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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第5章

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第150話 一枚岩になりきれない教会

 両腕に填めた手錠の間の鎖を引っ張る事で、アルスを引き連れていくビネガー。先ほど訪れた邸宅が貴族街に建てられた住居であるとはいえ、教会へと赴く道程。その途中に、誰ともすれ違う事もないという事は有り得ない。


 確かに、市街地と比べれば住んで居る人口が少なくなる分、人通りは少なくなる。だが、深夜遅い時間でもない限り、人通りが全くないという事は有り得ない話であった。


 アルミラ教の証とも言える白い法衣。それが、見る影もないほど砂埃で、その白さを失っている。しかも、その手の先には手錠を填められた少年が、半ば引きずられるような形で従わされていた。


 その姿を目にした王国民は、我関せずと進んで道を開ける。そして、二人が目の前を通り過ぎたのを確認するや否や、ひそひそと言葉を交わす。


「あの少年は何をやったんだ?」


「鎖で繋がれて可哀そう……。あんなにも可愛らしいお子さんなのに……」


「見てよ。あの法衣……。あんなに汚れちゃって。あの子供がやったのかしら? それで、手錠を填められてる?」


 そんなひそひそとした噂話が、そこかしこで華を咲かせる。


 アルスも自分が好奇の目に(さら)されているという事は自覚していた。それが判るだけに、引っ張られる腕の間に頭を潜り込ませる事で、なるべく顔を見られる事がないよう歩く。アルスの視界の先に映るのは、一歩一歩交互に踏み出す自身の足と、物言わぬ地面のみであった。




 そんな好奇の目に晒されながらも、ようやく二人が王都内に建立(こんりゅう)されているアルミラ教会へと辿り着く。


 アルミラ教会の裏手には関係者専用の出入り口があるが、ビネガーは正面の大扉を開け、教会内へと入っていく。まず、左右に設置されたベンチが視界に飛び込む。一列ずつ順に視線を前へと進めていくが、視界の先に人影が映る事は無かった。最近にしては珍しく、ちょうど人が途切れたタイミングであったらしい。


 丁度いいとばかりに、中央に敷かれたレッドカーペットに歩を進めるビネガー。訪れる人を待つ役目を担っている修道女(シスター)オリーブが、ビネガーの姿を確認するや、祭壇からの階段を数段降りると、小走りに駆け寄り、ビネガーへと声を掛けた。


「ビネガー枢機卿(すうききょう)。お疲れ様です。どうなさったのですか、その法衣は……」


 と、嫌でも目に飛び込む法衣の土埃の件に触れるオリーブ。


「ああ、これか……。これは、この小僧の母親がいきなり襲い掛かってきおってな。恥ずかしながら避ける事すら叶わなんだ。だが、そうまでして母親が我に手を上げたという事実。やはり、この小僧には、そちが指摘した通り、何かしらの秘密がある事が濃厚かもしれん」


 ビネガーのその言葉を聞き、アルスが下唇を噛みしめる。


 やはり、あの水晶玉の色に疑問を持たれていたという事が、白日の下に晒された。であるならば、これから先、白を切り通す事しかアルスに選択の道はない。


 自分を必死に守ろうとしてくれていた、母マーレ。マーレと再会を果たす為には、アルスの精霊師としての登録に、問題がなかったという事にしなければならないだろう。


 運が良ければ、明日にでも嫌疑が晴れ、解放されるかもしれない。淡い期待かもしれないが、アルスが目指すべき先は、まずはそこであった。



 ビネガーから話が上がった事で、視線をアルスへと向けるオリーブ。視界に収める少年の姿は、オリーブがビネガーに指摘したアルス少年に間違いなかった。


 その少年の腕には、魔封石で出来た手錠が両腕に嵌っている。これに関しては、抵抗にあいすんなりと教会へと連れて来るには至らなかったのだという事が、その場に居なかったオリーブからも容易に想像が付く。


 教会からの呼びかけで再度教会へと赴いて貰う必要から、王都内の最高責任者たるビネガーが足を運んだ訳ではあるが、もしこの役目がオリーブだった場合、違った結果を齎したであろう事は確実だった。


 メイドを担うニッキから司教と呼ばれた事が発端となり、ビネガーは怒りを露わにした訳であるが、これがオリーブだった場合、ニッキからの呼称は、修道女(シスター)に相違なかったはずである。


 というのも、教会内に席を置く女性。それは、全て修道女(シスター)しか居ない為である。しかも、修道女(シスター)の法衣は貴族に仕えるメイド服にも似通っている為、もしかしたら、マーレが挑み掛かるという一件も発生しなかったかもしれない。


 ただ、それをここで論じても詮無き事だった。





修道女(シスター)、水晶玉を借りるぞ。小僧、歩け!」


 オリーブの横を通り過ぎると数段の階段を昇り、祭壇上の水晶玉の前へとアルスを(いざな)うビネガー。そして、アルスを水晶玉の前へと立たせると、再び声を掛ける。


「小僧、水晶玉に触れろ」


 だが、ビネガーの声に反し、アルスがなかなか水晶玉に触れようとすらしない。その姿に業を煮やしたビネガーが、アルスの足を蹴りつける。


 途端に膝から崩れ落ち、四つん這いの姿勢を()いられるアルス。


「小僧! 我は、水晶玉に触れろと命じたはずだ! さっさと立って、水晶玉に触れろ!」


「ビネガー枢機卿、お止めください! 相手は、まだ幼き少年です。むやみやたらに手をお上げになるのは倫理面に反します。それに、こちらのアルス少年の手には、未だ魔封石の手錠を掛けたままです。魔封石を填めた状態で水晶玉に触れたとして、結果は変わらないものなのでしょうか?」


(魔封石?)


 アルスは、(しいた)げられている状態ながらも、二人の会話に耳を澄ます。今は何が自分にとって有利な展開へと持ち込めるのかすら判らない。ゆえに、得られる情報は逃すことが無いよう努めていた。


「それならば問題あるまい。魔封石は、精霊とのやり取りの力を封じ込めるもの。そして、水晶玉は触った人間の魔力の資質を映す鏡だ。そこに精霊の力は関係ない。小僧、早く立て! 修道女(シスター)は我を(いさ)める言葉を口にしたが、そんな事で我は止まらぬ。これ以上、蹴られたくなくば、早く立って水晶玉へと触れるのだ!」


(精霊の力を封じ込める? つまりは、幼精さんの力を封じ込めるって事だよね? そういえば、確かに妖精さんの声が聴こえない……。それって、この手錠のせいって事!?)


 教会へと至る道中、手錠を填められた自分の姿が世間に晒されていた事で、他の事に考えが及んで居なかった事もあり、気付いていなかったが、今現在、幼精の声を聴く事が出来ない事実に気付くアルス。それは、同時に精霊術自体も封じられたという事を意味していた。


 思案に(ふけ)っているがゆえ、なかなか行動を起こそうとしないアルスの姿に、再びビネガーが業を煮やすと、言葉を発するより先に、アルスを蹴りつけるビネガー。


 もう既に四つん這いの姿勢であったアルスは、蹴られた事で祭壇の上の床を転がる。


 その姿を見るや、オリーブが両手を広げ、アルスとビネガーの間に割って入った。


修道女(シスター)、その姿は何の真似だ?」


「ビネガー枢機卿、お止め下さい。相手は、まだ子供です!」


修道女(シスター)、退けい!!!」


「いいえ! 退きません!!!」


 ビネガーの視線とオリーブの視線が交差する……。そして、先に目を逸らしたのはオリーブだった。


「あなたも早く立って! ここまで来たら、あなたには水晶玉に触れる以外道はないの……。私の言葉が理解できるのなら、立って水晶玉へと触れて頂戴!」


 オリーブもビネガー同様、アルスに水晶玉へと触れる事を(うなが)す。


 ここで、アルスが水晶玉へと触れなければ、アルスへと向いていた怒りは矛先を変え、両手を広げ自分を守るように仁王立ちする目の前のお姉さんへと、その矛先が変わるかもしれない。


 きっと、ビネガーと呼ばれた男は、お姉さんに手を上げる事も(いと)わないだろう。そして、どんな手を使ってでも最終的に水晶玉へと触れさそうとするはずだとアルスは悟る。




 そして、遂にアルスは観念した……。




「お姉さん、ありがとう」


 アルスは、そう口にすると、オリーブの陰からゆっくりと身体を起こす。


 オリーブは、アルスが立ち上がった雰囲気を察すると、ビネガーの視線を塞いでいた場所から離れ、ビネガーの視界を確保する。


 そして、アルスが水晶玉へと触れる……。


 アルスが触れた途端、光を放つ水晶玉。


「何だ? この光は!? これが、これが、火の精霊師だと?」


 こんな光を放つ精霊師が火の精霊師であろうはずがない。この現象自体は初めて目にするビネガーであったが、それだけは絶対ない! と、確信めいた物を感じ取る。


(この未知の光……。この未知の力……。これを、我が物と出来れば、離れてしまった王国民の心を、再び教会へと向けさせる事が出来るやもしれぬ!)


「あーはっはっはっ! 修道女(シスター)よ。これは、とんだ掘り出し物だ!」


「!? ビネガー枢機卿、この光の意味が判るのですか?」


「いや、それは我にも判らぬ……。ゆえに、これからじっくり調べる必要がある。修道女(シスター)、我の執務室には地下の牢獄へと繋がる隠し扉がある」


 ビネガーが王都へと赴任してより、一年半との期間ではあったが、牢獄へと繋がる隠し扉の存在を見つけ出していた。


 その扉の存在があるからこその、枢機卿に割り当てられた執務室の広さという事になる。


 隠し扉の下の牢獄。それは、アルミラ教が異教徒の断罪に使っていたとされる牢獄であった。


「隠し扉……ですか!?」


 もちろん、ただの修道女(シスター)であるオリーブは、隠し扉の存在など耳にした事すらなかった。


「ああ。この小僧は、その牢獄へとぶち込む事となる。小僧……、そしてお前はこれから長い投獄生活を送る羽目になる」


 ビネガーの言葉に、アルスが即座に反発する。


「嫌だ! 僕は、火の精霊師だ! それ以外の、何者でもない!!!」


 アルスの言葉に、ビネガーが嘲笑(ちょうしょう)を浮かべる。


「馬鹿を申せ! それだけのはずがあろうはずもない。まあ、これからじっくり調べてやる。お前はまだ若い。時間はいくらでもあるからな。修道女(シスター)、この小僧を牢屋へとぶち込む! そして小僧の世話係、それは修道女(シスター)お前だ」


「わ、私がですか?」


「ああ、当然だろう? なんせ、この小僧が怪しいと我に告げて来たのは、修道女(シスター)、そなたではないか。ゆえに、この事は我とそなた、二人だけの秘密だ」


 と、ビネガーがオリーブに対しても、悪魔のような笑みを浮かべる。


 その不吉な笑みに、背筋に寒気が走るオリーブ。






 こうして、アルスは教会内の地下牢へと閉じ込められる事が確定する。


 そして、それは明日マーレ達が教会を訪れたとしても、アルスの引き渡しなど行わない。という事を意味しているのだった。

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