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桃太郎と怖れられた桃姫、鬼の頭領に求婚される  作者: みかど もも


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一話





 __昔々あるところに。みんなから「桃太郎」と呼ばれる女の子がおりました。


 子供の時から剣術の天才で、誰よりも強かった桃太郎。彼女はみんなの為、鬼ヶ島で悪さばかりする悪い鬼を退治することにしました。




「ここが、鬼ヶ島……」


 桃太郎__本名は、桃姫。強さのあまり、周りの者達からそう揶揄される様になってしまった少女は、岩肌剥き出しのある島を睨みつけた。

「ああ、ここまで随分と長かったわね。私の羽色も変わっちゃうわ」

 お供の一人でもある、飛び道具の扱いに長けた雉人族の凄腕暗殺者、霧火が艶っぽく呟いた。


「いざ参るぞ。一刻も早く……」

「おいおい、嫁さんが捕まってるからって生き急ぐなよ、犬」

「誰が犬だ、貴様は猿だろう」

 きっかけは、ほんの些細な勘違い。助けた村の者達に「お供の犬と猿」として勘違いされ、そのまま広がった……狼人の雷仁と(自称)ゴリラ族のゴリランデ。

 おまけに妻に一途な雷仁と遊び人気質なゴリランデじゃ、お互いの強さは確かなものだが二人の気が全く合わなかった。


 まさしく犬猿の仲、言い合いをする真面目で堅物な狼人族の雷仁に、女好きのお調子者である猿人族(本人は誇り高いゴリラ族と主張)のゴリランデを毛嫌いし、ゴリランデもまた雷仁を毛嫌うようになった。



 喧嘩ばかりの二人の男子に二人の女子は呆れ返る。「どちらも置いていくぞ」とため息をついて先に進んだ。

「む。待て桃太郎! くそ、この猿め」

「うっせぇなぁこの犬!!」

「私は狼だ」

「俺だってゴリラだよ! ご、り、ら!!」



「……馬鹿どもに付き合ってられるか。日が暮れる。行くぞ、霧火」

「ええ、そうね。行きましょうか」



 まあ、そんな冗談はさておき。



 四人は各々の分野で突出したいずれも英傑達である。その四人は雁首を突き合わせ、鬼退治の方策を練った。

「いつもみたいに力技でゴリ押しは無理よ。ちょっとは頭を使わないと」

「ゴリラだけにか」

「ゴリラは黙ってて」

 辛辣に切り捨てる霧火。美女である霧火からのいじりにゴリランデはちょっとだけ嬉しそうな顔をする。


 桃太郎と雷仁はドン引きした。




「賛成だ。あれ程の鬼人族を前に正面からやり合えば、どれだけの犠牲者が出るか」

 頭目である桃太郎の言葉には、皆同意する。すると考え込む雷仁が指先を口に当てて呟いた。

「……そも、鬼人の当主を真に倒す必要はあるのか。取り返しが付かぬのは人の命だ。今回は討伐ではなく、囚われている他部族の者達の救出を優先しても」

「なんだ。嫁さん惜しさに怖気付いたか」

「違う!! 鬼ヶ島には奴隷として連行された様々な種族の者達がいる。彼らを戦いに巻き込むわけにはいかんだろう!」

 がなり立てる雷仁に、ゴリランデが「わあってるよ」と頭を掻く。

「奴隷達だけを解放するなんて、そっちの方がよっぽど厳しそうよ。……どちらにせよ、鬼達を止めるなり、殺すなりする別働隊がいる。最優先はやっぱり奴隷達が収容されてる収容所だけどね」

「収容は男女で分かれている。男は労役、女は鬼共の元だ」

「なら女の子達のところにはあたしが行くわ。潜入なら任せといて」

「労役の男達の所には私が向かおう」

 各々と役割を分けてゆく中、やはり倒すとまでは行かずともやらねばならないことかたる。


 __最凶と謳われる鬼人族の頭首の足止め、或いは撃破だ。


 この場にいる四人は皆武才には優れるが、だとしてもあの鬼の相手には躊躇いを覚える。

 死を恐れているわけではない。ただ、無駄死にとなることは耐え難かった。


 故に彼らの目は、一人の少女へと向けられる。



「__鬼の相手は、わたしが勤める」

 唯人でありながら、この一団の頭を務める女剣士、桃太郎。

 力強いその言葉に、仲間達は皆安堵する。

「は。桃太郎なら案外余裕かもな」

「バカを言うな。桃太郎殿、くれぐれもお気を付けください。代わりの効かぬ体です。御身を大切に」

「怖くなったら逃げても良いのよ。そしたらあたしが代わりに鬼人の若様を啄んであげる」





 桃太郎は頷くと、その鞘に手を当てた。

 正面から殴り込むわけには行かない。ならば、どうするか。

「潜入しかないわね。とりあえず、あたしと桃太郎二人が貢ぎ物の美女に扮して潜り込むの。桃太郎は一番やばい鬼の頭首をマークして、内側からの手引きはあたしがするわ」

「霧火、苦労をかける」

「なによ。一番働くのはあんたでしょうが」

 二人で鼓舞し合い、お互いに見つめ合った。

 鬼人族は定期的に美女達を徴収する。人の妻だろうと、娘だろうとお構いなしに。


 今回もそうだ。涙を濡らす女性達に紛れた二人の女戦士が、密かに耳打ちし合う。

「生きて帰るわよ」

「もちろん」

 微笑みあった二人は最後の別れを告げた。



(とは言っても、頭首の側にどうやって近づくか……)

 鬼の頭首は、大層な女好きだ。毎夜十人の女を抱いて酒池肉林の狂乱を開いているらしい。

 女好きなら、やはりその様なアプローチだろうか。



 だが、桃太郎は誰かを異性として愛したことがない。よって正しい迫り方も知らない。霧火に聞いておけばよかったか。

 元々一流の暗殺者であった彼女は、隠密行動の類にも優れている。


 子供の時から武芸一辺倒だった桃太郎とは違い、何かと器用で頼りになる仲間だ。

(まあ、しょうがない。もし無理なら、多少強引にでも引っ付いておくか。元々奴の足止めができれば良いのだ。多少疑われても何とかしよう)

 潜入は、たぶん上々。まんまと宴席の場に出入りする酌女の一人になった桃太郎は「桃子」と名乗り、酒を注いでいた。

(頭首や名のある鬼人はまだの様だな。雑兵ばかりだ)

 だが。その直後、黄色い声と野太い声上がる。



(__来たか。頭首)

 八尺近い上背。均衡の取れた精悍な赤肌の美丈夫が、酒を片手に美女を侍らせて登場した。

「我が同胞達よ! 愉しんでおるかな?」

 どかりと上座に上がり込んだ頭首が、一息で大杯の酒を飲み干した。


 尖る牙を剥き出しに大笑いする男は、側の女達を抱き寄せ、その口を奪う。そしてそのまま乳や尻を揉んだり、頭首自らが酒を使ってなだれ込む。

 淫蕩な宴、と言うのはあながち間違いではないらしい。

(……あとは、仕込みだな)

 鬼は、酒好きだ。それもめっぽう強い。だからああ見えて賢者なゴリランデと毒も使う暗殺者の霧火が仕上げた。



(__強力な睡眠剤)

 その効能が正しければ、あと三十分もしない内に鬼達は寝落ちることだろう。そうでなくても動きが鈍れば、こちらの動きが取りやすい。

「おやめくださいっ!!」




 __凛とした女性の声が響いた。



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