表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/413

第148話 形勢逆転

「こりゃあ、とんでもない事になりつつある……。よもや、ゼストさんが不在のこの時に、まさか教会とのいざこざへと発展してしまうとは……。」


 この家の家長であるゼスト。当人は既に先日から約束事として内定していた王都内勤務の弓兵として、毎日職務をこなす為、日中は家を留守にしている。


 家長であるゼストが不在であるとはいえ、日中でもマーレ、グロック、ニッキと三人もの大人が留守を任されている。逆に言うとゼストの信頼を勝ち取っているからこそ、初出勤で共に兵舎へと向かった際には、『家の事は何も心配していない』という言葉が、ゼストの口から出たのである。


(わしも家を任されている身でありながら、何たる不始末……)


 と、グロックは今日の自分自身のあまりの浅慮ぶりに、握り拳を作り、ワナワナと震える。


 とはいえ、ここまでの所、冷徹な感情を剝き出しにしたマーレが事を有利に運んでいた。


 マーレは、風魔法『突風』を、移動時や回避時など上手く利用する事で、ビネガーからはマーレの姿を捕らえにくくする働きを(もたら)す。それゆえ、直接的なダメージをほぼほぼ喰らわず、やり過ごしていた。


 だが、平常心を失ったマーレが、今の庭の惨状に気付いているとは到底思えない。購入した当初の荒れ放題だった草を刈り、新たに植えられた春の花々。元々の目的としては、アルスの進学とゼストの新たな職場への祝いの意味も込めていたのであろう。


 それが今や、時には踏み抜かれ、時には魔法で穿たれ、昨日までの綺麗な光景は見るも無残な姿へと様変わりしてしまっている。


 マーレに加担し、共に枢機卿たるビネガーを追い返すべく協力する案も一旦は頭をよぎるが、そんな事をしても根本的な解決にはならない。そもそも、ゼスト一家がこの場に居を構え続ける以上、今日追い返せたとしても、枢機卿であるビネガーとしては、また日を改め人を増援した上で訪れれば良いだけの話になってしまう。それを阻止する為には、また辺境地へと移住し隠れ住むより他ないだろう。


 それでは、元の木阿弥だと、このバトルを止めさせる事を選択するグロック。


(アルスが関わっている以上、息子の身を案じる母として、マーレさんが我を忘れてしまうのは判らんでもない。じゃが、枢機卿相手に手を挙げるというのは、どう考えてもやりすぎじゃ!)


 そして、グロックは我を忘れて暴れまわるマーレを止めるべく、マーレに声掛けを始める。


「マーレさん、止めるんじゃ。ここままでは、庭が荒れ放題へと化してしまうぞ! 枢機卿殿も聞けい! 今日の所は出直しては貰えぬか? 後日、改めて当家から教会へと人を出そう! それで、納得しては貰えぬか?」


 同様の言葉を幾度となく発するグロック。だが、マーレとビネガーがその声に応え、戦いを止める事には至らない。


 マーレは風魔法『突風』を、移動時、回避時にと上手く利用し事を優位に運ぶ。一方、ビネガーは光魔法『光の玉』の手数でもってマーレの動きを封じに掛かるが、その事如くが迎撃、もしくは躱されていた。




(なんなのだ!? この女は! 化け物か!)


 最初に一方的に攻撃を喰らわされた恨みもあり、仕返しを試みたいビネガーであるが、今の所満足のいく結果を出せていない。


 共に繰り出す魔法の威力が大したものでは無いがゆえ、蓄積ダメージとしては大したことないが、グロックの制止の呼び声にも止まらぬ今、最早どちらかの魔力、もしくは体力が尽きるまで続く様相を呈していた。


(このままでは、埒が明かんな……。これを使うか……)


 ビネガーは新たな戦い方を模索するや、それを実行に移すべく、マーレの動きを観察する。


(奴は、どうせまた我へと近づいて来るのだろう。狙いはその時だ!)


 舞い上がる土煙の中、見え隠れするマーレの姿。それでも、ビネガーは『光の玉』を放ち続ける事で機会を伺う。


 そして、幾たび繰り出される魔法の中、遂にビネガーの視線が自身に近寄るマーレの姿を捕らえる。


 ビネガーは、ここしかないというタイミングを見極めると目を瞑る。『光の玉』を近くの地面へと打ち出し、わざと爆発を起こさせた。爆発は目暗ましとなり、お互いの姿をかき消す。


「ぬっ……。二人の姿が見えぬ! これは、わざと爆発を誘発させよったのか」


 度重なる静止の言葉を投げかけていたグロックであったが、ビネガーが起こした爆発により、二人の姿を完全に見失う。






 そして、土煙が収まり、視界が開けた先に見えたのは、ビネガーに首元を掴まれ、()()()()()()()()()()()に手錠のような物を嵌められているマーレの姿だった。


「な!? マーレさん……。くそったれが!」


 グロックは、マーレの現状を視界に収めるや、救出に赴くべく駆け出す。が、そんなグロックに、ビネガーが制止の言葉を投げかける。


「止まれ! ご老人! この女がどうなっても良いのか! 最早、この女の命は我の手の中。生かすも殺すも我の気持ち一つよ」


(このままでは、マーレさんの命が危うい……。それにしても、マーレさんの両手に嵌っている、あの手錠のような物は一体何じゃ?)


 マーレの両手に嵌る手錠のようなもの。それは、ビネガーがこうなる事を見越して事前に教会から持ち出した魔封石である。


 精霊師の登録管理の全権を担う教会。今までも、精霊師が起こした事件が起こらなかったと言えば嘘になるだろう。仮に無かったとしても、精霊師を管理運営していく上で、魔法を封じる手段は必要不可欠になる。


 そんな必要もあり、近年になって開発運用されるようになったのが、魔封石である。これ自体を精霊師の身体に触れさせる事で、幼精(世間一般には精霊だと思われている)の力を強制的に遮断する事で、魔法を使用出来なくさせてしまう物だった。




「ぐっ……。要求は何じゃ? 交渉の余地があるからこその言葉であろう?」


「ふっ……。まあ、そういう事だ。我の目的は一つよ。ここにアルスという名の少年を連れて来て貰おうか。居留守を用いても詮無き事ぞ? ここにアルスという名の少年が居るからこそ、この女は我に挑み掛かってきたのであろうからな。ほら、早よ行け。この女の命は、我の気持ち如何でどうとでもなるという事を忘れるな」


 と、不敵に笑うビネガー。その笑みからは聖職者たる面影を感じさせる所はなかった。


「……せ、先生。こ……ここ……に、アル……スを連……れて来……ないで」


 首元をビネガーに握られ、か細い声ながら、マーレがグロックに訴える。


「お前は、黙ってろ!!!」


 そう口にすると、ビネガーがマーレの腹を思いっきり殴る!


「がはっ……」


 吐き出される唾液と共に、更に苦悶の色が濃くなるマーレ。


「マーレさん!」


(マーレさん、判っておる。奴の要求に応え、ここにアルスを連れて来る訳にはゆかぬ)


「枢機卿! その要求には応えられん! 後日、わし自身が責任を持ってアルスを貴殿の下へ送り届ける事を約束するゆえ、今はマーレさんを解放してくれぬか!?」


「ふっ……。ご老人、話にならんな。どうやら、そなたにはこの女の命が惜しく無いと見える。であるならば、その気持ちが本物か確かめさせて貰わねばなるまい」


「お主は何を言うておるんじゃ! わしはマーレさんの命が惜しくないとは、一言も言うておらぬであろう」


 ビネガーは、グロックの言葉を無視すると、魔法を発動する。そして、その発動した水魔法が、徐々にマーレの全身を覆っていく。


「これは、魔法書に記載されていない魔法でな。名を『水の(ウォーター)牢獄(プリズン)』という。文字通り、空気も存在せぬ水の中ゆえ、早くアルスを連れて来ねば、正しくこの女が息絶える事になるぞ? まあ、我はそれでも構わぬがな」


 そう言うや否や、ビネガーはマーレの首元を握る手に少し力を込める。それに呼応するかのように、水魔法で全身を覆われたマーレの口元から、ゴホゴホという苦悶の声と共に、肺から空気が漏れ出る様が見受けられる。


 王都内で精霊師の第一人者であると名が知れつつあるグロック。それ故、その噂を聞きつけた精霊師を親に持つ人々から、それなりの数の弟子を預けられてきた。それゆえ、グロック自身が使用出来ない魔法も弟子経由で色々と目にしてきた立場であるが、ビネガーが使用する魔法には全く心当たりが浮かばない。


 それもその(はず)、ビネガーが言った魔法書に記載されていない魔法。それは、今現在世間に出回っている魔法書が、魔法書の生みの親であるアルミラが記載した物と同一でないゆえである。


 魔封石同様、魔法書にも手を加える必要があると考えた教会は、のちに教会にとって有利に働くであろう魔法を除いた魔法書を新たに作成する。それこそが、今世間に回っている魔法書であり、精霊界にてアルミラが所有していた原本とは一線を画す物であった。




 あとは、そちの選択次第だと不敵に笑うビネガー。


 正しく、時間的にも精神的にも追い詰められるグロック。


(ぐっ……。これは、もう奴の要求に応えるしかないのか……)


 グロックが、ビネガーの要求に屈し、家へと取って帰ろうとした……。その時!




「母さんを、離せっ!!!」


 ビネガーに指を突き付けるアルスが、玄関口へと姿を見せたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ