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46.

翌朝。

家族と侍女たちに甘やかされた私は、朝いつも通りに起きたのにまぁまぁとベッドに留め置かれ、朝食を持ってきてもらってのんびりと部屋で頂き、今日は何も予定がないから、と言われて寝室の隣の広い居間のソファに掛けてぼんやりしている。

窓から見える外の景色は馴染みのある領地のお屋敷のそれではなく、ここは王都の公邸で、昨日のあれも夢じゃないのね、なんて思ってしまう。

今日も外は空気が澄んでずいぶんと寒そうだ。

けれどこの部屋の中は暖炉に入った火と、窓から注ぐ柔らかい冬の日差し、それから手元のティーカップから立ち昇る湯気のおかげで、外の寒さとは無縁の陽だまりのような温かさを享受している。

つい先ほどまでエルメラちゃんがいて、せっせとお茶の準備などしてくれ、朝と昼の間くらいの時間をお茶を片手に無駄遣いしているような状況だ。

私のためにエルメラちゃんが選んでくれたというティーセットは白磁に淡い手書きの小花柄で、可愛らしいその柄は春の先駆けに咲く小さな野の花を思い起こさせる。

素敵ね、と思わず小さく呟いたら、あの子すごく嬉しそうに笑ってたっけ。

個人的にはもうしばらく王都には来たくないけれど、父さん母さんにはもう少しこっちのお屋敷のことも気にしてあげて、って言っておかないとね。


昨日の夜会で王都での用事は終了したものだと思っていたけれど、実は前世の感覚で言う所の大体一週間後くらいに新年を祝う集まりがあるとかで、父さんと母さんだけらしいんだけどそれにも出席しなければならないらしく、それが終わるまでは王都で滞在する予定らしい。

そういうことになっているため、ほかの主要貴族たちも勿論王都におり、あちこちでお茶会など催されている、と聞く。

ちなみに、うちは母さんが庶民の出だし、父さんも社交下手というか、ああいうの苦手でしょうから、お招きに預かることはあってもうちでは催さないそうだ。

大人たちがお茶会や夜会を開き、こどもたちも普段会えない遠い領の友達を自分のお茶会に招待するとかで、お兄ちゃんにはネルガル家とラ・メール家から招待状が届いたようだ。

・・・私?

だってほら、友達いないし。


いや、正確に言うと兄に宛てられた招待状に私も同伴で是非、となっていたらしいけど、体調があまり優れないので遠慮する、という事にしてもらった。


ふう、と大きく息をつく。

朝から思考が散らかっていて、落ち着きは取り戻しているはずなのに、まだ現実と向き合う気力が湧いてこない。


昨夜の竜をきっかけに思いのほか鮮明に思い出したミザリーの一連の死に様。

今の私が一番に向き合うべき現実。

バッドエンドだけは余さずこの手でフルコンプしたのに、よく今までうすぼんやりとしか思い出さなかったものだ。

・・・それだけ、現実味も興味もなかった、ってことよね。

でもその興味もない案件が現実に自分の死に様になってしまった今、そんなことも言っていられない。

回避率を上げるためにもっと思い出さなきゃならないのは分かってるんだけど、どうもそんな気力も湧かないのは、割と失点が重なった昨日の夜会を思い出すのが億劫だからだろう。

けれどきっかけが必要なのは明白で、では記憶を呼び覚ますきっかけとして使えるもの、というと、まさに昨夜の死亡フラグ大集合の夜会の記憶にほかならず、そんなわけで今現在何も考えずぼんやりする、という無駄の極致にいるわけだ。


ぼーっと、文字通り何も考えずに虚空を見つめていると、コンコン、と妙に硬質なノックの音が私を現実に引き戻す。


「・・・はい?」


だらしなくソファにもたれていた姿勢を起こして、ドアの外の誰かに返事をする。

もしも家族の誰かだったら、虚ろな顔でソファに伸びているところなど見られたらまたいらない心配をかけてしまう。

アルマなら少々だらしのない姿を見せても、多分まぁ目を(つむ)ってくれると思うんだけど。

しかし、ガチャガチャとかなりドアノブに手間取った後、やっとのことでそれを開いた来訪者は、家族でも侍女たちの誰かでもなかった。


「・・・ご主人?起きてます?」


薄く開いたドアの隙間から苦労して体をねじ込み、どうにか部屋に入ってきたのは領地のお屋敷でお留守番をしているはずのがーちゃんだった。

えらくドアノブに苦労していると思ったら・・・そりゃ鳥の足であれを回すのは大変だったでしょうねぇ。いくら三本あるとは言え。


「どうしたの、がーちゃん。あなたお留守番じゃなかった?」


真っ黒な鴉は苦労して開けたドアを足で押すようにしてきちんと閉めてから、そのままふわりと私の座るソファまで滑空してきて、その背に舞い降りた。


「いえね、今朝奥様が戻ってこられまして、お嬢さ・・・ご主人が元気がないから、こういう時はファミリアが必要だ、って仰せでして」


私の傍らにとまった鴉は、本人も何かよく分からないうちに母さんに連れてこられたらしく、そう言いつつも小首を傾げている。

なんとなく今朝領地のお屋敷で起こったことがリアルに想像できて、思わず苦笑してしまう。


「そう。ごめんなさいね、びっくりしたわよね」


「いや、それはいいんですけど・・・ご主人、元気です?」


ちょん、とソファの背からひじ掛けに跳び移り、がーちゃんが真っ黒な目で見上げてくるので、また苦笑してしまう。

鴉に心配されるなんてね。まったくファンタジー極まりないわ。

ちなみに、彼はずっと私のことをお嬢さん、って呼んでたけれど、ミアーニャに何か言われたらしく、それからは努めて“ご主人”と呼ぶようにしているらしい。

私は別に呼び捨てでも構わないんだけど、ミアーニャのファミリア教育は私が受けてる令嬢教育よりもさらにずいぶんと厳しいようだ。


「大丈夫、元気よ。問題ないわ。・・・ちょっとまぁ、あんまり思い出したくないことを急に思い出しただけだから」


「・・・そうですか。ならいいです」


「あなたのその必要以上に深追いしてこないところ、好きよ」


この子にして良かった、って結構な頻度で思うわね。

こういう何でもないふりに付き合ってくれそうなのって、猫兄弟だと多分ヴァイスだけだろうし。


「誰にだって一つや二つ聞かれたくないことくらいありますからね」


ソファーのひじ掛けにおなかをつけるようにして座りながら、がーちゃんがへへへと笑ってそう言う。

鴉なのに、なんか人間ができてるわね。


「がーちゃんにもあるの?・・・って聞くのは野暮よね」


「いやぁまぁ、これでも野生で生きるってそれなりに大変なんですよ?」


「そうよね。ある日突然住んでた木に雷が落ちたりとかね」


がーちゃんが不意に遠い目をして乾いた笑いを零す。

例の、ディートリヒの首に驚いて意識が飛んだ日。

あの日、私は初めて雷を呼んだらしい。

そして、その雷は裏庭の木に落ちた、と母さんが言っていた。

後で調べたところ、まさしく例の木に落ちていたのだ。

ちょうどがーちゃんがご飯か何かを探しに巣を空けている時だったからよかったけど、早朝か夕方以降の在宅時間だったら、と思うと今でも背筋がヒヤリとする。


「でもおかげさまで住む家も新しく見つかりましたし。前のよりもずっとずっと立派なやつが」


雷の直撃を受けて燃える自宅を思い出したのか、しばらく虚空を見つめて虚無になっていたがーちゃんが、過去から戻ってきてそう言うので私もうなずきを返す。


「そうよね。ルークが作ってくれたあの鳥籠、すごく素敵だものね。ガーランドさんの手作りの巣もおさまりがよさそうだし」


「いや、ええと、それではなくて。・・・あの、もちろんあの鳥籠も気に入ってますけど」


「・・・ああ。そっか、そうよね。おうちってあの領地のお屋敷。裏庭から本邸へ移ったなら大出世かしら?」


「そうですね。考えたこともないような大出世ですよ。・・・お嬢さんが、後悔してなきゃいいんですが」


わずかに苦みが混じったその声色に、私は手を伸ばして傍らのひじ掛けの上の鴉を撫でる。

鳥って正直触ったことなかったんだけど、割といい手触りなのよね。

犬や猫みたいにふわふわもじゃもじゃじゃないけど、こう、つやっとした手触りと言うか、それでいて羽毛感もある。

触りだすと癖になるかもしれない。


「ねぇがーちゃん?触ってもいいかしら」


思いっきり触ってから許可を求める形になったけど、事後承諾でも一応もらっておこうと声をかけると、がーちゃんはもう触ってますよね、という顔をしつつもはぁ、と気が抜けた返事をくれた。

ので、ひじ掛けから鴉を取り上げて膝の上に移し、もうちょっと本格的に触らせてもらうことにする。

鳥類だけあって、見た目より軽い。


「あなたの羽、綺麗よね。長い羽根が抜けたら取っといてもらえる?羽ペンにしたいのよ」


「ええ・・・もっと綺麗な色の羽の連中に頼んじゃいかがです?俺のなんて真っ黒じゃないですか」


「それがいいんでしょ?うっかりインクが飛んだって、汚れが目立たないんだから」


「ご主人・・・綺麗、って実用的って意味じゃないと思いますよ」


なんとなく居心地悪そうに、それでも逃げ出さず私の膝に置かれたまま、おとなしく撫でられつつ呆れたような声を出す鴉に、思わずちょっと笑ってしまう。


「なんかちょっと元気出たわ。母さん式の元気づけ方が効いたっていうのに若干の納得のいかなさはあるけど、ミアーニャとあなたはまた違うものね。これはこれでいいのよ、きっと。・・・さぁ、じゃあそろそろ観念して、お仕事にかかりましょうか」


ふう、と大きくため息を一つ。

思い出せることは、昨日の衝撃が残っているうちにできるだけ思い出しておかなければ。

――――ついでに、がーちゃんにも話してしまうほうがいいのかもしれない。

二か月に足りない程度の付き合いだけど、彼が思慮深くて懐も深いことはよく分かっている。


「お仕事、ですか。今日は何もないから、一日ついててやって、と奥様に言われたんですが。・・・ご主人、誰か偉い人と会うとかなら俺は置いて行ってくださいね?」


「大丈夫よ。誰にも会わないし公式には何もないのはホントだから。・・・あのね、がーちゃん。聞いてほしいことがあるの」


膝の上から私を見上げ、小首を傾げた鴉にちょっと苦くなってしまった笑みを向け、私はあの春の日に起きたことを語り始めた。







「つまり、今の話を総括すると、ご主人にはご主人になる前の誰かの記憶がある、と」


私の膝の上からこちらを見上げてくる鴉としっかり視線を合わせ、私は浅く顎を引いて肯定する。

真っ黒な中に沢山の小さい星のような輝きがある、宇宙みたいな目を瞬かせた鴉には、意外にも混乱した様子は見えない。

・・・内心ものすごく混乱してて、表情に出てないだけかもしれないけど。


「そうよ。・・・心の病気じゃないから安心して頂戴。でも信じられないなら全部忘れて。私も話さなかったことにして10分前までと世界は何一つ変わっていない演技で行くから」


「ええと、いや・・・信じてないとかそういうんじゃないんですが・・・にわかには、信じがたい話ではありますね・・・」


「やっぱりあなたは思慮深いわね。頭から否定して私を魔女・・・でなくてほら、狐憑き扱いしないし。それで、忘れちゃうほうが楽かしら?なにも害はないわよ。あなたは何も知らないし、私も何も話さなかった。それだけだもの」


「ご主人、が、それを話してくれたのは、必要だからですよね?・・・こんなこと言うと怒られるかもしれませんけど、俺の三本目の足と同じくらい秘密にしといたほうがいいこと、でしょうし。・・・それに、ご主人が心の病気だって言うなら、世の中の大半の奴がそうだ、って事になっちまいますよ。お嬢さんよりマトモじゃないやつなんて、ごまんといる」


このほんの二か月足らずの間に、私が彼を見ているのと同じように、彼も私をしっかりと見ていてくれたようだ。

最悪頭のおかしい人だと思われても仕方がないと思っていたけれど、若干困った顔をしているもののがーちゃんに私の正気を疑う様子はない。


「ありがとう。呑み込みにくい話だっていうのは十分承知してるわ。これだけ冷静に聞いてもらえただけでも正直なところ御の字よ。・・・でも、あなたが言った通りある意味必要な事なの。前の私の記憶の中に、今の私に関するものがいくらかあって、それがどれもあまり良いものではないのよ」


「前のご主人は・・・預言者の類ですか?」


「いやいや、そんな超常的な何かじゃないわよ。ただの普通の勤め人。・・・前の世界にあった娯楽なんだけど、大筋の決まった物語を自分が主役になって自分の好みに変えていく、っていう遊びがあるの。」


「ご主人がよく読んでる、物語の本の主役になる遊び、ですか?」


「んー、大体あってる。でね、自分が主人公だから、ある程度好きにできるのよ。それなりに努力は必要だけど、例えば婚約者がいる男の子を好きになれば、略奪してみたり」


「・・・それはいわゆるただの現実、では?」


「ええと・・・この世界では婚約が決まったカップルに横やりを入れて破談させるのは割と一般的な現実なの?前の世界でも婚約はなくなかったけど・・・あと略奪もなくはなかったんだろうけど、基本的に好きあってするのが婚約であり結婚だし、家同士の縁を優先した婚約、っていうのは、私の国では・・・なくはないけど少数派、かしら。まぁつまり、こことは全く違う世界だったのよ。そして、ここを模した疑似的な世界を作り上げて、その仮想の中で遊んでた、ってこと」


「分かったような・・・分からないような」


「まぁザックリでいいから聞いてて。そんな仮想の世界で遊ぶ娯楽の中に、今の私と婚約者候補になるかもしれない男の子たちの物語があったのよ」


「・・・ご主人、略奪は慎重に、ですよ?俺が昔住んでた森の近くにあった町、町名主の娘が男がらみで何かやったらしくて、地図から消えましたからね」


「消えた。地図から」


「はい。町名主の娘の婚約者の、元婚約者とかいう女が捕まったとかなんとか、後から風の噂で・・・」


「ぐ・・・具体的に何があったか聞いても?」


「はぁ・・・あんまりおススメしませんけど。――――どうやら婚約者の元婚約者・・・ってちょっとややこしいですね。つまり略奪されたほうの女、これがなんだか死霊使いだかそれなりに高位の不死者だかで、配下の死霊だか下位の不死者の群れだかが略奪したほうの女の町を襲った、って聞いてます」


「うわ・・・ファンタジーが臨界しそうだわ。え?ここって他人の婚約者を略奪するとバイオなハザードが起きるの?死者が歩くの?」


ここには銃も弾丸もハーブもタイプライターもないのに。

・・・いや、ハーブはあるかもね。


「ええ、死者も不死者も歩きます。夜中に大挙して。だからご主人、めったな相手の婚約者には手を出さないのが賢明ですよ」


「さすが怪物ランド。頭おかしいわ」


本来なら私が与える情報でがーちゃんが混乱すべきなのに、彼からもたらされた情報でこっちが混乱させられている。

いったん落ち着こう、と思ってティーテーブルからカップをとると、中身はすっかり冷めてしまっていた。


「でもまぁそこは心配いらないわよ」


冷めたお茶を一気飲みし、カップをソーサーに戻してから膝の上の使い魔にそう言うと、がーちゃんは小首を傾げて私を見上げる。


「・・・うん、そうかも知れませんね。ご主人って、うっかりしてるけど迂闊じゃない、って言うか、ちゃんと考えて動いてますもんね。本能のままに他人の婚約者を略奪してる姿が想像できませんし」


「ありがと、って言えばいいのかしらね?その評価はありがたく頂いておくけど、私は略奪される側だったのよ」


そう告げると、え、と言ってくちばしを開いたままがーちゃんが固まる。

何をそんなに驚くことがあるのか分からないけれど、何か彼の考えと私の告げた現実との乖離(かいり)が激しかったのだろう。


「ご主人が・・・婚約者をとられる側・・・?」


「そうよ。私は主人公じゃなくて、主人公に婚約者を略奪される女の役なのよ。だからまぁ、うちの領地が歩く死人で一杯になって、突如サバイバルガンアクションが始まる、という展開は未来永劫あり得ないわ」


銃も銃弾もタイプライターもないこの世界で、死者だか不死者だかと戦争する事態は避けられそうだ。

・・・それって、慰めになるのかどうか微妙なところよね。

あ、でも少なくともあ゛ーとかう゛ーしか言わない動く死体に齧られて死ぬ、っていう死に方としてはかなり底辺な死に方はしなくて済むっていうのはポジティブに捉えるべきよね。

しかもそのあと私もあ゛ーとかう゛ーしか言えない、同じようなものになるっていう事態も回避できるわけだし。


・・・待って。

少なくとも畳の上で死にたいじゃない、今回は。

いえ、畳はないからベッドでいいわ。ベッドの上で老衰とかで穏やかに死ぬのよ私は。

ゾンビに齧られるのも焼き殺されるのも選択肢にすら入れちゃダメでしょ。

いけない。色々ブレてたわ。


先ほど告げた、私は略奪される側、という純然たる事実が腑に落ちなかったのか、しばらくは何事かを考えていたがーちゃんが、ゆっくりと口を開く。


「さばいばるがんあくしょん、っていうのが何なのか俺には分かりませんけどね。一個だけ、“預言”をしますよ。俺は預言者じゃないけど、これは絶対だ」


「どんな?」


私が問うと、膝の上の鴉の目から光が消える。

そして、まるで真っ暗な穴のようなその目を私ではないどこかへ向けながら、預言、とやらを語る。


「ご主人の婚約者を奪うその“主人公”とやらと、そいつに(なび)く婚約者と。そいつらの暮らす地に、未来永劫豊かな実りはないでしょう」


「・・・んん?どういうこと?」


厳かに告げられた預言の内容は、私には理解のできないものだった。

がーちゃんてばやっぱり神が遣わした道案内の神鳥なのかしらね?

彼方のまだ見ぬ主人公と未来の婚約者へ透徹した視線を投げるのをやめ、ハイライトの戻った目で私を見上げる鴉は、ちょっと照れたように笑ってから私の疑問に答えをくれる。


「俺も伊達に野生で生きてない、って事ですよ。・・・ご主人、知ってます?鴉って、割合悪食なんですよ。肉でも魚でも虫でも穀物でも、腹の足しになるものは片っ端から食べる。畑に蒔いた種なんかも、掘り返して食べる。芽吹いたばかりの新芽なんか、遊び半分に抜いたりもする。俺たち割と、畑の嫌われもんですよ」


「・・・はぁ、そうなのね。・・・ん?もしかしてあなた、“略奪された女の手下”として町に攻め込む話をしてたり・・・するのかしら?」


「いやいや、さすがに鴉とほかの種族じゃ分が悪い。ただちょっと、その辺の仲間に声をかけて回るだけですよ。食事をするならあの町がいい、ってね。――――それに俺、鴉だけじゃなく他種の鳥にも多少顔がききますんで」


「ウワー・・・『鳥』じゃないの・・・」


私の脳内に再生されたのは、例の有名なアメリカの映画。

何百何千と集った鴉たちが黒々と渦巻くように飛ぶ様。

そして次々に人を襲うのだ。

あらゆる種類の鳥たちが、個としての命も顧みず、なぜそうするのか理由も分からないままに。


「鳥ですけど?」


私の膝からこちらを見上げてくるのは、くりっとした丸い目をしていて、何を当たり前の事を言っているの、とばかりに小首を傾げた黒い鳥。

意外と可愛いじゃない鴉も、なんて思ってたけど、意外と可愛いで収まるような生き物ではなさそうだ。


「消えるわね・・・町が」


私のつぶやきの意味が理解できなかったのか、がーちゃんがこてん、と逆方向に小首を傾げるのを見つつ、私はそっとアンジェラと未来の“元婚約者”になる誰かの安寧を祈った。



ブックマーク、評価ありがとうございます。

このほどOSのサポートが切れるので新しいPCに買い替えたところ、予測変換が予測のできない駄変換を連打してきてまして、誤変換の可能性がかつてないほど高まっています。

先日ご指摘くださった方、ありがとうございました。

あの後自分でも1か所見つけて直しましたが、多分他にもまだあります。

変換するたび思ったのと違う漢字に変えてくるので(変換~からここまで3回駄変換やられて変換しなおしました。なんだよ変換する旅って。どこ行く気だよ)、見逃してるのが一つや二つで済めばいいんですが、変な変換してたら馬鹿なPCとそのあり得ない駄変換を見落とす私を楽しく笑って楽しんでください。

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