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Us『My Story and Our Story』  作者: Oritora


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1/3

プロローグ

ピッ……

……ヴンッ

暗闇の中、小さな赤い点滅が見える。

『Biological signs confirmed inside the cockpit.』

(コックピット内ニ生体反応確認。)

『……Start scanning.』

(スキャン開始。)

狭い空間に小さな電子音と抑揚のない女性の機械音声が流れた。

あたしはそれを聞きながら、4点式のシートベルトを一つひとつ確認して付けていく。

ヴンッ……

『Pilot Emma Hardin confirmed.』

(操縦者エマ・ハーディン確認。)

『Good morning, Emma Hardin.』

(オハヨウゴザイマス、エマ・ハーディン。)

「おはよう、マギ」

目の前に並ぶ制御盤のスイッチを一つひとつ入れながら、ゴーレムの制御AIに答える。

『Main screen online. All communication lines connected.』

(メインスクリーン起動。全通信回線接続。)

目の前の180°スクリーンに艦内格納庫の景色が鮮明に映し出された。

「…から中央の連中はアホなのかって話だよ」

メインモニターに、コックピットにいるアリヤの姿が小さく映るのと同時に、ヘルメット内のスピーカーから彼女の声が流れてくる。

「小隊を一個大隊にぶつけるか普通?」

『Magic circuit synchronization begins. Synchronization rate: 30%…』

(魔力回路同調開始。同調率30%……)

「なぁに?もしかしてアリヤ、ビビっちゃってる感じ?」

アリヤの隣にサオリの画面が並ぶ。

メインモニターには、正面の壁にある小さな窓越しに、無精ひげのレオさんが人差し指を立ててクルクルと回しているのが見える。

「はぁ?!誰がビビってんだよ!!」

『Synchronization rate: 40%…50%…』

(同調率40%……50%……)

「いいよいいよ。怖いならわたしが全部貰ってあげるからさ。アリヤは部屋で飴ちゃんでも舐めてな」

茶化すようなサオリの声。

「オマエふざけんなっ!!こんなオイシイ撃墜数稼ぎ……、っておいっ!!サオリ!!抜け駆けすんなよっ!!」

サオリの乗る人型ロボットG-05ノッカーの両足が、カタパルトに固定される。

「早い者勝ちだよ〜ん」

天井に付いた警告灯が赤い光をクルクルと回し、格納庫内に警告音が鳴り響く。

「サオリ、出ま〜す」

轟音と共にサオリの乗った機体が後ろ向きで目の前を一瞬で通り過ぎた。

「くっそ!!レオ姉、早くカタパルト戻してくれよ!!」

「やってるわよ小娘!!」

サオリの小さな画面があった場所に、レオさんの顔が映る。

『…60%…70%. Minimum synchronization threshold exceeded.』

(……60%……70%。 最低同調閾値突破。)

「それよりアンタ達分かってるわね?いつも言ってるけど、ヤバくなったら機体なんてさっさと捨てるのよ!人間は替えがきかないんだから!!」

「分かってるよ!アリヤ、出るぞ!!」

サオリの時と同じく、アリヤの機体が目の前を一瞬で通り過ぎる。

「あっ、エマの機体はダメっスよ。」

レオさんの横にリヤの顔が並ぶ。

『Synchronization maintained: …80%』

(同調継続……80%)

「他の機体はどうでもいいっスけど、エマの機体は昨日反射速度をMAXまで上げてるっス。データ欲しいんで、壊さないで持って帰って欲しいっス」

「アンタのそういうとこだと思うわよ……」

ちょっと呆れたようなレオさんの声が聞こえる。

「何がっスか?」

『…90%…100%. Critical synchronization level reached. All functions released at maximum output.』

(……90%……100%。同調率臨界値到達。全機能最大出力ニテ解放。)

「エマ、カタパルト準備いいよ」

落ち着いた大人の女性の声と共に、リヤの横にイェンさんの小さな顔が映し出された。

『All systems functioning properly. Ready for deployment.』

(全システム正常。出撃可能。)

メインモニターにブリッジのオペレーター席に座るベルが大きく映し出された。

「エマ、こちらで全システムの正常を確認しました。出撃してください」

「了解」

あたしの返事と共にベルの姿がメインスクリーンから消える。

「マギ、行くよ」

『Roger that. Unit 09003 activating.』

(了解。機体番号09003起動。)

右足のペダルをゆっくりと踏み込むと、機体はゆっくりと二本の足で歩き出した。

機体を片足ずつカタパルト上に乗せ、射出態勢に入る。

赤い光の警告灯が回り、再び警告音が鳴り響く。

あたしは小さく息を吐くと、両サイドのレバーを握る手に力を込めた。

「エマ、出ます!!」

両足のペダルを同時に深く踏み込んだ瞬間、背中に急激な負荷がかかる。

そしてあっという間に機体はコルベット艦の外に射出された。

急速に近づいてくる地面。

着地の瞬間、軽い振動がコックピットを揺らした。

あたしは再度両足のペダルを深く踏み込む。

足の裏に付いたローラーが高速で回転し、機体はあたしの思う通りにバランスを取りながら地面の上を滑る。

「各員に告ぐ!!」

凛とした女性の声がヘルメットの中に響く。

「これより我々は作戦通り、敵大隊に対し左舷からの急襲作戦を行う」

レオナ艦長の声だ。

「今回の目的は一撃離脱の囮が任務だが、私達らしく派手にやるぞ!!」

レオナ艦長は一旦言葉を切ると、数秒の間を置き力強く言い放った。

「第9小隊、出撃!!」

『了解!!』

その号令に全員の声が重なった。

メインスクリーンの奥に、砂煙が帯になって連なっているのが映っている。

大きな戦いが、これから始まる。


Episode. 1

夏の匂いがする。

湿気を孕んだ風が首元を通り過ぎる時、湿ったアスファルトと潮の香りが鼻先をすり抜けて行く。

素足の裏には、真夏の太陽に照らされたウッドデッキの熱が伝わってくる。

それでも、少女はその光景から目が離せなかった。

真っ青なコバルトブルーの空に浮かぶ、天高く伸びる真っ白な入道雲。

「あの向こうには、何があるんだろう……」

吸い込まれそうなその光景を見ながら、少女は小さく呟いた。


「痛ッたーーーーーいっ!!!!!」

硬い石の壁にガッツリ打ちつけたお尻がめっちゃ痛い!!!!!

あたしはその痛みに耐えながら片目を開けた。

壁に激突した時に手放したサイレンサー付きのサブライフルが床に転がっている。

その向こうに大きな亀裂の入った壁。

そこに人が通れるくらいの穴が、頭に付けたライトに照らされ逆さまに見えている。

「痛ったぁ〜……。ちょっとぉ〜、勘弁してよぉ〜……」

体をゆっくりと起こし、座ったままリュックを下ろす。

「はぁ〜〜〜……」

思わずため息を吐きながらもう一度壁の穴を見る。

どのくらい滑り落ちたのか分からない。

でも結構な距離だったとは思う。

あたしは四つん這いでその穴に近づき、その奥を覗き込んだ。

急斜面がかなり奥の方まで続き、その先は暗闇で何も見えない。

「あ〜ぁ……」

通い慣れたいつものダンジョン。

先週来た時には無かった壁の亀裂を見つけ、何だろうと覗き込んだら足下が崩壊。

そのままその穴に滑り落ち、いまここ……。

「……失敗した」

あたしは四つん這いのままうなだれた。

ホント、覗き込んだりしなきゃよかった……。

「でもまぁ、垂直に落ちて死ななかっただけラッキーかぁ……」

ゆっくりと立ち上がって床に置いたリュックまで戻る。

そしてその場にあぐらをかいて座り、あたしはリュックの中身を確認した。

中身と言っても5〜6時間くらいで帰る予定だったから、入っているのは水筒とお弁当のサンドイッチ、あとはサブライフルと腰に付けた拳銃の予備弾が少々……。

それ以外は連絡用の携帯端末と大きめのハンドタオル、あと応急処置セットと魔石を入れた小さな革袋くらい。

まぁ、とりあえず水筒もサンドイッチも無事だったから、さっさと上の階に上がってお家帰ろう。

その前に、一応採掘者ギルドに連絡しとこっかと思い、あたしは携帯端末を取り出して画面を確認した。

ん?……アンテナ立ってない?

一回スイッチを切ってもう一度つけ直す。

再度確認してもやっぱり圏外。

「マジかぁ〜……」

あたしはため息混じりに呟いた。

「はぁ〜……。いつもはこんな深いとこまで潜らないもんなぁ〜」

だいたい普段は2階から3階をフラフラしてすぐ帰るくらいだ。

滑り落ちた感覚から、多分ここは7階から8階くらいかな?とは思うけど、端末の電波が届かないような深い階層なんてきたことないから何とも言えない。

あたしはリュックを背負い、サブライフルのマガジンを確認して左右を見渡した。

頭に付けたライトが壊れてなくて助かった。

照らされた通路は普段目にする階層とは明らかに違っている。

白亜の大理石、等間隔に精密な人間の彫刻や豪華な文様のレリーフが並び、天井や床も含めて一つの巨大な大理石をくり抜いて作ったようだ。

近づいて観察してみても継ぎ目が分からないし、人間の彫刻なんてマジで本物の人間が大理石から生えてるように見える。

正直ちょっとキモい……。

あたしは左右に伸びる通路を見比べて左側に進むことにした。

なぜ左側かというと、理由は勘!!

来たことない階層だし、当然地図なんて持ってない。

まぁ、考えてもしかたないから、取り敢えず先に進むことにする。

あたしはロックを外したサブライフルを構えてゆっくりと歩き出した。

以前、採掘者ギルドでダンジョンは下に行けば行くほど造りが豪華になるって聞いたけど、こんな小さなダンジョンでもそうなんだぁと思った。

だって、目の前にある通路は『出来上がったばかり』のように、劣化の痕跡がなくて綺麗……。

「でも本当に凄いなぁ、これ……」

上の階層は雑な石組みの床と壁で、こんなレリーフなんて見たことがない。

「なんか……。4、5階深く降りただけで見た目こんなに違うんだね……」

あたしはグローブを外し、その表面を指でなぞった。

ヒンヤリとしたスベスベの質感が指先に伝わってくる。

何かこれ、お金持ちの家にありそう……。

あたしはグローブを付け直し、さらに奥へと足を進めた。

当たり前だけど周囲は静まり返っている。

ライトを頼りに慎重に歩いて行くと、しばらく先の暗闇の中でゆらりと動く影が見えた。

……いた?!

あたしはその場で立ち止まり、片膝を突いてサブライフルを構える。

ズルッ……。

ズルッ……。

何かを引きずるような音がゆっくりと近づいて来る。

ズルッ……。

ズルッ……。

いつもの浅い階ならこの武器一発で余裕だけど、この階の『モドキ』にはどうかな……。

ズルッ……。

ズッ……。

それはあたしの40メートルほど先で立ち止まった。

ライトに照らされた相手をチラリと確認する。

うん!人じゃない!!

その影に向かってあたしは迷わず引き金を引いた。

パスッ

パスッ

パスッ

「キシャャャッ!!!!!」

続けざまに三発、胸とお腹と肩に銃弾を撃ち込む。

でも相手は奇声を上げ止まる気配はない。

「チッ!」

あたしは思わず舌打ちした。

距離約30メートル。

パスッ

パスッ

パスッ

今度は反対側の胸を狙って三発。

それでもそれは止まる気配がなかった。

「ウソでしょっ?!」

それどころか猛然と駆け寄って来る。

距離約20メートル。

相手の顔がハッキリと見える。

パスッ

パスッ

あたしはその頭に向けて引き金を引いた。

弾丸は二発とも命中し、その瞬間、そいつは上半身を後ろに反らせて宙を舞った。

その体は勢いよく床に倒れ、ズルズルと音を立て目の前で止まった。

あたしは素早く立ち上がり、それに向かって銃口を向ける。

赤銅色の肌にびっしりと鱗が生え、両手と両足の指先には黒く大きな鉤爪がある。

そして人間より大きなトカゲの頭は紫色の長い舌を口元から垂らしていた。

『リザードマン』と呼ばれるモドキの一種だ。

浅い階層にいる『ゴブリン』よりはちょっと強い程度のモドキで、あたしも2階や3階辺りで狩ることがある。

でも……。

このリザードマンはあたしが知ってるそれとはかなり違っていた。

まず大きさが違う。

あたしが見かけるのはせいぜい1メートル40センチから50センチくらい。

でもこれは2メートルはある……。

そして肌の色。

浅い階層にいるのは緑色かちょっとエメラルドっぽい色をしてるけど、目の前のコイツは深い赤銅色をしている。

「なに、これ……?」

あたしはサブライフルの銃口を下ろし、まじまじとその身体を観察した。

突然変異みたいなヤツ……?

「てか、そんなことあるの?」

リザードマンを見ながら、思わず呟きがもれた。

ダンジョンに出て来るモンスターで突然変異なんて……。

あたしが考えてるうちにモンスターの身体が崩れ始めた。

頭や胸、お腹に開いた銃痕から、水に浸けたクッキーみたいにボロボロと四散していく。

……いつも通りだ。

あたしはその様子を最後まで観察した。

それは特にいつもと変わらない光景だった。

ダンジョンのモンスターは銃で撃ってもナイフで刺しても、出血したり内臓が飛び出たりしない。

てかそういう物が無い。

そして倒した後は、こうして霧散する。

その場に魔石を残して……。

あたしはモンスターが倒れていた場所に残った魔石を見て思わず呟いた。

「……大きい?!」

それは今まで見たことがない大きさだった。

いつものゴブリンやリザードマンがドロップする魔石はほんの小石程度の大きさだけど、目の前のそれは子供の拳くらいある。

あたしはそれを拾い上げてライトにかざす。

……色も濃い。

普段見慣れた魔石は赤いガラス玉みたいな色だけど、これは深紅のルビーのようだ。

こんなの見たことない……。

あたしはそれをリュックに仕舞い、サブライフルのマガジンに弾丸を補充する。

とにかくまず上に上がろう。

あたしは支度を整えてサブライフルを構える。

何にせよ、今回は一匹だったから何とかなったけど、これが複数だったらヤバい……。

あたしは通路の先を見据えてゆっくりと歩き出した。

早くここを出ないと……。

左側に向かって緩やかなカーブになった一本道を進みながら、あたしはいつもとは違う緊張を感じていた。

To be continued


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