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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第4章

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第119話 ヨークの真意

 室内には、グロック、ヨーク、チェルシー、ニッキの四人のみが残っていた。


 ベティスを軟禁させるにあたり、誰かしらがお目付け役を担わなければならない。ただ、ベティスが吸血姫であるという事実をこれ以上、広める訳にもいかない。


 そこで、白羽の矢が立ったのが、グロックとベティスの二人を出迎えたエリンである。彼女としては、たまたま二人の帰宅の際に居合わせたという事なのだが、事情はどうあれ、ベティスが吸血姫(ヴァンパイア)であるという事実を知ってしまった以上、他に適任者が居ないのもまた事実なのであった。


 長女エリザと、次女サーシャの二人は、色々と衝撃を受けていたようで、ベティス退室後も、心ここに非ずといった佇まいであった。長女であるエリザでさえ、未だ齢十二歳の少女である。受けた衝撃の大きさに心が付いていかなかったのであろう、少し休んだ方が良いと、二人とも自室へと帰らせた。


 それにしても、ベティスの言動は行き過ぎであったと言わざるを得ない。


 それだけ、アルスに執心しているという事の裏返しでもあるが、軟禁とはどの程度の事を想定しているのかと、グロックは息子で現当主であるヨークへと話しかけた。


「ヨークや、ちょっといいか?」


「何だい? 父さん」


「ベティスのあの態度では、お主が軟禁するとした判断が間違いではないと、わしも思う。じゃが、軟禁とはどの程度の事まで考えておるんじゃ?」


 グロックの発言に、皆の視線がヨークの次の発言に注目する。ここに居る全員が一番気になっている内容である事は確かだった。


 特に、ベティスの母であるチェルシーに至っては、自分の育て方が悪かったのかと、憔悴が表情に表れている。


「父さん、ベティスの軟禁って事に関しては、俺もそこまで深く考えている訳でもないんだ。ただ……」


「ただ、なんじゃ?」


「今日、ベティスの想いを聞いたわけだけれど、あれではダメだ。ベティスの想いは深すぎる。依存し過ぎていると言ってもいい。あのままでは、アルス君へ向かう気持ちが、愛憎に変化する事もあり得る程、狂気じみた愛であるとすら感じたよ。我が娘ながら、あまりの思いの深さに背筋に寒気が走る思いだった」


「そうかもしれんな……」


 ヨークの言葉に、ここに居る全員が先ほどのベティスの姿を思い出す。宙に浮かび、全員を睥睨(へいげい)する姿に、六歳児とは思えぬ畏怖を感じたと身震いする。


「どうして、ベティスがそこまでアルス君に心底惚れているのかは、俺には分からない。実際、アルス君を見た事すらないからね。ただ、ベティスがそこまで惚れ込むという、アルス君個人に対して興味が出たってのも、また事実だ」


「では、先ほどお主はベティスに対し、二人の婚約が破談になっても構わないとも言っておったが……」


「もちろん、ブラフさ。はったりと言ってもいい。内心では冷や冷やものだったけどね。でも、ああでも言わないとベティスに反論されていた事だろう。あれは、他人の言葉尻を掴むのが上手いからね。ホント、我が娘ながら将来が恐ろしいよ」


(それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とはいえ、未だ不確定要素に過ぎない。当家が上にのし上がるのに、アルス君が重要なピースである事は確かだ。みすみす自ら重要なピースを手放したりはしないさ)


「そうか……。その言葉を聞いて安心したとだけ言っておこう。じゃが、問題はまだある。ベティスもアルスも来年からは初等部に通う事になる。二人は同い年じゃからな。アルスが王都へと越してきた今、ベティスもアルスと同じ学び舎に通うといって聞かんじゃろう。そちらはどうするつもりじゃ?」


 グロックの言葉に、ヨークは傍に控えるチェルシーへと視線を向ける。だが、視線の先のチェルシーは、未だショックから立ち直れていないのか、疲れ切った表情を浮かべていた。


 ヨークは仕方ないとばかりに、己の考えのみを口にする事にする。


「それに関しては、軟禁された事によって、ベティスの気持ちがどうなるかって事によるだろうね。でも、現時点でハッキリしているのは、ベティスが今のままであるのなら、同じ学び舎には、とてもじゃないが通わせられない。それに、吸血姫(ヴァンパイア)の件もある。父さんは、あれを初等部に通わせて平気だと思うかい?」


「……難しいところじゃろうな。正直、変身魔法(メタモルフォーゼ)の事に関しては、わしも未知の魔法なんじゃ。精霊女王様が、近年になって編み出した魔法らしい。それゆえ、世界に出回っている魔法書にも、この魔法は記載されておらんのじゃ。それゆえ、どの程度の信憑性があるのかまでは、わしにも分からん」


(ん? どうして、父さんはアルミラ様の事を精霊女王とあえて伏せて口にしたんだ? ああ。そうか……。ここにはニッキも控えている為か)


 ヨークは部屋の隅に控えるニッキへと視線を送る。だが、表情で読み解く限りでは、今の話の真意までは気付いてなさそうだと、胸を撫で下ろす。


 今後、ヨークの中でアルミラ様の扱いは、慎重を期す構えである。いざ、アルミラ様の名声の力でもって、のし上がろうとした時に、肝心のアルミラ様本人からそっぽを向かれてしまうのでは、元も子もない。なので、今後はアルミラ様が告げたルールなどに反しないよう、気を付ける必要が出てくる。今は、気を利かせてくれた父に、心の中で感謝した。





「まあ、俺個人としては、ベティスには出来れば初等部に通わせてあげたいと思っているんだ。ベティスが吸血姫(ヴァンパイア)となったのは、本人も望む事ではなかったことだろう。それさえなければ、当然ベティスは問題なく初等部に通っている事になるだろうしね。出来れば、ベティスにはこの世に生を受けた以上、普通の暮らしをさせてあげたいと思うんだよ。親としてはね」


「そうか。お主の考えがそういう事であれば、わしも出来る限り尽力すると約束しよう。幸い、家督をお主に譲って既に隠居した身。お主よりは余程時間も取れるじゃろうて」


「うん。宜しく頼むよ。じゃあ、今するべき話は大体こんなところかい?」


「そうじゃな……。いや、一つ忘れておったわい。ヨークよ、暫しニッキを借りたいんじゃが、良いじゃろうか?」


「ん? ニッキを? 俺は別に構わないんだけど……。ニッキ、君の今日の予定はどんな感じなんだ?」


と、部屋の隅に控えるメイド長であるニッキへと話を振る。


「はい。旦那様、私の仕事はいつも通りといった所でしょうか。特に決まった仕事はございません。皆の仕事を見て回って、人手が少なそうな所にフォローに入ろうかと考えておりました」


「そうか。ならば君が居なくとも業務に支障はないな。父さん、それでニッキに何をさせるつもりだい?」


「その事なんじゃが、今日わし達が帰って来た訳じゃが、当然一緒にアルス達一家も共に来ておる。なんでも、元々準男爵が住んでいた家を買い取ったらしいんじゃが、中はもぬけの殻らしくてな。ニッキならば知識も豊富じゃ。家具など一通り揃えるのに手助けになるじゃろうと思ったんじゃよ」


(なるほど。それで、ニッキを……。どうしたものか……。正直、面識すらない人間に当家のメイドを貸し出すってのは気が進まないってのはあるが……。まあ、ここは恩を売っておくのも一興か)





「了解した。では、ニッキを貸し出すことを許可しよう。ニッキ、悪いけどお願い出来るかな?」


「はい。もちろんです。それで、大旦那さま。私はどちらに向かえば宜しいのでしょうか?」


 グロックは、ニッキに新しいゼスト宅の場所の詳細を説明していくのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まずい、「俺が大きくできる」とか当主が家ではなく個人の都合で悪い方に考えてる。王都の門で悪い人の話あったのに、内側にアルス達にとって悪い人候補が生まれたんだが。悪い方向の未来しか見えんのだが…
2023/04/10 17:33 退会済み
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