すみませんでしたぁ!
正直言って、ごめんなさい!真鍋先生!ミーちゃん先生の方が分かり易く教えてくれてる。
1時間目終了のチャイムと同時にそう思ってしまった。
「2時間目の授業は、元々立て続けの英語の予定でしたが、急きょ学級活動の時間とし、皆さんの自己紹介等をしてもらいます。簡単なものでいいので、10分休みの間に少し考えておいてください。」
先生は、そう言い残して去っていった。さて、10分休憩となったが、次は移動教室でもなければ教材が必要なわけでもないので大半の生徒は寝たり、他愛のない話をして過ごしていた。そんな様子を眺めていると、双葉が俺の元にやって来た。
「ねね!リオ、”ミーちゃん先生”って凄く可愛いニックネームじゃない?いったい誰が考えたんだろ~ね?そんな天才的な人、このクラスに居るのかな~?誰がわかったりする?」
と、ニヤニヤと演技が下手くそなのかなんなのかはしらないが、聞いてきた。おい、双葉。伊達に幼馴染してる俺じゃないぞ?こんなのいとも簡単に分かる。俺は、自信たっぷりに
「おまえだろ?どーせ、こんなアホっぽい名前を考えられるのは、おまえ以外銀河中どこを探してもいない!本当、やめといたほうがいいぞ?先生少し嫌がってなかったか?」
と、きっぱり断言した。しかし、むむ…双葉の様子がおかしい。そして、俺の幼馴染はこう言った。
「あー、リオ!日向ちゃんに対してそんな事をいうの?!」
と、やや引き気味に言った。
しまった…深読みしすぎたのだ。更にいうと、まずい状況だ。周りの人達からの視線が痛い。今の状況は、端的にいうと、詰んだ。ハイライトは以下の通り。
試合開始0秒:双葉の質問
20秒:先生のあだ名について俺が色々文句を言った挙句、名付け親を馬鹿にする
40秒:周囲からの視線
45秒:双葉の勝ち点3で試合終了
なお、アディショナルタイムは無し。
今、俺は双葉のいう日向ちゃん(つまりは、他の人)を間接的だが、馬鹿にした。
しかも、日向ちゃんというのは、クラス…いや、学年のアイドル的存在の俺のクラスメイトである。
今、俺は桃山日向の悪口を言った。
周りからはそう捉えられている…つまりは、数日後には学校中を敵に回しかねない発言をしてしまった。社会的にも物理的にも消されてしまいかねない。
すぐに、
「ばーか、おまえが名付け親だったらの話だよ。最初に言っただろ?”もし、おまえが名付け親だったら”って。おまえが考えたイコール馬鹿げたこと。別に桃山がアホとか馬鹿とかは言ってない。」
と、記憶捏造やイチャモンなどをつけて言い返した。これで、誤魔化し切れたかな?いつもは山坂がいて助けでくれたりするのだが…
「なにそれー!ひどーい!私がまるでお馬鹿さんみたいじゃん!」
かかったなと思うと同時に、やはりお馬鹿さんだよおまえは…と思った。
「やーい、双葉のばーかばーか!」
思いっきり周りを気にせずに小さい時のように言ってやった。あいつも、
「あー、バカって言ったほうが馬鹿なんだってリオのお母さん言ってたよ!」
と、食らいつく。高校生にもなってこんな子供っぽい喧嘩をしているのは恥ずかしいが、同時に懐かしい気持ちにもなる。
周りが”痴話喧嘩か?”とか、”夫婦喧嘩だね!”とかニコニコ見守ってくるのはウザイが、双葉との昔となんら変わりないやりとりが好きだった。
そのあとは、ただの”馬鹿”の言い合い合戦となった。相変わらず外野がうるさい。しかし、その終止符は、すぐに打たれた。
「リオがバ…」
双葉のターンの時に急にあいつが黙りこんだ。何かと思い、奴の視線を辿っていくと、俺の頭の上に来ていた。唾をごくりと飲み、後ろを見ると、ミーちゃん先生が立っていた。別に怒っている様子はないが、やはり焦る。
目が合うと、
「もう授業始まるのですけど、そろそろよろしいですか?」
と、破壊力抜群の笑顔で聞いてきた。今その笑顔はやめて欲しい。惚れちゃう…俺は、双葉と目を合わせ、言った
「「すみませんでした!」」
と、仲良く。揃って頭を下げた。