第二十一話「仮面」
「は? どうした急に……」
案の定セイコラは俺の話を呑み込めてない。当たり前か。
「ここに来る前に、千▲年後の世界で自転車に乗っていて転んで、まあこの世界で言ったら落馬みたいな感じで事故をして、目が覚めたらトースで将軍たちと合う直前だったんです……。ですから、『俺』の頭の中には、ジョージ・ダグラスが『血染めのダグラス』って呼ばれるようになるような活躍をした記憶が無いってことなんです」
「ふーん、なるほどねえ……」
なるほどと言ったはいいが、多分自体が呑み込めていないんだろう……。数十秒の沈黙が部屋の中を包む。
「おいおい、お前もノベルと一緒に中央に戻って、医者に行った方がいいんじゃないか……」
やっぱりわかって貰えなかったのか……。
「……ってのは冗談でなんとなく理解したわ。今着てる服も、最初の会議の時に使ってた筆? なんていうのかわからんけどアレも、この国に無いというよりこの世界で存在するものとは思えないしな。まあ頼むから少し聞かせてくれ。いいか? 答えてくれたらお前の過去の話とか、この時代? この国の分からんことも教えるから」
なんとかわかってくれたようだ。「少し」ってのが引っかかるけど……。
「まあ手始めに、と言うか一番聞きたいのは、この国、ヴァルタール王国は千▲年後もあるのかって話だな……」
てっきり俺個人とかここへ来た経緯をもっと詳しく聞かれると思ったので予想外だった。まあ確かに戦っていれば気になるか……。
「少なくとも、俺らの時代にはありません」
「そうか……。俺が生きている間はこの国は無事なのか……?」
ぶっちゃけた話、世界史はロクに勉強していないから分からんが……。そういえばここに来る前、女の方が言ってたな。三か月以内に俺は戦死するか処刑されるって。言っていいのかわからんけど……。
「おそらく、この状況を見ればわかるかと……」
「そうか……。ダメっぽいのか」
一瞬で察してくれたか。それが申し訳なく感じてしまう。
「和睦して時間を稼いだ方が間違いなく長持ちするでしょうね、セイコラさん。ですからヨハンソンの首を持っていくだけで絶対に停戦ができるとは言えませんが、交渉頑張りますのでサポートしてください」
「おう、任せとけ。未来だか運命だかわからんが、もう少し抗わせてもらうぜ」
と、頼もしいことを言うセイコラ。とにかくこの人が味方になってくれた以上、何だかんだやりやすくはなったはず。次はオレが聞く番か。
「とりあえず知りたいことはたくさんあります。まずは、九人委員会ってのを説明してほしいです」
「ああ、それなら簡単だ。要するに、国の大事なことを国王と一緒に決める機関だ。メンバーはヨアキム王と、大司教のヨハンソンの叔父と、国軍元帥で将軍の同期のエクステットさん、あとは文官で出世した六人だ」
なるほど。文脈から推測した通り、お偉いさんの集まりってので間違ってなかったようだな。文官ってのは要するに、なんかアレだよな。事務系の役人みたいなやつでいいんだろうか……。
「じゃあ二個目いいですか? 俺ってなんで『血染めのダグラス』なんて呼ばれてるんですか? 正直中二病臭い、まあなんかかっこつけてるようだけどダサいし、嫌なんですよねえ……」
「ああ、それはな。今から十年前ぐらい前か。ヴィフィカンツ王国との戦争の時に、弟とあと五人ぐらいか、計七人で五百騎の敵兵に突っ込んで総大将の首を取ったからだな。まあその功績で、下っ端からお前はいきなり中隊長になったってわけだ。んでそのあともぼちぼち軍功を上げたり、国王の警護をしたりでまじめにやって来たから今の立場になってるんだ」
何だよこの化け物は。もう少し自分の身の安全とか考えた方がいい気がする……。あと、弟ってなんで敵になってるんだろ?
「弟はなんでヴァルタール国軍を抜けたんでしょうか? 兄弟で闘うのはちょっと気が引けますし」
セイコラ一瞬考え込んでからまた話始める。
「実はな……。お前の弟は六年前かな? 別の戦場で足を怪我して馬に乗れなくなったから、猛勉強をして文官になったんだ。んで、ヴィジャーズヴィル市の副市長をしていた時に、ニコライ王子、いや総統か。あの人に引き抜かれて今じゃあっちの№2ってことよ」
セイコラの話を聞いて思わず俺はハッとする。ダグラスの弟、サイモンって奴は自分の身に降りかかった試練を見事に乗り越えたようだ。だけど「俺」はまだ超えられていない。この分け目が何であると自信を持って言えるわけではないが、俺は自分の怠惰、つまり、可哀想だと同情してもらえる自分の立場に甘えていたことじゃないのかと気付いた。
(俺、あっちに戻ったらちゃんと勉強するか)
「なんか言ったかダグラス」
「い、いえ。ただ弟の方が出世しているのがちょっと不満なだけで」
「そうか、それだけならよかった」
あとはもう大丈夫かな。ジジイとクソ女の件は言ったらダメそうだし。
「あと俺になんか聞きたいことありますか? 千▲年後の世界の話でなんかあったら言いますよ」
セイコラが一瞬考え込みながら頭を掻く。
「いや、いいわ。どうせオレは見ることが無さそうな世界だし。まあなんか機会があったら自分の目で確かめてみるぜ」
「まさか、そんな機会は一生無いですよ」
目の前に一人、そんな機会の逆パターンを辿ったやつがいるけどな。
「それより、よくぞ自分の秘密を打ち明けてくれた。感謝するぜ」
「いえいえ、俺も重荷を下ろせましたので……」
俺にとっては、今まで無理矢理合わせていた部分が解消できたしかなり大きい。この勢いで和睦もこなそう……。
一息ついているとローランドの声がした。
「将軍様が帰還しました!」
ついに来たか。まあ敵ってわけじゃないんだし、気楽に行こうか。




