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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第5章

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第147話 豹変するマーレ

「やはり、この場所で合っていたのだな! お前が……。 お前が、マーレだなっ!?」


 教会の枢機卿たるビネガーが、グロックとニッキの二人に取り押さえられながらも、マーレに指を突き付け叫ぶ。


 突然、自身の名を怒鳴り声と共に告げられた事で、無意識の内に、一歩、また一歩と後ろに下がってしまうマーレ。


(私の名前を知っている!? そんな、どうして?)


 相手の目的は自分らしい、グロックとニッキの二人が必死に取り押さえようとしてくれているが、相手はそれでも自分に向かって来ようとしているのだと理解する。


 本来であれば、なるべく平和的解決でもって事を終わらせたかったビネガー。だが、道を尋ねた相手であるメイドからは満足な回答を得られず、挙句の果てには、司教だと勘違いされる始末。


 続いて現れた当主だと思われるご老人には、完全に無下にされた事により、最早冷静さを欠いていた。


 ここまで、コケにされておめおめと引き下がれるかと、アルス、もしくはマーレを強引にでも連れて帰るという目的に変わってしまっていた。


 グロック、ニッキの二人に取り押さえられながらも必死にマーレに近寄ろうとするビネガー。マーレの視界からも、時々ではあるが着ている装束が目に映るようになる。


(あれは、アルミラ教の法衣。となると……。私の名は、アルスの登録の際に記載した記帳本を見たのね! であるならば、本当の目的は……。私ではなく、アルス!)


 それを自覚した瞬間、マーレの肝が据わる。そして、眼光の鋭さが増す。


 マーレが、二人が必死に取り押さえているビネガーに、ゆっくりと近づいていく……。


「何をしておるんじゃ! 奥に隠れておれ!」


 近寄るマーレに、グロックが声を張り上げ伝えようと試みるも、マーレはグロックの言葉に耳を貸さない。それどころか、益々ビネガーへと近づくと、二人に取り押さえられ、思うように身体を動かせないビネガーの服を掴み、握り絞め、引っ張ると、ビネガーの顔の近くで(ささや)く。




「お前の目的は何?」


「!?」


 別に怒鳴られた訳でも、凄まれた訳でもない。ただ、瞳の奥の狂気を見て、ビネガーの背筋に寒気が走る。


「目的は何かと聞いてるのよ!」


 突然、ビネガーの身体を魔法が襲う。それにより、玄関口から庭先まで吹っ飛ばされるビネガー。原因は、マーレが掌から風魔法『突風(ラフォーレ)』を発動させた為だった。


 あまりの突然の出来事に、呆気に取られるグロックとニッキ。見ると、庭先でビネガーが痛めつけられた身体を起こそうとしている所だった。


(マズい! マズい! マズい! これは、とてつもなくマズい展開じゃ!)


「お前……。我に、手を挙げたな……。王都で、最高責任者たる我に!!! 最早、死ぬ覚悟は出来てるんだろうな!?」


 叫ぶビネガーに、後ろ手に伸ばした掌から『突風(ラフォーレ)』を発動させると、マーレが猛スピードでビネガーへと迫る。そして、至近距離にて再度『突風(ラフォーレ)』をぶっ放す!


 再び、吹き飛ばされるビネガーの身体。そんなビネガーを、マーレが冷めた目で見つめる。最早、ビネガーが着る法衣は、土埃で本来の白さは微塵も無くなっていた。


「あなた、頭が悪いの? 私は、目的は何かと聞いたのよ……」


(何なのだ!? この女は、一体何なのだ!?)


 マーレの豹変ぶりに、頭が追いつかないビネガー。


(だが、先ほど叫んだはずだ。我は、何と叫んだ……? そうか……。我は、攻撃されたのか!)


「おのれぇ~! そこの女! 只では済まさぬぞ!」


 激高するビネガーに『突風(ラフォーレ)』の力でもって再度肉薄すると、掌底波の如く『突風(ラフォーレ)』を繰り出す。が、すんでの所でビネガーに躱されてしまう。


「そう何度も、同じ手を喰らっていられるかぁ~~!」


 お返しとばかりに、ビネガーが光魔法の『光の玉』を幾重にも解き放つ。マーレは咄嗟に距離を取りつつ、幾重にも迫りくる『光の玉』を『風の刃』にて迎撃し、仕留め損ねた『光の玉』は、回避する事で対処していく。


 周囲には魔法同士がせめぎ合う音が響き、地面を穿つ事で騒音は更に大きくなっていく。時間経過と共に立ち昇る砂煙が、お互いの行動予測を狭めていった。





 マーレとビネガーによる精霊師同士のせめぎ合いの中、突然、グロックがニッキに向け叫ぶ。


「ニッキよ!」


「は、はい!」


「お主は、家の中へと退去せよ! そして、ベティスがここに現れてしまう可能性を、何としてでも潰せ! ここに、ベティスまでもが現れる事だけは何としてでも避けねばならん! ニッキよ、そなたに頼めるか!?」


「はい! お任せ下さい! 私の命を懸けて、ベティスお嬢様を一歩も部屋から出しません!!!」


「そなたに託した! 行け!!!」


「はい!」


 ニッキは先ほどまでとは違い、引き締まった表情を浮かべると、玄関ホールを全速力で駆け抜ける! そして、そのままの勢いでもって、螺旋階段を駆け上がっていった。


(ニッキ、頼んだぞ……)


 グロックも薄々気付いていた。枢機卿であるビネガーの真の目的はアルスだと。


 最初こそ、ベティスが使用出来る魔法が三属性に増えた事を危ぶんだものの、ビネガーの口からマーレとアルスの名が出た事で、用件はベティスでは無いと即座に可能性を否定した。


 だが、ベティスは今や吸血姫(ヴァンパイア)だ。この場に現れればその事が露見してしまう可能性が一気に高まる。


 ベティスの祖父としても、エマール家前当主としても、それだけは阻止せねばならない。


 そして、グロックのこの行動により、アルスの運命は、確定事項として揺るぎないものになってしまったのだった……。

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