3 明け方の会話
ディルクは診療所を出た後宿に戻る気が起きず、村の外へ出ていた。ニコルとはじめてであった場所である。ここには人がいなく静かであり落ち着けた。
ディルクはふっと上を見つめた。頭上にはまだ夜の空が残っていた。東の方面では空が白んでみえた。
「ディルク!」
ニコルはディルクの後を追いかけてやってきた。息が切れて整える為に少しかがんだ。
「どうしたの? マリさんがあなたにもお礼を言いたいって」
「僕は何もしていないよ。それにしてもニコルの薬草を探し当てる能力はすごいな」
こつを教えてもらっても自信もって探し当てる自信がない。
「薬草に詳しいんだね」
「うん、小さいころから興味があってエーリッヒ先生に教えてもらったの」
村人には薬草摘みの仕事があり、簡単な薬草をみつけるのはできる。しかし、ニコル程薬草を見分ける能力に長けた者は早々いなかった。
エーリッヒはニコルの能力を高く買い、指導のもとで薬の調合の仕方を教えてくれていた。
「もう少し大きくなったら薬学の学校への推薦状を書いてもらう約束なの」
「それはいいね。薬師はどこにいっても重宝される。銀十字でも薬師は不足しているしね」
それを聞きニコルはぴんと背を伸ばして聞いてきた。
「それで、銀十字に入ることってできるかしら」
「ダメ」
ディルクは穏やかに笑って拒否した。
「僕が許さないよ」
たとえ銀十字が彼女を必要と言ってもディルクはそれを否定するだろう。
「むぅ………ばか」
ニコルは拗ねて頬を膨らませた。
その姿はかわいらしくディルクは思わず頬を緩ませてしまった。
やはり彼女には自分と同じ戦場に立ってほしくないと思った。
そんなディルクをみてニコルは真剣な面持ちで言った。
「私、今も諦められない。」
人狼のことも許せないし、この手で復讐を果たしたいと思っている。
「でも、あなたは私に銀十字に入ってほしくないのね」
「うん」
即答するディルクにニコルはため息をついた。
「銀十字になるには辛い修行を積む必要がある。生半可な修行では人狼に対抗できないんだ。体力的にも精神的にも強くならなければならない」
それでも精神的に病んでしまった狩人は多くいる。
中には精神病棟で看護と治療を受けなければいけない人もいるし、ディルクの同期にも病んでしまった。同期の入院は驚いてしまった。明るい人だったからなおのこと。
ニコルにはそんな世界に入ってほしくなかった。
「あなたはそこまでして狩人になったのね」
ディルクは複雑そうに笑った。
「ねぇ、もしよければ教えて。あなたはどうして狩人になったの?」
「僕の話なんて聞いてもつまらないよ」
「それでも教えて。銀十字の狩人になるにはどれだけの覚悟が必要なのか知りたい」
その内容次第では諦めるからというニコルにディルクはわかったと頷いた。
「僕の場合は覚悟じゃない。必要だったんだ………証明することを」
何の証明だろうかとニコルは首を傾げた。
「僕とはじめて会ったとき君は言ったよね」
ディルクは自分の髪を摘まんで言った。
「僕を人狼と疑った理由は銀の髪だって」
ニコルは慌てて謝った。
「ごめんなさい」
「うぅん、いいんだ。実際銀の髪の人狼は多く、銀の髪の人は珍しい。おおざっぱにそれで区別する人は多いと思うよ」
だからニコルが悪いというわけではない。
「僕はね、疑われたんだ」
人狼に。
「そして狩人に狩られそうになった」
ニコルは右手で口を覆いどう反応していいかわからず困惑していた。
「この話はやっぱりやめようか」
「うぅん、聞かせて」
ここで耳を塞いではならない。
ニコルはそう自分に言い聞かせディルクに話をせがんだ。




