日常を求めて 2
「……何のつもりだ」
今、俺は信木の襟を掴んで問いただしていた。
現在正午を指す、世間一般でお昼時だった。
学校初日から授業がないのは良いのだが、現在俺は駅前にて信木の首を締め上げている。
「なあ信木、昨日確か『映画を男二人で見よーぜー』って言ってたろ?」
「あ、ああ言った言ったギブギブギブ!!」
俺は強さをあげる。
「これが仮に沢上や柴田なら分からなくもない。ないんだよ」
「ぎ……ギブギブッ!」
さらに力を込め、
「なのにな、なのに、だがな––––」
俺は上に持ち上げ、
「なんでマオとユウカ来てんだよ馬鹿野郎!」
と力強く投げ飛ばした。
「……いっつ…あのなユウマ、マジで男2人むさ苦しいから鼻をだな…」
「……もういいや、別に」
結果として俺と信木、さらには文坂、そして麻央と優華の五人で粉吹市から三駅先の都心にやってきた。理由は『映画館やゲームショップ等のアミューズメント施設が粉吹市には少ない、あるいは無いから』だが……
「……それよりやっぱ電車高くね? 往復で千円札無くなんじゃねーか?」
と財布の中を確認するが、給料日前なため一万あれば良いほどに少ない。
若干涙目になる中で、腹すかせた信木はバーガーショップを進めてきた。
「いやあジャンクフード万歳!」
男女で対称に座り、注文した百円三個のバーガーを頬張る。やはり百円なだけにシンプルで、しかしこの肉と言いパンと言い、俺の口は幸福に満たされていた。変にトッピング高い一個より、安いのを多く買った方が経済的なのに、ゆとり世代め、親の小遣いで良い奴頼みやがって。妬ましい。
「………ユウマ、食べる?」
と本当は若干羨む俺に優華は口付けの、肉二枚重ねのトマトとレタスバーガーを口元にグッと近づけられる。恥じらいの無いお嬢様は置いといて、正直CMでも話題となったとある農家のトマトは気になっては居たため特に遠慮無く一口もらった。
「……ん、うまいなユウカ」
と率直な感想を述べるが、意外な事に優華は赤面してちまちま食べていた。いや恥ずいならやるなよ、と心の中で突っ込んでいると、
「ユウマ、あたしの食べて!」
「お前はよく考えてから発言しろよマオ!」
と今度はもらう前に俺が赤くなってしまった。
そんな俺達を温かい目で見る信木を後で血祭りにあげたいと心から思ったのは言うまでも無いだろう。
「……信木、あーん」
と今度は文坂が信木に口付けのチーズバーガーを、これまたゆっくりと近づける。どうもすでに声にする前から恥ずかしさが滲んでいたが、やはり信木は予想を裏切らなかった。
「あ、悪―な!」
と目線が外れた信木は、何を血迷ったのかひょいっとまるごと齧り付き、それをあっけにとられた俺たち三人は、ブリキのようにグググッと、油の差されていない機械のように、内心すごく向きたくなかったが、文坂の表情を見た。
文坂はニコッと笑顔絶やさなかった。一見間違ってなかったと安堵をしたのもつかの間、どこから出たのか突然の『フライパン』が、信木の脳天を大きく強打した。
「……これ、小、中学校での都市伝説『突然現れる超常フライパン』。ずっと一緒だが未だ分からないことの一つな。本当に手ぶらなのに、風呂場でもいきなり投げつけられる、命名《ギャグ漫画の突っ込みフライパン》!」
と大きなたんこぶを作りながらの熱弁に、同情の余地も無いまま、機嫌を損ねズカズカ歩く文坂と宥めるマオとユウカの光景の方を同情した。最近知り合ったとはいえ、大体がマオとユウカを宥めたり励ます文坂の図がよくあったので新鮮だった。ま、機嫌損ねさせた本人は特に何も感じていないからしばらくは無理だろうなと理解してはいる。
「――で、何見るよ?」
と不意に聞かれ、いつの間にか映画館の前にいたことに気づき、今ある映画を見る。
「ん~、前に来た時って実写化した『撤退妖精』だったな。今って何がアニメ的に熱いと思う?」
「そ~だな、やっぱ四クール超えした『白線のブラッド』とか、あとは『気まぐれ』なんてどうだ?」
「あ~、悪くねーな。さてと……お前らは決まったか?」
あらかた見たいのは決まったため女子の方を見ると、絶賛討論中だった。
「『スキマに君と』って結構話題よ! ラストなんか隙間で……見るっきゃ無いって!」
「いえいえ麻央、『紅の誓い』は欠かせないわ。冒頭で血のつながらない姉弟が……きゃ――! 言えないわ! これは見ないと言えないわ!!」
「………『プラスチックポケット』、機械の女の子と…見るべき……!」
「……何か内容かなり知ってね? これ見る必要あるんだろうか?」
「女は分かんねーよ。それより俺らは『ソードクラッド』見ようぜ! まさかもう上映してたなんて驚いたぜ!」
「お、じゃあ行くか!」
女子は女子で、男子は男子で見た方が充実するだろう。そう思い券を買いに――
「「「どこいくの?」」」
瞬間掴まれた。振り返ると俺はマオとユウカがそれぞれ手首を、そして信木は文坂に襟を掴まれていた。
「……どこ行くのユウマ?」
「………さ、どれがいいか教えて?」
ユウカは先ほど話題に出た三つのパンフレットを俺と信木に提示する。ひとまず解放されてパンフレットに目を通すが、どれも甘ったるそうな恋愛ものだった。
「……ま、好みは合わないし、オレとユウマはアクションもの、綺紀と優華さんと麻央さんは恋愛ものをそれぞれみようぜ」
俺も信木に生賛同しようとし、だが俺達は凍り付いた。
文坂の後ろに隠れた右手は絶対フライパンのようなものを持ち、ユウカは無表情にパンフレットを細くした棒で突きつけ、麻央に至ってはもう笑顔だけで訴えていて、ま、降参であった。
結局として、結果として実質二回見ることとなり、先に『ソードクラッド』を見て、その後『スキマで君と』を見た。
「……タイトルで侮ってた。あれ名作だったぞ」
ラストの告白シーンでマジ泣いた。え、ヒロト、スキマで何感動呼んでんだよ。もうよく分からない『スキキミ』のマスコットキーホルダー買っちゃっただろうが。四百八十円しただろうが。
「あー、寝ると思ってたぜオレも。だけどヤベーよなヒロト!」
と珍しく実写系恋愛作品に同意を求めようと綺紀に振ったようだが、そこに女子一行はいなかった。と、トトトッと駆け足で三人は何かを抱えてやってきた。
「……『テル』のキーホルダー」
「い、いいでしょ別に! ああ面白かったわよ! 信木が興奮するアニメだからどうせエッチな奴だと思ったけど……テル~、なんで死んじゃったの~」
とどうやらぶり返したようで涙目になる文坂を信木はポンポン頭を叩きながら慰める。確かに今回アクションだけじゃ無くオリキャラとの恋愛模様見せて、最後身を挺して主人公護って消えたのはかなりくるものがあった。
「……で、何だよ」
と先ほどから二人して俺の頬にグイグイ、デフォルメされたぬいぐるみを押し受けられて困っている。よく見ると『ソードクラッド』メインヒロイン二人の映画版装備だった。
「ど、どっちが好きなの?」
「………選んで」
とようやく話してくれた人形を見る。
麻央が持つのは『おてんば姫のハルナ』、対してユウカは『クール系剣鬼カズハ』。
「…………」
ああ分かる、こいつらの思考はよく分かる。これどっちか選んでもいい結果来ねーなきっと。
「お、くれるのかありがとさん」
「「あ」」
なので俺は両方取り上げて、先に進んでしまった信木達を追うことにした。あいにく連日言われる身で『鈍感男子』を演じるにはこれぐらいしか無いだろう。
振り返れば落胆する二人だが、互いにもう片方の手に持つぬいぐるみを見て笑い合うと、案の定、『選ばせた方と真逆のキャラ』を手にしたまま追いかけてきた。




