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最終話 いつまでだって君と

 全てを思い出した。


 思い出したというか……気付いた、とこの場合は言うべきだろう。


 俺はパトリシア──柚希と知り合って、好きになって、告白して、付き合い出して。


 そしたらお雹さん──雹が激昂して、柚希を殺して……柚希は(ことわり)になった。


 そういう感情を持ったからなったんじゃなくて、元々生まれた瞬間からそういうモノになると決められていたらしい。


 それで何度も何度も何度も何度も……気が遠くなるような時間をかけて、諦めずに雹は俺と結ばれる運命を創り出そうとした。


 それでも俺は柚希と必ず出会い、必ず結ばれる。


 雹はもう何もかもを諦めた、この運命だけは捻じ曲げられないと。


 ならばもう何度もやり直すのはやめよう、ずっと(ことわり)として俺と接触して、ちょっとずつ気が向くようにしようと決めた。


 友達ではなく、ハナから神様として、俺と結ばれるため色々手を尽くそうとしていた。




 本来ならば社会人になってから出会って結ばれるはずだった、不幸な俺を社会人になる前に、1番好きな見た目の俺をこの世界へと転生させた。



 ただ、この瞬間から雹の計画は狂う。



 転生して世界に降り立ったその1秒後に、俺と柚希は、サトルとパトリシアとして出会ってしまった。


 (ことわり)すらも超越するその運命に、雹は早い段階で手を打つ。


 パトリシアを連れ去り、そこで来た俺に全てを打ち明け、同情を誘うという算段だ。


 自分はこれだけやってきた、手を尽くしてきた、なのに結ばれないのはおかしい、だから結ばれるべきだと、情で訴える。


 運命に勝つには、俺自身もその運命に抗わなければならないのだと、今になってようやく気付いたのだ──




   ※ ※ ※ ※ ※




 雹の全てが、雹の目を見ると頭の中に入ってくる。


 違和感や既視感もこのせいなんだと、ようやく気付いた。


 「……マジかよ……」


 「マジだよ……サトル」


 これは偽りじゃない……今俺に向けられている雹の笑みは腹の立つ微笑みじゃない、俺を想っている微笑みだ。


 溢れ出す涙を拭いながら、続けて言葉をかける。


 「ごめんなさい、たくさん迷惑かけて……私……私は……」


 俺の手を握りながら必死に謝る雹。


 何故か神様だとかそんな次元の内容を俺はすんなりと理解出来た……まあすんなり理解出来るように雹が創ったんだろうな……。


 隣で口をポカンと開け、静かに嗚咽を漏らすパトリシア。


 (……あの時の夢は……こいつの……雹の記憶……そんな……そんなのって……)


 強力な運命に抗うために、何億年じゃ足りない時間を過ごしてきた雹の気持ちを、パトリシアは半分も理解は出来ない。


 それでもその哀しさ、尽きぬ恋心に胸打たれ、感動のあまり涙がこぼれて止まらない。


 「……サトル……」


 「何だよ」


 「……苦しいよ……私のせいで、雹は」


 「お前のせいじゃねぇよ」


 「え……」


 雹の握る手を解き、俺は思いがけずに立ち上がる。


 「知るかよ……何だよ運命を変えるって、何だよ(ことわり)って……ふざけんな……」


 「……理……」


 「それは俺やお前の事情だろうが!! そのためになんで他人のあいつらが傷付かなきゃなんねぇんだよ!!


 エリー王妃は本気でお前を信仰してた! パトリシアの親父もだ! ミラもお前のために生きてきたんだ!!


 フィルは不治の病を仕方ないみたいな風だったけど、断じてそんなことあってたまるか!! 樂ちゃんだってお前の入れ物として生きてきたんじゃねぇ!!」


 言えば言うほど、色んな感情がこみ上げてくる。


 果たしてそのこみ上げてくる感情が、俺やパトリシア、雹にとって本当に正しいのかは分からない、それを理解するよりも先に言葉が出る。


 「お前の気持ちは分からなくは無い……どんだけ辛かったのかは想像もつかない……だからって、あいつらを傷付けるのだけは絶対間違ってる!!!!」


 「……エルフ族は駒として創った……他の転生者は、この世界で理の力になるために適当に選んできた……」


 「そうか、元から傷付けるために転生させたのか」


 「全部あなたのためなの!! 分かって!!」


 「だとしても俺は拒む、俺に向けたその感情の少しでも、転生者やエルフ族に向けられなかったのか!!」


 「違う……違う……私は……」


 「お前は(ことわり)なんだろ!? 神様なんだろ!? だったら神様としての責任をちゃんと背負えよ!!


 1度は死んだあいつらはお前に感謝してるんだ!! だったらその思いにほんの少しでも応えるのがお前の責任だろ!!


 俺やお前のために……私情で命を弄んでんじゃねぇぞ!!!!」


 ……言った、言ってやった、言い終えた……。


 思いの丈は全部言った、すっきりしたわけじゃ無いけど、俺の言うべき事は全部言えたと思っている。


 「……サトル」


 「ああそうだ、フィルがお前の事愛してるってよ」


 「えっ、えちょっ、えっ!!?? ……な、何急に!!??」


 「伝えてくれって言われてたから、今言っとこうと」


 「いやそれこそ意味不明だわ! 完全に勢いのついでじゃんか!」


 「あいつがいなかったらここまで来れなかった……別に唇じゃなくていいからどっかにキスしてやってくれ」


 「あ、あんたにそんなこと言われる筋合いは無いわよ!! ……まあ……考えとこう……」


 めちゃくちゃ格好つけてるな、今の俺。


 でもそれでいいか、人生で1度くらい、後で死ぬほど恥ずかしくなるっ分かってて格好つける時があっても。


 これで折れてくれるとは思わないけど……早くフィルとミラのとこに戻らないと……。


 「……分かった」


 「……何が?」


 さっきから無反応だった雹は突然立ち上がり、部屋の中心に歩き出して立ち止まる。




 「──この世界も、終わらせる」




 「なっ!? 馬鹿野郎!!」


 遅かった、もう全てが始まっていた。


 俺とパトリシアが喋ってる間に、あいつは黙って世界を壊す準備を全て整えて、今起動した。


 何ひとつ前触れも音もしなかったから、全然気付けなかった……何て事だ……。



 「もう私が死んでも止まらない……柚希と結ばれなくても、理と私が結ばれないなら……こんな世界に意味は無い!!!!!」



 あちこちで崩壊の亀裂が生じる。


 〝獣山界(オーヴェリー)〟から人界へ、あらゆる生物を巻き込み、世界は終焉を迎える。


 ここも凄まじく揺れ、落石もシャレにならないほど降ってくる。


 「くそっ……くそおおおおおっ!!!」


 叫んでも意味は無い、もう何も意味は無い……ならば、せめて一矢報い無ければならない。


 訳も分からず突然死を迎えるこの世界の人達の、エルフ族の、ミラの、樂ちゃんの、エリー王妃の、フィルの……全ての人達のために。


 「パトリシア」


 「……何……」


 「……多分もう一回生まれ変わっても、どうせ会っちまうだろうから……まあ、その時はよろしく」


 「は~あ、せめて次はゴリラなんて呼ばれないお金持ちのお嬢様がいいな~」


 「欲深いなおい」


 「あとあんたとそういう関係とかマジで無いわ、フィルくらい紳士なら考えなくも無いけどやっぱり断る」


 「残念、お前が拒んでも運命が結んじまうから」


 「ならせめてお願い運命様、次はこいつをお金持ちの御曹司に生まれ変わらせてください」


 「結局金かよ!」


 「っははは! ……はぁ……楽しかったなぁ……」


 「まあそこそこな」


 「そこは「俺も」でいいのよ、ちゃんと締めなさいよ」


 「終わらねぇよ、お前のしつこさがあれば多分宇宙が滅んでも永遠に終わらねぇな」


 「はいはい、褒めてるって事でいいのよね?」


 「もちろん」


 「……じゃ、私の分までよろしくね、勇者さん」


 「おう、任せとけ」


 言葉以上に何かを交わすことはなかった。


 それで十分だ、俺とパトリシアにはそれで。


 覚悟は決まっている──皆には悪いと思ってるけど、死んだ後に謝れば何とかなるか。


 攻撃当たる当たらない問題だが、気にせず振ってりゃ勝手に当たるだろう。


 なんせ俺、運に全振り勇者だし。


 全てをぶつける、せめて己の罪を贖うくらいやってくれないとな。


 出会えてよかったな……フィル、エリー王妃、樂ちゃん、ミラ、街の皆……それから……。


 運以外に全振りエルフにも────


 「うおおおおあああああああああ!!!!!」


 人生最大の、今までの理の人生分合わせても最大最高の力を込めて、フィルの握った最高の剣で放つ!!


 「はああっ!!!」


 当たった……けど、雹に片手で防がれる。


 「くそっ……」


 「邪魔する……なっ!?」


 すると突然雹の力が弱まった、雹自身も驚いている表情を見て俺は全てを理解した。


 「ありがとよ樂ちゃん!!」


 もう1度踏み込む、腰を入れて腕を振り上げる……無抵抗な雹は何も言わず、ただ静かに振るわれる刃を見つめていた。


 ──心なしか、少し微笑んでも見えた。


 そして放たれる、俺の唯一にして最強の技。


 あらゆる人々の思いを込めて、その心の強さだけ強くなる無敵の剣を、全身全霊で振り下ろす!!


 その名を────


 「うおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああ!!!!!」






 ────〝勇者の信念〟。






   ※ ※ ※ ※ ※






 「だるいぃぃ~」


 「うるさいわね、こっちまでだるくなるでしょ」


 今日は通っている高校の始業式。


 晴れて2年生となった俺──疫病理(やくびょうさとる)は机に顔を突っ伏して早速うたた寝の準備に取りかかる。


 ホームルームとはうたた寝タイムの別称なのだと俺は信じている、散り始めた桜の花びらのように俺も気ままに生きたい。


 「起きなさいよ!」


 「ってぇ!」


 躊躇なく俺の丸まった背中にシャーペン(芯出てる)をぶっ刺す幼なじみの女──葉鳥柚希(はとりゆずき)は今日も俺の平穏を殺しにかかっている。


 「はぁ~、何の能力も要らねぇから運だけ超絶良くなりてぇな~、あと一撃必殺の技と」


 「またそれ、アホらしい……あ、今日転校生が来るって……女子」


 「マジかよ!!」


 背筋ピーンと伸ばして座ったのに、柚希はさっきよりも強くシャーペンを背中に突き刺す。


 「ぎゃああ!! 何すんだお前!!」


 「……別に」


 頬杖をついてそっぽ向く柚希に、俺は批判覚悟で一発叩(はた)いてやろうと思ったけど、なんか照れ隠ししてるみたいでやる気が失せる。


 「何やってんだ疫病! 座れ!」


 「へ~い……」


 そんな初老のおっさん担任教師と共に教室に入ってきたのは、かなりの美貌の持ち主で、芸能人かと思ったほどだ。


 「かわいい~」


 「後で連絡先交換してくれるかな~」


 クラスの男共はおろか、女子達も注目を集めるほどにその黒髪黒眼は素晴らしく美しい。


 「へぇ~~……ってぇ!! 何すんだ!!」


 「別に~……」


 さっき刺されたところと同じところをピンポイントで刺しやがった柚希は、やはり頬杖をついてそっぽ向く。


 ホントに何がしたいのやら……。


 にしてもあの子……どっかで見たことある雰囲気だな……どこだったかなぁ……。


 「はいはい黙れ! あと疫病後で職員室来い!」


 「げぇ……はい……」


 はいはいこうしてクラスの連中に笑われるまでがいつもの朝ですよーだ。


 「じゃ、自己紹介」


 「はい」


 名前をつらつらと黒板に書く、雰囲気もそうだけど、その名前もどこかで見たことある気がする……。




 「今日から2年4組に入ります




 ────霧島雹(きりしまはく)と言います、よろしくお願いします!」




 クラスの連中が拍手で盛り上げる中、俺……と柚希は、黙ってただ見つめるだけだった。


 そしてこの時の俺は知る由も無かった……この出会いが、俺の平凡で何て事無い高校生活が終わり、いつまでも騒がしい日々が続く事を────






 Fin.

運に全振り勇者と運以外に全振りエルフ

これにて完結です!

読んでくださりありがとうございました!

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