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桃太郎と怖れられた桃姫、鬼の頭領に求婚される  作者: みかど もも


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3/3

三話


 __時が流れた。一時間ほど。

 剣戟は止まらなかった。互いにわずかな血が流れ、競り合っている。


「まともに戦える奴は、生まれて初めてだ」

「ああ、そうだ。何たる至福か!」

 どちらも一歩たりとも引かず、桃太郎は刀を。頭首は徒手の姿勢を崩さない。

「なあ、桃太郎。この時を永遠に刻みたいとは思わぬか? 我らは運命だ! 桃太郎……式を挙げよう。そなたと我の結納式を!!」

「普通に嫌だ」

 普通に嫌だ。これ以上ない本心に、鬼は少し沈黙したあと、眉を下げて困ったように笑う。



「なんだ。連れないことを申すな。落ち込むだろう」

「あいにく私は人の話を聞かない奴と結婚する気はない」

「我以上に妻の話を聞く男はおらぬぞ!」

「自覚がないならいい…」



 桃太郎は今一度、刀を斜めに構えた。

(ふざけた態度やノリで隠しているが……この男、ほんの少しでは済まない程度のやり手だ)

 苦戦するとはこんな気持ちか。桃太郎は「は……」と笑い、脳裏によぎるのは仲間達の顔。ちゃんと、人質でもある彼彼女らと共に逃げただろうか。

(よく行けて、相打ちか。だが、何としても持っていかねばなるまい。その結末に)

 __英雄になりたかったと思ったことはない。


 むしろできるなら、普通の、普通の村娘に……ほんの少しだけ憧れていた。




 二人の戦いは、三日三晩に及んだ。

 島が削れ、大地は抉られ、時に土砂崩れが起きた。二人は徐々に消耗し、水と炎が互いを打ち消すように、互いに消耗していった。


 走馬灯のようなものがよぎるようになってきた。幼い頃の記憶だ。

 独りぼっちだった桃太郎はいつも、木の上から村の者達を見下ろしていた。

"くるなよ、桃太郎!! お前と遊ぶと、負けてばっかでやなんだよ!!"


 __桃太郎を愛してくれたのは家族だけだった。でもその家族でさえ、桃太郎を拒絶した。

"熊を殺したのよ。三つの子供が!!"

 __母親が喜んでくれると思ったんだ。人喰い熊を殺せば、家族みんなが。そして、村の者達だって。



 染み込むような夕焼け。もはや、それが血なのか太陽なのかもわからない。

 桃太郎もそうだったが、鬼の頭領もそうだろう。終わりの時は近づいていた。

「桃太郎!! 結納式はどうする? 人は白無垢だと聞いたがな。やはり我は赤が好きだぞ! 赤!! 鮮血のように美しく」


 __暁の空に、呑まれてゆく。

 陽が差し掛かる。刀を持った桃太郎が、男に向かって陽炎のような一撃を放つ。



 血に塗れている。


 誰もが恐る、桃姫を。


 誰に愛されることもない怪物。


 唯一の同類である怪物さえ、たった今、桃姫が自らの手で仕留めるから。

「ああ………やはり、そなたは美しいなあ」

 血に濡れた頬を鬼が撫でる。己の血を帯びた鬼のような目をした女を前に、縋るように抱きしめた。



「美しい陽の色だ」

 うなじを抉ろうとしていた女の刀が止んだ。腕が僅かに震え、ほんの一瞬の迷いを生み出す。

(奴を、殺せ……)

 そう、理性で訴えかける。

 でも桃太郎の刃は動かない。


 __だって、知ってるから。


 この鬼を殺したとしても、自分は村の人々に認められるとは思えない。孤独の中、恐れられながら生きていくのだろう。


 人喰い熊を殺したときと同じように。



「………なんだ。そなた、意外と泣き虫だな」

 笑った鬼の頭領に、桃は少しずつ刀を食い込ませようと。

「愉しかった」

 __人生で最も、美しい花を見れた夜だった。刹那の間であったがな。

「なあ、愛しているぞ。桃太郎」


 どうか、我の嫁となってはくれまいか? ……そなたが望むのならもう、人は食わん。浮気もせん。酒も我慢する。共に、この島で末長く暮らさぬか?







 ___桃太郎は鬼を退治した。


 帝に数多の鬼の首を捧げた桃太郎は、貴族の地位に叙されることになり、数多の報奨金を賜った。しかし、彼女はそれら全てを返上し、たった一つの「些細なもの」を望んだ。




 それは、不毛の地の鬼ヶ島である。


 桃太郎は、数多の鬼の首を献上した。

 しかしその「頭領」である鬼の首だけは、その激しい戦い故に帝に差し出すことは叶わなかったと言う。


 桃太郎はその地でも武者修行に励み、その島は地形が数えきれないほどに変わった。

 時折、桃太郎と親しくしていた雉人族の霧火が訪れると、そこには時に弱り動けなくなった桃太郎もいただとか。


 そして、桃太郎「達」の度重なる修練の末、悟りを開くに至った桃太郎。その地がやがて御仏の祝福を受けた花々の地となったのは後世でも有名な「お伽話」である。




 以降。鬼ヶ島が「桃源島」と称されるようになった理由である。



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