2 特効薬
クルス村には小さな診療所がある。唯一の医療機関である。そこには老年のエーリッヒという医師と助手をしている娘のサラが二人で切り盛りしていた。
製薬は主に二人でやっているが、ニコルに計量などを手伝ってもらっている。
ニコルは薬草の見分けが村一番であり、村人たちが集めた薬草の鑑別をお願いすることが多かった。多くの薬草を見分けられる彼女にルネス草を見つけてもらうように依頼した。
「先生! ルネス草です」
これで特効薬がつくれるとニコルは村に到着して診療所へ飛び込んだ。
テッドの診察中であったエーリッヒは飛び出してルネス草を見つめ、間違いなく本物だと頷いた。
「早速作るぞ。サラ、湯を沸かせ」
「はい」
ああかじめ準備していた調合の道具を前にエーリッヒは材料を測り薬作りを始めた。
ニコルの後を追いかけたディルクは診療所の中をみて特効薬作りで忙しそうにしているニコルたちに声をかけれずにいた。
ベッドには皮膚が痛々しい程黒くなり、細い呼吸しかできなくなった少年をみやった。
これが黒皮病か。
もはや治る病気と言われ恐怖の認識はだいぶ薄れた病であるが、このように幼い子供に罹ればひとたまりもない。猛威を振るうそれはどれだけ少年を苦しませているだろうか。
母親のマリはトーマスの手を必死に握り神に祈りを捧げていた。
ここで、僕ができることはないな。
邪魔にならないように診療所の隅で中の様子を見つめていた。ジルケはい辛い為落ち着いたら家に来るようにと言い残し家に帰った。
先ほどまでカトラ丘を同行していたラウラはトーマスの傍に近づき声をかけた。
「今薬を作っているから頑張るのよ」
そういいながらトーマスの汗をぬぐった。
「強くなりたいんでしょう。また、稽古しましょう」
震える声を必死に抑え、ラウラはトーマスの傍で励ましていた。
ようやく完成した薬を煎じ、トーマスに飲ませた。時間をおいてゆっくりと飲ませ、診療所にいる者たちは薬の効果が現れるのをひたすら願った。
朝方になると黒い皮膚の色は少しずつ弱くなっていった。呼吸もだいぶ落ち着いてきている。
「薬の効果が出てきたようだ」
まだ安心はできないが、後は本人の体力を信じるしかない。
「体力なら大丈夫。私が鍛えていますから」
ラウラははっきりと言いトーマスの髪をなでた。
「本当にありがとうございます」
床をこすらんばかりにマリはエーリッヒに頭を下げた。
「皆さまのおかげです。なんとお礼を言ってよいやら」
「いえ、まだ安心は早いです。後遺症がないかしっかりと評価しなければなりませんし、場合によっては都市の病院へ送る必要があります」
実際、トーマスの症状はすぐに都市部の大きな病院へ送る必要のあるものであった。しかし、周囲狼の出る森に囲まれ、森を出ても都市部まではかなり時間がかかった。高熱と呼吸苦で苦しむ少年を移動させるのは逆に危険であった。
「ニコルちゃんもありがとうね。君がいなければルネス草は手に入らなかった」
「いいえ、私一人じゃ。ディルクたちが連れて行ってくれたからです」
そういいニコルはディルクの方へ視線を向けたが、彼の姿はなかった。
窓の方をみると彼の姿がみえニコルは慌てて診療所を飛び出した。




