎ去りし時節の姿を今に残しているが、除けられ隠されたものもまた確かにあることをアルヴォは知っている。


 部屋の中央に寝台がない。窓際に茶会の用意が整っていない。


 ニコデムス・パルヴィラとウンタモ・アハマニエミが亡くなっていた現場なのだ、ここは。


「それで? オタラ卿。エテラマキ領軍はどれくらいの数、この地へ入り込んだのかな?」


 マルヤランタ侯が微笑んでいる。この特別視すべき一室を己の執務室と定めた老侯爵が、とても嬉しそうに語りかけてくる。


「初めに言っておくけれど、テルヴァハル領軍の総兵力は四千五百と少しというのが現状だ。その指揮権は私に委ねられている。旧パルヴィラ領軍というと如何にも軟弱に聞こえるけれど、うちの領軍から熟練士官を幾人か連れてきているからねぇ……それなりに戦えるんだな、これが」


 クスクスと笑う。虚仮威しではない。アルヴォの知る限りにおいてマルヤランタ領軍が弱将弱兵であるとの誹りを受けたことはない。


 侯爵領の位置からしてもわかる。あのウンタモ・アハマニエミを差し置いて東龍河の西岸を……帝国軍より王都を護るための位置を領地とした人物だ。軍事的名声ではクラウス・ユリハルシラに劣るとしても、それは決して軍事的無能であることを意味しない。


「思うに、ベック司教の王都訪問は素晴らしい目晦ましだった。勇者の北方遠騎行がああも快速をもって進んだのはその初速が素晴らしかったからだね。新町が薪となって燃えることはなかったけれど……あの男を倒すことができたのだから、一応は成功と言えるのかな?」


 眉を寄せ難しげな顔をしても、口元が緩んでいる。アルヴォ以上に皺の多い頬は艶めいていて、どこまでも血色がいい。


「まあ、成功なのだろうね。司教と勇者……随分と豪勢な神聖さだけれど……そのどちらをも目晦ましとして、卿はテルヴァハル領へと入り込んだのだから。あの混乱では塵夢森に近い辺りまで監視を厳にすることはできやしない。サルマント伯も行ったり来たりで忙しかったしねぇ」


 再びに笑う。面白くて堪らないと言う笑い方だ。


「どれくらいの兵が密かに領境を越え、大河を渡ったのかなぁ? どれくらいの内通者がそれを手引きしたのかなぁ? カリサルミ領には例の義勇軍とやらの残党もいるのかな? いればなおのことやりやすかったろうけれど……領都包囲戦であの男に殺し尽くされたのだっけかな?」


 再びに微風が通った。マルヤランタ侯は気持ちよさげに目を細めた。微笑みかけるようにして窓辺へと顔を向けて、アルヴォの方を見ずとも言葉を続ける。


「そういえば、再編されたカリサルミ領軍は随分と少なかったそうだよ。さりとて大人数が軍を解雇されたという事実はない。内乱の折に逃げ散ったということもあるだろうけれど……まぁ、どんなにか少なく見積もっても二千人以上は行方知れずだ。どこへ消えたんだろうねぇ……ふふふ、まったく……」


 淡い笑気を含む言葉尻が柔らかな風に吹かれ消えていく。色もなく室内に滲んでいったものがアルヴォを苦笑させた。


 そうか、この御方もまた……。


「三千でござる」


 アルヴォは断言することをもって己の誠実を表わした。


「某と共にテルヴァハル領に入ったエテラマキ領軍将兵は三千でござる。内訳は槍歩兵二個大隊二千、弓歩兵二個中隊五百、軽騎兵二個中隊五百。装備については矢はともかく馬が不足しておりまする」

「ふむ……隠密にとなると馬までは満足に運べなかったわけだね?」

「御意。しかし軽騎兵は精兵揃いでござる。元は黒夜片月の軍旗を掲げていた者どもでござれば」

「冷月か。なるほど、それは精兵だ」


 頷き合った。


 王国内乱を静観したマルヤランタ侯にしろ、当時後進の育成に回り前線を退いていたアルヴォにしろ、どちらも冷月の騎兵団の戦いぶりを直接に知るわけではない。実戦記録も二件しか報告されていない。


 しかしその軽騎兵集団が弓張原会戦以後の王国南部における最精鋭であったことは明らかだ。エテラマキ領において特別の待遇をもって編成されたそれは、カリサルミ領都包囲戦の折に過半を討たれるも軍として退くことには成功している。あの火撃の騎兵団と交戦して撤退し得たという意味でも評価は高い。


 調練を施した人物のことをアルヴォは思った。白い仮面で目元を隠した来歴不明の軍人は、その後に聖杯騎士団に所属する特別な騎士と知れた。名をギリー。その用兵は聖騎士に似合わぬ血肉の通った巧妙さをアルヴォに感じさせたものだ。


 語り合ってみたい……そうもアルヴォは思っていた。老いた騎士をしてそう思わせるだけの滋味のようなものを感じさせる男であった。武に生きる者としての親近感もあったかもしれない。


 仮面のギリーは今いずこにあるか。


 勇者は戦死し、勇者に側仕えた彼もまた行方知れずとなっている。


「しかし、そうなると五百は少ないね? 冷月は一千以上を残しているはずだけれど?」

「残る五百には別の任務がござる」

「ふむ。分けての運用ということかな?」

「御意。あの軽騎兵を大隊規模で指揮できる者がおりませぬゆえ……」


 少し躊躇い、すぐに続けた。


「エテラマキ領東部より北上する本隊五千の中に組み込んでござる」

「なるほどね。それも名采配というものかもしれない。西部の派手な武力衝突を目晦ましにしての王国中央突破……その本隊の方はエテラマキ家の彼が指揮するのかな? 最後のエテラマキ伯爵の叔父殿が」

「御意」

「軍才があるとは聞かないが、まあ、聖杯騎士団の後に続くぐらいはできるのかねぇ?」

「……聖騎士五千を率いるトピアス様が、領軍本隊五千も合わせて一万兵力の総指揮をされ申す」

「ふふ、領都に置いておくと何をするかわからないから、引っ張り出したというところなんだろうね。どこも大変だ。そこかしこにそういう輩はいるのだから」


 仄かに苦さが見えた。陽気な口調の裏に潜むものをアルヴォは嗅いだ。


「哀れなものさ。溺れる者は躍起になるし、恐れる者は思い詰める。常にない極端なことが幾らも起こって酔夢と現実とが入れ替わる。誰も彼もわかっちゃいないねぇ……非常に対抗するために己もまた非常になったのならば、それはもはや敗れているのだということを」


 傍らの書類籠から巻物を一つ取り、マルヤランタ侯はそれを指で弾いた。


「常の己を見失った者が抗し得るほどに、あの男は甘くない。甘くなかったと言うべきなのかな? 既存世界そのものを真っ向から否定する、非常の中の非常を常とするマルコ・ハハト……あの男ならば勇者を殺すこともやってのけると思っていたよ。むしろ倒れたことの方が驚きだ。狂とは凶、故に驚かつ恐さ」


 促されて巻物を受け取った。開いたならばそれは血判状である。王国貴族の名がずらりと並んでいて、それぞれの名前の末尾に血による押印が為されている。


「驚くべきものだろう? あの男の存在は圧倒的かつ衝撃的で、善きにつけ悪しきにつけ刺激的に過ぎたんだ。もとより親教会の貴族らは行禍原開拓計画の発表で動揺していたからね。そこへきて司教の軟禁、勇者の殺害……女王への反意へ至った人数はそれを数えれば知れる」


 アルヴォの知らぬ名前も多いが、目を引くものもまた散見される。やはりか南部貴族が七割方を占めているものの北部貴族も一割近くは存在していた。残る二割強は中央貴族だ。国軍関係者が多い。


「まあ、結局のところあの男が倒れたことが大きいのだね。彼を恐れて平身低頭していた面々が俄かに溌剌として血の印を押した。実際にこの地へ入った者は半数ほどだけれど……ふふ……王国の随所に中小規模の兵站があると思っていいよ」


 白んだ羊皮紙に黒く文字が連なり、転々と赤が散らばっていき……最後に一つの名が流麗に記されている。


 アドルフ・マルヤランタ。


 血印はまだない。


「諸卿が私兵として伴った兵力も一千と五百ほどいる。明言されてはいないけれど、大方はカリサルミ領軍で働いていた者たちさ。練度もいい。つまるところ、私の指揮する軍とは六千ほどになるわけだが……さて?」


 手に持つ一枚から顔を上げて見たならば、北の怪老と呼ばれる男が活き活きとして笑んでいる。アルヴォの言葉を待っている。


 膝を着き、手を胸に。アルヴォは臣下の礼をもってマルヤランタ侯に相対した。


「某の預かるエテラマキ領軍三千兵力、その指揮をお願い申し上げる」

「うん、いいよ」


 望み得る最良をここに成し、アルヴォは安堵を口中に食んだ。


 女王新治世に不満を持つ者がテルヴァハル伯爵領に集結しつつある……その情報は、晩春の頃からじわりじわりとエテラマキ領にも伝わってきていた。どんなにかサルマント領軍が目を光らせようとも情報封鎖などできはない。闇に乗じて険しきを越える手合いの全てを補殺できるものではない。


 しかし厳しい監視体制ではあったから、エテラマキ領以外の地に燻る火は同志を求めて南東へ流れたということだ。テルヴァハル領……新伯爵の血筋を思えばそれも道理である。


 テルヴァハル伯ビルギッタは先の王位継承権第一位エレオノーラの第二子で、当時は自身も第五位の継承権を有していた。しかも父親は教会との繋がり深い元聖騎士トピアスである。たとえ臣下の籍に降下しようともその事実は変わらない。


 アスリア王国のかつての姿を……マルコ・ハハトという男が台頭する以前の王国へと回帰することを欲するのならば、九歳のビルギッタは是非にも担ぐべき旗頭なのだ。


 いや、旗頭の内の一つと言うべきか。


 ほぼ同じ条件でより担ぐに相応しい人物がいる。ビルギッタの兄でありエテラマキ領にて守護される身であるところの、十三歳のクリスティアンだ。アルヴォが老いた身命を捧げると誓った主だ。


「さて、これで九千にはなった。卿らの人数分アハマニエミ領軍を上回った。勝てるね。新侯爵は父親に似て真っ直ぐな男だけれど少々と言わず物事を単純に捉え過ぎる嫌いがある。視野広き真っ直ぐと、視野狭き真っ直ぐ……似て見えるのは平穏の中だけのことさ。戦場では私のような敵に弄ばれることになる」


 また笑う。その笑い声はこの部屋によく似合う。柔らかな風に乗り、軽やかに宙を舞う。和やかに響く。爽やかに通る。まるで親しい者らが憩い談笑する茶会の席で聞くもののように。


 不思議な話だ。


 ここで会話されている内容とは謀反以外の何物でもないというのに。


「ところで、馬はどれだけ要るのかな?」

「二百と八でござる」

「お安い御用だ。他にも必要な物があるなら下で申告するといい。大盤振る舞いはできないが、まぁ、大概は揃うと思うよ。商家を通じてそれなりに融通しておいたからね」


 老侯爵の胸襟は開かれていて、言葉のいちいちがアルヴォの心を打っていた。ほだされたわけではない。言葉にはせずとも互いに通じ合うものがあって、それがじんわりと胸を温める。


 強い共感が生じているのだ。


 一介の騎士でしかないアルヴォと四侯六伯の一席を占める者とでは、来歴も権力も何もかもが違う。互いに老年期に入っているとはいえ歳も同世代ではない。能力も性格も似てはいないだろう。アルヴォは武芸一本槍でしかなく、政治経済や芸術といった方面にはまるで疎く非才だ。


 しかし、たった一つだけ共通するものがある。


 秘めたる望みだ。


 この白く清らかな一室において謀反を計画する老騎士と老侯爵とは、よく似た望みをそれぞれの胸に秘め、己の身命の使いどころを探っているのだ。アルヴォはそう確信している。空気に滲んでいて、皮膚で感ずるところのものがそれと教えている。


 老い先を見極めた者の心を奮わせる、潤いとも張り合いとも言えるもの。少々幼稚で、どこか微酔のようでいて、乾き解けつつあった己に躍動と活力を与えてくれるもの。


 そのものに手で触れたなら、きっと奇跡のように温かでふくよかで瑞々しいに違いない。


 そのものを目で眺めたなら、きっと奇跡のように美しく華やかで愛おしいに違いない。


 ああ……幸せなる笑顔の花よ、在れ。


「クリスティアン殿下は壮健でいらっしゃるかい?」

「それが為に……殿下の御為に働き申し上げることこそ、只今の某の全てでござる」

「ふふ……君も真っ直ぐな男だね」


 マルヤランタ侯が微笑んでいる。怪老とは誰のことかと思わせるほどの柔和が眦に認められる。


「その道の先にあるだろう別れについてはどうだい? その書状を見ればわかる通り、同志の中に近衛兵団歩兵隊長の名はない。まぁ、名があるのとないのとでどちらが安全なのかは知れたものではないけれど……覚悟はあるのかな?」

「……子が自ら立ち己の道を歩むその日までは、親の親たる義務もありましょう。命を受け継いでいく者の責任がありましょう。されど信念を持つに至った者をも子として侮るは傲慢であり無礼であると存じ申す。ましてや武の生き様を誓いて姓を得た身の上、どうして今更に刃を鈍らせましょうや」

「そうだねぇ……いや、本当にその通りだ。私もそのつもりだよ」


 共通する苦さがあった。共有する戦いがあった。


 アルヴォはマルヤランタ侯だった。マルヤランタ侯はアルヴォだった。鏡を見るような思いで、アルヴォは白い部屋の穏やかさを呼吸している。


「世界は理不尽で満ち満ちている。それが当たり前なんだ。だから、それに文句を言うのはいかにも幼稚で見苦しいのだけれど……親の無責任で不幸になる子は、どうしたって憐れだからね。気付いてしまうと見過ごしにはできなくなる。そこに老いたる命を用いるというのは、ま、何とも言えず心を奮わせるしね」


 苦笑は二つ生じた。あちらとこちら、きっと同じ表情をしているに違いないとアルヴォは思った。


「テルヴァハル女伯爵閣下は、ご壮健でいらっしゃいまするか?」

「元気さ。長く退屈はしているけれど、それもあと少しの我慢だ。あの子はとても聡明だからね。時が来れば立派な統治者になる。あるいは公爵にもなるんじゃないかな」

「先の王妃殿下に良く似ておいでだとか」

「そうなんだ。きっと美しく成長するのだろうねぇ……それはもう、誰よりも美しく……」


 どちらからともなく、風の入る窓へと視線を放っていた。四角く枠取られた世界には光が満ちていて、ともすれば全てが透明にも感じられる。よく晴れた夏の昼下がりである。


「ああ、血印は押さないよ。事敗れた際に色々と差し障るからねぇ」




 行禍原開拓計画、龍将軍魔人疑惑、東方司教軟禁……そして勇者殺害。


 どれ一つをとっても神をも畏れぬ行為であり、王たる者とその周囲は魔に魅入られているとしか思えぬ。護国と神聖回復を目的とし、ここに正義の軍をば起こして王都を目指すものなり。


 かかる宣言をもって、テルヴァハル領より六千の軍が北上を開始した。伯爵不在の隙をついての決起である。自らを護国連盟と名乗るその軍の盟主は、姿こそ見せないものの、王国の誰もが知る人物であったがために王国全土を震撼させた。


 盟主の名は、アドルフ・マルヤランタ。


 後に「アドルフの乱」と呼ばれるこの一大事件は、勃発早々にしてアハマニエミ領軍との戦闘を記録する。両軍は東龍河南方支流を挟んで南北に対峙し、初めこそ同数による膠着を見せたものの、護国連盟軍の隠し兵力たる別働隊三千が夜陰に乗じて奇襲をかけたことで呆気なく勝敗を決した。


 溺死者を出しても闇夜の支流を渡り、猛然としてアハマニエミ領軍を襲った別働隊……その指揮を執っていた者の名をアルヴォ・オタラという。エテラマキ伯爵に忠誠を誓った騎士であり、老いを感じさせない豪剣を振るって遅咲きに過ぎる武名を得た。


 時を同じくして、カリサルミ領東部においても戦闘が行われた。野戦陣地を築き駐屯していたサルマント領軍五千をば、突如として聖杯騎士団およびエテラマキ領軍が襲ったのだ。倍する一万兵力で為された急襲の決着は早かった。大陸無双を謳われる聖杯騎士団が抜群の強さを発揮したからである。


 聖騎士五千を率いていた者の名もまた王国を震わせた。行方不明の王姉エレオノーラの夫であり、女王パウリーナにとっては義兄でもある男……先代勇者と同じ名の元聖騎士、トピアスである。彼が再び聖杯騎士団に復帰し、王国へと剣を向けたのだ。その傍らに神の御旗がひるがえる。


 東龍河東岸、アハマニエミ領からは護国連盟軍八千余りが。


 東龍河西岸、カリサルミ領からは聖杯騎士団四千九百余りおよびエテラマキ領軍四千一百余りが。


 それぞれに北上する。軍靴と馬蹄が王国の地を刻む。


 先んじてはカリサルミ・エテラマキ間の西領境でもサルマント伯爵レオ率いる領軍五千と聖杯騎士団五千とが要害の地を巡り激突している。


 半年だ。


 三年の内乱を終え、新王が即位してから僅かに半年。


 アスリア王国は再びに乱れた。流星の延焼と比喩した者もいる。一瞬の輝きをもって駆け抜けた勇者を追うようにして、南から戦火が広がり始めたからである。


 国が焼け焦げていく。


 英雄の気配が感じられない、その不安なるままに。

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